第4話 美紀が一歩リードしている模様


 ガチャ。

 扉が開き、エリカの部屋に蓮見が入って来る。


「あれ? 二人共そんな近くで……イチャイチャ?」


 いいなぁー、と少し心の声も漏れる蓮見に対して。


「違う」


 美紀がすぐに否定し、


「そうよ」


 エリカが肯定し、


「コイツが美人なのがいけないのよ!」


 美紀がエリカを褒め、


「この子が可愛いからいけないの!」


 エリカが美紀を褒めた。

 なので言葉の意味が分からない蓮見は首を傾けるしかできなかった。

 性格的に難しいことは深く考えない蓮見はそのまま美紀とエリカの僅かな隙間に強引に身体を入れて座る。

 鼻腔を刺激する甘い香りは美紀とエリカが昨日使ったシャンプーの匂いである。

 心の中で幸せを感じた蓮見はスマートフォンを取り出して早速本題に入る。


「これ、三人ででたい!」


 その言葉に美紀とエリカがスマートフォンを覗き込む。


「『時を超えた時空』イベント」


「今度開催のイベントね」


「蓮見君が自分からイベントに出たいって珍しいわね」


 エリカの問いかけに涙目で蓮見は訴える。


「昨日……今月からお小遣いなしって母さんに言われて……お金がないんです!」


 美紀とエリカ。

 つまり。

 恋人と義姉の痴話喧嘩を放置し一人夢の世界に居た代償としてニートにあげるお小遣いはないと宣告(説教)を喰らったのだ。

 ゲーム内だけでなく現実世界でも無一文の蓮見は母親に土下座してチャンスをくれと言った所「働け」と言われてしまった。

 仕事がないんです! と現実的な反論する蓮見に母親は二人の仲が今より良くなったら考えると言った。

 そんなわけで蓮見はお小遣いのため、普段なら受験日でも寝過ごすような男でありながら今日は朝早く起きてここにやってきたわけだ。


「出場理由がよくわからないけど幾らいるの? お小遣い私があげようか?」


 エリカは小さな鞄からお財布を開ける。

 蓮見がチラッと見ただけで諭吉さんが五、六人見えた。

 それに野口さんもいた。


「私たちのせいでそうなったのなら流石に可哀想だからね」


「はぁ~、それなら仕方がないわね。普段幾らもらってるの?」


 普段なら甘やかすなと言う美紀も申し訳なさそうにお財布を取り出す。

 チラッと再び見る蓮見は絶句した。

 自分だけが無一文で二人はお金に困ってないのか! と。

 美紀は中等部の頃から賞金がでるゲーム大会で入賞しており、中学生にして年収数百万。プロになった今はそれを超えている気がした蓮見は自分が美紀と釣り合わないんじゃないかと少し不安になってしまう。さらに目の前にいる義姉のエリカも経路は不明確だが財産は結構あると今の一瞬で分かってしまった蓮見は自分の愚かさを思い知った。


「答える前に美紀一つだけ聞いてもいいか?」


「なに?」


「プロになって仕事が全くないんだが、美紀って実は結構仕事あるの?」


「まぁ……そこそこにね? ってもほとんど大会入賞のインタビューとかよ?」


 経済力の差は実績にあると知った蓮見は言う。


「なら二万円ください! それで母さんがいない日はしばらくコンビニで耐えれるので!」


 遊ぶお金ではなく、今までの経験上リアルを優先する。

 料理できない男は死が直面する可能性を最優先で回避するための資金提供を受けることにした。そこにプライドはない。変なプライドにこだわって空腹で苦しみたくないからだ。

 まずエリカから一万円、そして美紀から一万円を受け取った蓮見はガッツポーズ。


「良し、これでしばらくは生きれる!」


 月末が近く母親がしばらく家から離れそうな雰囲気を感じとった蓮見は心の底から喜ぶ。カップ麵生活はこれで回避できる、と!


「ご飯なら私が――」


 エリカの言葉を遮るようにして。


「私が作る。だから安心しなさい。そのお金は好きに使っていいから」


「美紀! 大好きだ!」


 むぅ、と頬っぺたを膨らませて嫉妬するエリカ。

 美紀に抱きついて喜ぶ蓮見と頬を染めながらそれを受け入れる美紀の姿はエリカにとっては嬉しくない光景だった。

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