禁忌破りの錬金術師 〜召喚されて、人間やめて、好きに生きて、〜

奥玲 囚司

1 そして彼女は彼を愛した

1-01 召喚されてスキル検証しすぎた



 転校初日、教師に呼ばれて教室に入ると、そこは異世界だった。


 気づけば俺がいたのは石造りの部屋。

 唐突にイスも机も消えたせいで、クラスメイトたちは赤い模様が輝く床に、尻を打ちつけてもだえている。

 彼らの着ていた制服も消えていた。

 俺も素っ裸になっていたが、なによりまずは周囲の確認だ。


 ……みんな大きくなかった。

 





「わかりました。〈ステータス〉」


 俺たちを召喚したリグリス聖国。


 そこで働く小太りのおじさんに言われるがまま、ステータスと言葉に出しながら念じてみた。

 すると目の前に、半透明の緑色のディスプレイのようなものが浮かんだ。




レベル 1

種族 人間

職業 錬金術師


MP 220/220

STR 80

VIT 84

INT 107

MND 132

AGI 92

DEX 120


〈錬金術1〉〈研究所ラボ1〉




 これが俺、たちばな真一しんいちのステータスということか。実にゲームっぽい。

 〈〉の中はスキルとスキルレベルらしい。

 しかし名前もHPも表記されないのね……それもそうか。名前なんて変えられるし、首が飛べば人は死ぬ。


 職業は錬金術師か。

 しかしこのステータス数値はどうなんだろう。


 服を支給され、召喚されたという説明を受けてすぐに個人面談になったので、比較する相手がいないのだが……。


 おじさんの言う通りにステータスを〈開示〉すると、困り顔をされた。


「錬金術師ですか……レベル一にしては、MPだけは異常に高いですね」


 ……なんとなくわかっていたが、やっぱり微妙なんですね。


 金色に輝く差し歯をちらつかせながら、おじさんが錬金術師について、オブラートに包んで説明してくれた。

 そのオブラートをひっぺがしてまとめると、こういうことになる。


 弱いから戦うな!

 色々作れるが器用貧乏でMP消費激しいから、専売特許のポーションだけ作ってろ!

 ホムンクルス? エリクシル? 作れるか知らん!

 以上!


 ……つまりハズレ。

 それが錬金術師のようだ。


 俺はこの世界の錬金術師より、STRとかの数値が高いしれないと言われた。

 お察しである。


 MPだけなら召喚された人間の中でもダントツらしいですよやったね! MPだけ高くても戦いには役に立たないけどね!


 ちなみに言葉は、渡された『言語理解の指輪』とかいうのをつけたら通じるようになった。便利過ぎぃ。


「タチバナ様、この〈研究所ラボ〉というのはどのようなスキルでしょうか」


 なんとか俺の良いところを探そうとしてくれるおじさん。というか俺という人間が使かどうか探ってるんだろね。


 というか俺もスキルについて知りたいんだが、教えてくれないの? え? 人のスキルの内容は見れない? 本人が詳しく知りたいと念じれば見れる? そうですか。

 ということでスキルに集中したら内容が見れた。



研究所ラボ

 研究所一部屋。



 全然詳しくないよ!


「研究所一部屋まる、だそうです」

「はあ、そうですか……外で使ってみていただけますか?」




 見張り役の兵士だか騎士だかの二人つきで、広大な庭園に連れ出された。


 裏口から出たのでよくわからないが、召喚されてから今までいた建物は、神殿と国会議事堂が混ざったような感じだろうか。とにかくとんでもなく広かった。


「ではいきまーす。〈研究所ラボ〉! ほわっ!?」


 唐突に俺の前に現れたのは──ぼやけて向こう側が透けている、曇りガラスのような壁。


 というかこれ、自動ドアか? タッチパネルみたいのついてるし。

 そしてその奥に続くとても気になる空間は、どう見ても庭園ではなかった。


 振り返ってみると、おじさんも兵士も目を丸くしている。

 もちろんその奥が気になっているようで、目が合って頷かれた。

 オーケーわかった。


「〈研究所ラボ〉」


 スキルを使ってみたら、ドアを消せた。


「なぜ消すのですか……」


 違ったのか。

 おじさんはゲームとか脇道から調べていくタイプじゃないようだ。俺はそっち派で、結局めんどくさくなってクリア前に飽きるタイプだ。


 ついでだから、離れたところで使ってみる。


「〈研究所ラボ〉」


 さっきと同じように、真正面にドアが現れた。

 なるほど……消してるときは、ドアは俺の真正面に位置してるのかな?


 次は裏側に回ってみる。

 なにもない……っていうか、真横を過ぎたらドアすら見えなくなった。

 ドアがあったところを裏側から抜けると、おじさんたちから驚きの声が上がる。


「どんな風に見えてました?」

「タチバナ様が、ドアをすり抜けて現れました」


 ふうむ、振り返ればドアはあるが……まさかこれ映像とかじゃないよな?

 そう思って手を伸ばしたら、普通に触れた。謎すぎる。


 ではそろそろタッチパネルみたいのに触ってみよう。

 人差し指でいくべきか親指でいくべきか……研究所らしく親指でいこう。

 ピッと電子音が鳴り、やはり自動ドアだった曇りガラスが左にゆっくりスライドした。


 その中は真っ白な空間。


 まずエントランスがあり、その向こうに透明なドアがある。


 二つ目のドアが出てしまったので、今後は外側の曇りガラスのドアを玄関ドア、内側のドアを内ドアと呼ぶことにしよう。


 おじさんたちを誘ったが怖がられて拒否されたので、俺も怖いけど一人で入る。

 内ドアは人感センサーの自動ドアで、シュパッと素早く開いた。


 そしてその奥にあったのは──


「なにもねえ……」


 ──二十畳くらいありそうな、空っぽの部屋。


 見上げれば高い天井がまた空っぽ感を増幅させる。

 天井全体が光っていて眩しいし……と思っていたら、少し暗くなった。

 壁にあったつまみを回しても、明るさを調節できた。


 内装はすべて病的に真っ白。

 あまりに味気なさすぎる……と思っていたら壁の一つの面に、銭湯にありそうな富士山の絵が浮かび上がった。なんでだ。

 でもいい出来だったので、これはこれでいい。


 もしかしてこれはと思って念じてみたら、床も変更できた。取りあえずフローリングにしといた。


 でも、できるのはそれくらいだった。

 研究所と言うには、あまりになにもないんだけど……。


 安全を確認したので、エントランスからおじさんたちを呼んだ……のだが、すっかり忘れていたなー。

 玄関ドアの内側にもタッチパネルがついてたんだったー。


 ってことで、あ、ポチッとな。

 ドアがウィーンと閉まった。


 すぐにおじさんたちがドアに駆け寄ってきたようだ。


「タチバナ様、開けてください!」


 おじさんたちも知らない謎のスキルだし、逃げられるとでも思っているのか大慌てである。俺に逃げる気はないんだけれど。これはあくまでも検証しているだけだ。

 ひたすら騒ぎながら叩いたりしてるが、ドアは開かない。タッチパネルも押しているが、彼らでは開けられないようだ。

 俺が許可を出したりすれば開けられるのかな? 今はやらないけど。


 曇りガラスでよく見えないので試しに念じてみたら、ガラスが透き通った。しかも向こうからは曇りガラスのままみたいで、見えてないようだ。

 ついには兵士さんが剣で斬りつけるが、ドアには傷ひとつつかない。


 ふむふむ、じゃあこれはどうだろう。


「〈研究所ラボ〉」


 おおっ! スキル使ったら、向こうからは見えなくなったみたいでキョロキョロしている。

 手を伸ばしながらこっちに向かって歩いてきても、ドアには触れずにその姿は薄れていった。


 これは実にすごい!

 要するに俺は、外界から干渉不可能な不落のシェルターを手に入れたってことじゃない?


 ひとまず知りたかったことは知れたのでタッチパネルに触れると、玄関ドアが開いておじさんたちがこっちを見つけた。

 開いているときは、玄関ドアは消せないみたいだ。


「タチバナ様……」

「すみません、ちょっと操作を間違えちゃいました」


 何度も謝ってなんとか許してもらった。

 それでもまだおでこに血管を浮かばせたおじさんたちが、ズカズカと〈研究所ラボ〉の中に入ってくる。


 というか、だ。


 おのれ土足文化め! 俺が靴脱いでるのになんで脱がない! 床ドロドロじゃねぇか! 寝てる間にてめぇのケツから手ぇ突っ込んで、金歯を金メッキ歯とこっそり交換しちゃるぞオラァ! と言ってやりたい。


 でも入ってきたおっさん(格下げ)たちは富士山に見とれてしきりに褒めていたので、許してあげようと思う。




 それからもあれやこれや調べて、日も暮れたし飽きたしやめることにしたら、長いことつき合わせたおっさんに金歯を見せつけられながら嫌味を言われた。


「遠征やマリスダンジョン攻略には役立ちそうですね。タチバナ様が錬金術師でなければ」

「ははは、ですよね……」


 マリスダンジョンとかいう気になるワードはおいおいということにして、ラボをあとにする。


 振り返り、床を眺めて、ほくそ笑みつつドアを閉めた。



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