第17話 夢 神災VS神災
野宿を回避した三人は洞窟の隠し部屋を利用して寝る事にした。
やはり慣れない環境で神災竜を制御し続けた反動か里美とエリカは神災竜姿の紅のお腹を背もたれにして尻尾を布団代わりにして気持ち良さそうに一足早く寝ていた。
紅のハイテンションとローテンションに突き合わされたのだ。
二人の女の子が疲れるのは当然である。
だけど何だかんだそんな振り回される日常が好きな二人にとってはいつものことで体をくっつけて並んで寝るほどに口ではなんと言おうが仲良しな二人。
そんな二人はよく理解している。
紅の原動力と才能について。
「ふぁ~、眠い……俺も寝るか」
一人起きては明日以降どう俺様妄想シリーズを披露しようか考えていたこのゲーム世界において最も危険な存在がようやく眠りに付いた。
■■■
夢――人は誰でも夢を見る。
それは現実世界でもゲーム世界でも変わらない。
エリカ曰く、夢とは。
脳内に蓄積された過去の記憶や直近の出来事が脳内で整理され、それらが睡眠時に処理され映像となったものである。
故に夢とはその者が持つ情報と記憶の数だけ存在しそこに心身の内部的な状態を反映させたものだとも言える。
例えば同じ経験をし、同じような感情を抱いたとしよう。
すると同じような夢を見てもエリカの理論上はなんら不思議ではないと言える。
実際に里美とエリカは今まさに同じ夢を見ていた。
「その程度ですか?」
「……俺様裏シリーズがコピーされただけでなく、俺以上に使いこなすとは」
装備やアイテムが限定された環境下で一人の少年がボロボロになって、
彼女は朱音の背中を負い、紅がゲームをしていない間朱音そして紅の背中を負い前回の
「これ。私の特別製なの」
手に持った
「火遁の術」
聖水瓶に向かって放たれた火の球が空中で接触し大規模な爆発を起こす。
「ウワァぁぁあぁ!!」
紅のHPは赤色で殆ど残っていない。
銀色の髪をしたプレイヤーの後ろにはまだ三人の世界ランキングを持つプレイヤーが控えている。同じプロと言う土俵に立つ里美は師匠である朱音に全ての動きが読まれ攻撃が通じない。エリカのアイテムを利用した攻撃のコンボをアイリスとアリスの姉妹のコンビの前では通じない。
イベント三段階目の序盤にして対峙することになった。
本イベント最注目カードは期待外れの結果に終わろうとしていた。
「紅!」
「紅君!」
チームプレイを阻止するため完全に分断させられた里美とエリカでは紅を助けにはいけない。どころか二人も既に瀕死で自分のことだけで手一杯だった。
人気者に降りかかる災いは大きな爆発音に呼ばれるようにして小百合がゆっくりと戦場に近づいていた。
実力者を引き寄せてしまうあまりにも不運としか言えない男はそんな環境下でも笑う。
「えへへ、面白れぇ」
誰もが諦める状況下で、吹き飛ばされた身体をゆっくりと起こして両足に力を入れて立ち上がる。
誰が見ても絶体絶命的な状況下で少年が微笑む時……神災が進化する。
「たしかに今の俺に扱える俺様シリーズは全部通じないし、それどころかコピーされて倍返しはマズイ」
「次で終わらせてあげる」
「だが」
確実に紅を倒す為に一歩踏み出そうとした足を止め、警戒心を高める女プレイヤー。
変幻自在模倣二刀流剣士である彼女は知っている。
「…………ッ?」
追い詰めれば追い詰めるほど目の前の男が進化することを。
――ッ!?
僅かな気配から何かを感じ取ったのは碧だけではない。
碧とチームを組み紅、里美、エリカの三人を同時に追い詰めていた朱音、アイリス、アリスもだ。
三人は目の前にいる少女に最後の一撃を加えることを諦めて一直線に紅に向かって走り始めた。
「碧!」
「わかっています!」
遠く離れていても近くにいるように紅の些細な変化に気づく。
つまり今紅に向かって走っている三人は常にそこに気を配る程度には余裕を残していたわけだ。
圧倒的な実力差に下唇を噛みしめて悔しがる里美となんとか助かったと安堵するエリカ。
「俺様妄想シリーズ――」
それは戦闘用と非戦闘用が存在し――そのどちらもが――。
「「はっ!」」
里美とエリカが目を覚ました。
なにか良からぬことを感じたように。
「……むにゃむにゃ、えへへもう食べれないって」
顔を滴る汗を拭って背中越しに二人が紅を見ると平和な夢を見ているようだ。
「……よかった」
「もしかして里美悪夢でも見た?」
「う、うん。紅が狙われる夢。その様子からエリカも?」
「えぇ……」
これは予知夢かそうじゃないか……。
この時二人はこれが現実に起きないことを心の中で願い、再び深い眠りについた。
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