第9話 ヤングルの森の集い

「まさか王弟殿下がお見えになるとは思いませんでした。イグル、何かつまめるものと茶を用意しなさい」


 ここまで案内してくれた少年は、主人の言葉に短く返事をしさっさと家の中へ入っていった。


「そういえば、あの女騎士の姿が見えませぬが」

「相変わらず犬猿の仲が治らぬようだなぁ」

「私は何もしておりませぬ。ただあやつの間違いを訂正しただけでござる」


 女騎士ってリアナの事か?俺(クファシル)の館で匿ってる少年少女の護衛を任せたけど、確かに付いて行きたく無さそうな顔してたもんな。


 この人と仲悪いのかと心の中で思いながら、早速本題へ入る。


「エルジス、早速で悪いが「エルフィンに戦火」の真意を尋ねたい。他国の侵略か、やはり反乱か?」


 驚いた様子でエルジスは話し始めた。


「ほぉ、直ぐに反乱という言葉が出てくるとは良い勘をお持ちだ。まずはエルフィンの街の現状をお伝えしましょう」


 彼の周りを取り囲むように、ファバード配下の精鋭達も集まって話を聞く。


「現在エルフィンを統治するのは元文官の将軍・ロンソン。私は彼の同僚でしてた」


 まず初めにロンソンという男について語り、話しは続いた。


「私が王宮を去ってからもあやつに策を密かに授け、武の道を照らしここ最近将軍に昇格したらしいのですが……」


 一息付き、嫌悪感を全面に出した表情で再び口を開く。


「エルフィンの統治を任せられ住民には重税を課し自らは私服を肥やすのみ。まぁ所謂、『身分を悪用』していましてな」


 それからも彼の話は続いた。 一度ロンソン将軍に会いに行った際、かつてあった希望の眼差しは消え、欲望に渦巻く彼の姿を目撃したらしい。更には、


「イグルを諜者として送り込んだ際、とある方を餌に他国に寝返る計画を立てておりました」

「とある方……?」


 思わず言葉を漏らすファバードに対して静かに頷き、俺に向かって真っ直ぐ視線を向けてきた。


「まさか、俺……?」


 その場が騒然としたのが直ぐに分かる。まさか、王弟を狙うとは。


「左様。王都から離れ少数で暮らす貴方様こそ、身分も相まって餌にするには絶好ですからな」

「……!!」


 エルフィンの民に苦しい思いをさせている挙句、俺を餌にして他国への寝返りを考えているとは。反乱よりも酷い事が起きる事は明らかだ。


「ファバード、これは王都に知らせを……」


 隣で話を聞いていた大将軍に声を掛けようと振り向く。そこには、辛うじて平静を保っている状態の、憤激が全身を巡っているファバードの姿があった。


(そうだよな、国の大将軍がこの話聞いて怒る訳無いもん……)


 彼の気持ちを察しながら肩に手を掛ける。


「俺達に出来る事は沢山ある。頼むよファバード」

「……はっ。最善を尽くしましょうぞ」


 俺の言葉で我に返ったように返事をする大将軍。それに対しエルジスが言葉を足した。


「いや、もうそろそろ王都軍は動くはずです」

「もう王宮へ知らせたのか?」


 俺の質問に返し、「いえいえ」と短い言葉を返すエルジス。その理由を語り始めた。


「イグルによると、王宮からの諜者もエルフィンに居たらしいのですが、商人に扮して総督府そうとくふに入ったあと行方知らずとの事」

「まぁ、恐らくやられただろう……」


 ファバードの重い一言に頷くエルジス。


「音信不通となった遠方の街エルフィンを見逃す訳にはいかない。恐らくそろそろ、私の悪友が此方に向かってくるでしょうな」

「悪友……?」


 彼の言葉に俺は頭上にはてなを浮かべ、ファバードはまさか……という表情。対するエルジスは愉しそうに笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る