第20話 王太子・ヴィルトス

「……まじで緊張するんすけど」


 俺(クファシル)は鞍上あんじょうでそう呟いた。六百人くらいの騎馬隊を率いて王都に向かうなんて、もちろん人生で初めてだ。緊張しない訳無い。


「初陣だと思えば良いのです。これの比ではありませんが」


 背後でそう言いながら微笑んでいるのは、天才軍師エルジスだ。上級貴族と仲が悪い彼も、結局同行してくれることになって心強い。


「兄上の言うことは気にしないでいいですよクファシル様。ろくな事言いませんからね」

「確かに言えてるなリアナ。今度お前の兄貴の恥ずかしい話を教えよう」

「二人してなんだ貴様らは!」


 後ろで行われているライン、リアナ対エルジスの口争いには笑うしか無かった。


「報告します!前方から騎馬隊が迫っているとの事!」


 少し前で先導してくれている、大将軍ファバードの配下兵からの伝令だった。その報せに少し現場がざわめく。


 ただ、ここはヴェルス国の中心部。敵の可能性は少ないだろう。


「……敵、では無いな?」

「その通りで。どうやら、がお迎えにいらしたとの事です!」

「あのお方?」


 報告を受け、急いで馬を走らせた。


 ◇◆


「……あ!」


 前方にファバードと並び見えた人物に、思わず嬉しい声を出した。


「久しぶりです、叔父上!……いや、クファシル!」


 その人物とは、この世界の原作漫画「剣神けんしんヴィルトス」の主人公でもあり、ヴェルス国の王太子でもあるヴィルトスだった。


(やばい、本物だ!ヴィルトスだ!)


 漫画ファンにとってはこれ以上嬉しいことは無い。めちゃくちゃワクワクしている。


「乱についての詳しい話は後で王宮にて聞く。まずは世間話をしよう」

「あぁ、もちろん!」


 こうして、久しぶりの再会を喜びながら王宮を目指した。まぁ俺にとっては、はじめましてなんだが。ちなみに、俺は形的にはヴィルトスの叔父だが、彼より年齢は一つ下だ。俺は弟みたいなものなのだ。


 その後は王宮の暮らしの事とか、俺の近況だとか、とにかく話が盛り上がった。たまにギクッとする質問もあったが、なんとか上手く誤魔化した。やばい、クファシルとしての生活が楽しすぎる。


「……!あれが!」

「着いたみたいだね。クファシルにとっては、久しぶりの里帰りだ」


 視界に入った景色に、また心を奪われた。巨大な城壁の奥にそびえる優雅な王宮や塔。遂に、転生してから初めて王都オーラヴィルへとやって来たのだ。


 ◇◆


「……何も起こらなけらばよいのだがな」


 暗い表情を浮かべ、何かをうれいているエルジス。嫌な予感を胸中にざわめかせていた。


「……?エルジス様、何か言いましたか?」

「いや、なんでもない。我々も楽しもうか、久しぶりの王都だぞ」


 イグルに声を掛けられたエルジスは直ぐに微笑み言葉を返す。


 ――こうして、王都での激動の数日間が始まった。

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転生のすゝめ。─雑魚キャラに転生した俺、原作無視して強くなる─ にいな @Reinonike0821

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