ファイナルアンサー
@Tokiu-2023
ファイナルアンサー
「もし明日地球が滅亡するなら、君は何をしたい?」
こんな突拍子もない質問はベランダで星を眺めながら聞くことではない。だからと言ってこんなことを聞く機会なんてあるだろうか。
「明日か…それは困るな。」
彼女はこちらを見て微笑む。白い吐息が彼女を優しくも包む。
「だって、明後日には君と式を挙げるんだから。」
「…確かに。そうだね。」
彼女は二日後に私の妻になる。私の心は彼女だけのもの。けれど彼女の心は私のものにはならない。名前も年齢も分からないが、彼女はずっと誰かを待っている。私はその誰かが恨めしく、羨ましい。
結局、彼女は何をしたいか答えてはくれなかった。そもそも答えなんて聞きたくなどない。私は意地を張ったのだ。それでも私の心は知りたかったのだろう。その日は妙にリアルな夢を見た。彼女の夢だ。
夢の中にいる彼女はとても静かだった。私が手を差しのべてもその手を取ろうとはしない。椅子に座ったまま、私の呼び声に反応することはなかった。少し目を逸らすと今度は彼女がまっさらなウエディングドレスに包まれていた。彼女には白がよく似合う。けれどその白は私には似合わないらしい。
彼女が振り向いた先には白いフロックコートを着た男が立っていた。その男は一歩前へ出て手を差しのべた。
「向かえに来たよ。」
彼女はニコリと笑った。今にも涙が溢れそうな顔で。彼女は立ち上がり、その細く綺麗な手を男の手にのせた。
「来てくれたんだ。嬉しい。」
そう言った彼女の手を取り男は目一杯抱きしめた。そうして共に泣き、共に笑った。
その時私はこう呟いた。
「ああ。明日世界が終わってしまえばいいのに。」
朝六時。日の出には少し早い時間。彼女はもうベッドにはいない。私はベッドの上で涙を流していた。彼女がいなくなる夢を今もなお鮮明に覚えている。彼女を向かえに来た男も、彼女の表情も、それを見て私が言った言葉も。
私は…私は今日が来ないでほしいと思っていた。その人に彼女の前に現れてほしくなかった。その人よりも先に彼女の心を私のものにしてみせたかった。彼女が他の人のものになれる最後のチャンスをなくしたかったんだ。
彼女にあんなことを聞いたのも、彼女の本心を知りたかったから。彼女がいつかその人のもとへ行きたいと願っているのではと思ったからだ。地球が滅亡でもしない限り、優しい彼女は私のもとを離れようとはしないだろうから。
彼女との出会いも、彼女と過ごした日々も、どれも最高に楽しかった。けれどもし彼女がそうは思っていないのだと考えると、私はとても悔しい。彼女は…彼女にはこれからも愛しの人であってほしい。
「…ハワイに行きたいな。」
両手に持ったコーヒーの湯気を纏いながら彼女は呟いた。その突拍子もない発言に思わず聞き返してしまう。
「ハワイ?」
「昨日の質問の答えだよ。」
彼女はニコリと笑って話を続けた。
「私が通ってた女子校の同級生で一人だけ連絡の取れない子がいたんだけど、今はハワイに住んでいるみたいなんだ。だからもし地球が滅亡するなら会いに行きたくてね。」
女子校の同級生。それが彼女にとって、僕にとってのその人の正体だった。なんだか一人で勝手に騒ぎ立てていた自分が恥ずかしい。彼女にこの話をしなかったのは正解だったようだ。
「それじゃあ今度の休みにでも訪ねてみたらどうだい?」
「何をいってるんだ。君も一緒に行くに決まってるだろう?」
「なぜ私も一緒なんだ?」
「行くだろう、ハネムーン?」
ファイナルアンサー @Tokiu-2023
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