8-17 名探偵真一少年の名推理だった
転移で戻ったところ、まだ帝国は獣人キャンプまで来てはいなかった。
そこでポーラさんやヤロイさんのような各種族で残った中での代表や勇者など、主だった者を集めた。
「帝国が来るって、どういうことだい?」
「帝国はミスリル鉱床に向かうんだろ!?」
しかしいきなり帝国が来ると言われても、みんな信じられないようだ。
もちろんその『みんな』の中に、全員を連れて行ったネコ系獣人の派閥はいない……やっぱそういうことなんだろうけど、今はそれについては置いておこう。
「それは誤情報です。帝国の狙いはドワーフです」
「ですがマスター、さきほど話したように、帝国がドワーフを狙うのは割が合わないと思いますが……それを押してまで攻める理由があるのですか?」
急いで戻ったから、まだ三人にも説明していないのだ。
俺を抱えるニケにうなずいてから、みんなを見渡した。
「僕たちの仕入れた情報によると、今帝国は新しい武器を作ろうとしているのです。その完成のためには、ドワーフの知識が必要なのだと気づいたのです」
「主殿、新しい武器というのは……」
ああ、そうだよルチア。
お前が教えてくれた、鉄砲の完成のためにだ。
俺も以前、銃を作ることを考えてみたことがある。
銃の仕組み自体はなんとなくわかる。もちろん細かい部分でベストな形状などは無理にしても、ある程度形にはなるだろう。
しかし、どうしても行き詰まるポイントがある。
それが火薬だ。
それらしいものを見たことはなかったし、こちらの世界には火薬はまだないと思っていた。
俺が作れる粉末無属性魔石などでも代用はできるだろうが、大量生産が難しいしコストがかかりすぎる。
だから大勢に銃を使わせようと思えば、自力で火薬の生産方法を確立せねばならない。
そこでまず目指すべきものは、黒色火薬になる。
地球において、現在銃火器には無煙火薬というのが使われているようだが、作り方など全く想像がつかないし。
だが黒色火薬も炭、硫黄、
調合方法や配分量を研究するのに時間はかかるし、失敗により多大な被害も出るだろう。
なにより、炭と硫黄はよしとしても硝石ってどんなの?
人や動物の糞尿で作ることができるので、日本でも白川郷などの隠れ里のようなところで作っていた──と、世界遺産の番組で見たことはある。でもどうやって作ればいいのかまるでわからない。
それに偶然作れていたとしても、どれが硝石かわからなければどうしようもない。
もしかしたらこちらでも硝石はすでになにかに使われてたりするかもしれないが、どういう使われ方をされる物質なのか知らないので突き止められない。
それらの理由で火薬がネックとなったので、銃作りは断念せざるをえなかったのである。もともとそれほど本気でもなかったし。
そして帝国も今現在、火薬の問題で足踏みしているのではないだろうか。
鉄砲を帝国に教えたのは俺と同じ地球人勇者だろうが、よほどのマニアでもなければ詳しい火薬の作り方まで知っているとは思えない。
ルチアは鉄砲の試射を見たと言っていたが、火薬は実用に耐えられない質の低いものか、代用品だったのだろう。
ルチアが誘われたという、鉄砲を運用する試験部隊がいまだに活動しているウワサがないのも、そうであれば説明がつく。
しかし、ドワーフの知識を手に入れることができれば話は変わってくる。
彼らは花火を作ることができるのだから。
地球と同じであれば花火に使われているのは、どうにかして色を変えた黒色火薬だったはずだ。
しかも帝国には火山がないようだし、硫黄の採掘も難しいのかもしれない。それもドワーフが暮らす火山群にいけば、豊富にあると思われる。
それらを考えれば、わざわざ道まで切り拓いている理由になる。
この世界にはマジックバッグがあるが、定期的に幾度も往復することになるし、そのような重要物資を運ぶとなれば護衛も多くなるだろう。
とまあ、もう考えれば考えるほど鉄砲に結びついてくる。
説明してもみんなにはわからないだろうから、今ははしょるしかないけど。
「その武器さえ量産できるようになれば、冒険者に今ほどの価値はなくなります」
たとえレベルが一桁の者が使っても、ある程度の戦果が期待できる。それが銃の強みなのだから。
反面、高レベルの者が魔力を込めて銃の威力を強化する、というようなことは様々な観点から考えて難しいのではないかとも思っているが。
それはともかくとして、社会構造を変えかねない武器の存在を聞き、ヤロイさんたちは目を丸くしている。
「そこまでのものなのかね……」
「であれば、帝国は冒険者などの顔色をうかがってドワーフへの手出しを控える必要もありませんわね……」
納得がいった様子でつぶやくセラに、うなずいて返す。
「今回はリスクよりリターンのほうがよっぽど大きいからな」
「今帝国と共に進軍している冒険者は、目的を知らされていないのかもしれないな」
「そうですね、冒険者は口も軽いですし」
ルチアとニケの予想が当たりだとは思うが、知りつつ来ている可能性もあるだろう。水晶ダンジョンがなくなり、冒険者は稼ぎの場が減ったから。
「そんなこと急に言われても……シャニィ様たちは帝国はミスリル鉱床が狙いだと言ってたし」
「ああ、とてもじゃないけど信じられないよ」
考えこむ俺たちに対し、俺たちと関わりの薄い獣人は信じようとしない。予想できたことではあるけど。
バカバカしいと言って、立ち去ろうとしている者もいる。
俺としてはそれならそれで構わない、と言いたいところだが……。
「主殿……」
……わかったから、そんな物言いたげにチラチラ見てくるなルチア。
大人ならまだしも、ここには子供たちが数多く残されている。それがどうしても引っかかるのだろう。
俺だって子供は苦手だが、別にみんな死んでしまえと思っているわけでもない。
もちろん父さんと同じ
ただ、この段階で放り出すのは目覚めが悪くなるかもしれない。
『アンタらはここで子守でもしときな』
ったく……シャニィさんもめんどくさいことを押しつけてくれたもんだ。
さてどうしようかと悩んでいたが、その前に去ろうとする者たちに待ったをかけたのはポーラさんだ。
「お待ち。アンタたち、急いで仲間に荷物をまとめさせな。これは命令だよ」
「ぽっ、ポーラ様!? こんなウソつきな人間の子供の言うことなどっ」
内通者探しのためのクレバーな策略を、まだ根に持っているようである。
「なにか文句あるかい? 今ここを任されてるのはアタシだ」
「シャニィらがイタチどもにダマされたという可能性もあるしのう」
「それは……」
ポーラさんとヤロイさんという長クラス二人に抗えるような者は、この場所に残っていないようだ。ただ言葉を詰まらせるばかり。
「間違ってたらアタシが全部責任を取る。いいから急ぎな!」
「はっ、はい!」
トドメの一喝で代表者たちは散っていき、それを見届けたポーラさんとヤロイさんも仲間をまとめに行った。二人には毎度感謝である。
そのあといちおう美紗緒には今すぐ退避するよう勧めたが、獣人を守らなければならないと拒否されてしまった。
とはいえ極めて危険な状況となれば、拉致して逃げればいいだろう。
そうこうしているうちに、集合場所とした中央のあぐら大岩集会所付近に獣人たちが集まってきた。
しかしダラダラと集まる彼らが文句を垂れ流すのも、そこまでだった。
一人の獣人が、息せき切って飛びこんできたのだ。
「たっ……大変だっ! て、帝国……帝国が、こっちに来てる!」
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