4-10 もっと翻弄された
サークルエッジを発動し、急加速でコマのように回り始めたニケの体。
だがそれは、あっという間に終わる。
後方の岩嵐鳥を正面に捉えたときビタリと止まったのだ。
「デッドライン」
遅れて強く振り抜かれた謎エナジーつきの剣が、岩嵐鳥の横っ面をひっぱたく。
ルチアが驚きの声を上げる中、体軸ごと横にずれた岩嵐鳥はすぐに落下。
まるでF1の衝突事故。縦も横もわからないくらい回転しながら、地面に傷を残した。
どうやらニケのアーツが衝撃的だったようで、岩嵐鳥が停止してもルチアは呆然としている。
たしかにサークルエッジを発動したときは、俺も驚いたけど。
でも低いスキルレベルで覚えるアーツや魔術は、スキルレベルが上がると派生技が発生するものが多いのだ。
初めて見たけどサークルエッジはデッドラインってのが強力な派生技なんだろうし、そこまで驚くことなのかな?
まあいいや、とりあえず岩嵐鳥に止めを刺しにいこ。
だってこっちの方に転がってきたし、まだピクピク動いてるし、今回全然活躍してないし。
ピアッサーアームでブスッとしてグリグリ。よし、勝利!
褒めて褒めてー、とラボから飛び出したのだが、ニケにルチアが詰め寄っていて相手にされなかった。ぐすん。
「ニケ殿、今のは一体」
「剣術スキルのレベル六で覚える、サークルエッジの派生技の一つです」
「それはわかっている。だがデッドラインは、一周回ってから締めに強烈な斬撃を繰り出すというだけのものだったはずだ。途中で止まって発動なんて聞いたことがない」
なるほど、それであんなに驚いてたのか。
「そうでしょうね。実は派生技には手を加える余地があるのですが、今ではほとんど知られていませんし。過去には派生技のひねった使い方というのが、上位者の間で流行ったこともあったのですが……それも結局
あー、なんかわかった気がするわ。
ルチアは納得がいかないように首を傾げているが。
「なぜだ? 今のような使い方ができれば便利だと思うが。単に振り向いて攻撃するより、よほど素早く強い攻撃が出せていただろう」
「一番大きな理由は、単純に難しいからです。いざというときに、頼れない技など使う者はいないでしょう? 完璧に会得するためには、相当な鍛練が必要となります。しかもその割に使いどころは限られます。そんなことに時間を使うならば、少しでもレベルを上げる方が賢い選択だということになりました」
電話とメールしかしない爺ちゃん婆ちゃんが持つスマホとか、年に一回食べるか食べないかっていう料理の専用調理機とか……使いこなせなかったり必要ない物に金かけるなら、高い炊飯器でも買おうぜってことだな。
「ですが、私たちには時間があります。そしてレベルはありません。ゆくゆくは派生技の応用を考えてもいいかもしれません。それに、そういった使い方をしてくる敵がもしかしたら現れるかもしれませんし」
「そうか、そのために見せてくれたのか」
返事代わりにニケが微笑む。
金とやる気がたっぷりあるなら、良いスマホも調理機も買ってもいいかもしれない。カタログくらいは見ても悪くないだろう。ということだ。
「しかしよくニケ殿は使えるな。結局みんな使いこなす前にやめたのだろう?」
「賢くない者もいたということです。そんな主の鍛練にずっと付き合わされましたので」
アーツのアレンジにどはまりしたやつがいたってことか。
爺ちゃん婆ちゃんがスマホ使いこなしてたらかっこいいし、友人が来たときに年一の料理を簡単に振る舞ったら驚かれるし、その気持ちはわからんでもない。
うん、我ながら例えがしつこい。終わろ。
「誰なのだ? いや、無理に聞こうというつもりはないが」
英雄譚好きのルチアが一歩引いたのは、ニケがあまり昔のことを話そうとしないからだ。聞けば必要な分答えるが、それ以上話すようなことはない。
今も俺にちらっと視線を向けたニケを見れば、理由はわかる。俺に気を使ってるからだろう。
別に俺は、昔の男的な存在は気にしないんだけど。
……でも待てよ。
ニケが「元マスはー、イケイケでー、オラオラでー、ドラドラだったのにー、なんでマスターはー、メンタンピンなのー」とか言い出したら切ないな。
内心で比べるのはしょうがないにしても、やたら口に出すような女はやっぱダメだな。
そうやって男を操れるなどと思ったら大間違いだ。むしろ男はうんざりするだけだ。
「もう。マスター、私はそもそも比べるようなことはしません。比べたこともありません」
そう? それならいいんだけど……ほんとかなあ?
「本当です」
ねえ……ケーンって念話持ってたけど、実はニケに残ってたりしない?
「ルクレツィア、無理ということはありませんよ。エルグレコです」
「おお! 冒険者ギルドの創始者の!」
物すごく不自然にルチアとの会話に戻ったね。やっぱり残ってるんじゃ?
「ははっ。主殿、念話というのは相手の心の内を自在に読めるというものではないのだろう? 考えすぎだぞ」
…………そだね。
キミたち念話より怖いことやってるけど、もう考えないことにするよ……。
「それにしてもエルグレコか……やはり破天荒な人は、他者とは違う道を行くものなのだな」
「あの人もなかなか面白い人でしたが、マスターには劣りますね」
ニケそれ比べてない!?
こっち見てクスリと笑う小悪魔ニケちゃんを、今日絶対お仕置きすると決めた。
誰が一番か、改めてその体にきっちり叩き込んでやるのだ!
……あれ、なんか俺操られてる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます