第4話 大将軍・ファバード

「すっげ……」


 俺(クファシル)の剣技とは比べ物にならず、リアナの物とも一味違う重い一撃。

 剣術に関しては所謂いわゆる「にわか」の俺でさえ、思わず言葉を漏らした。


「ファバード師匠……!?」


 盗賊を全て斬り倒したリアナが、現れた老将の姿を見て驚きの声を上げる。


「ファバード……?『鉄紺てつこん猛獣もうじゅう』ファバードか!?」


 そして俺もリアナから挙げられた名前を聞き、思い出したように声を上げた。


 原作でもファンが多いヴェルス国の大将軍、クリスチャン・ファバード。

 列国に名を轟かせた大将軍であるこの老将、戦場への参戦は減ってはいるものの、人望も厚くまだまだ高い人気と名声を誇る名将である。

 そして、鉄紺色の外套マントを纏い戦場を駆け抜ける姿から、「鉄紺の猛獣」と呼ばれているのだ。


「今は隠居間際の老人ですがな。それよりも、この大事に遅参した事をお詫び申し上げまする」


「あぁ、それは大丈夫だから。それよりこの子達の保護と治療が先!」


「……ほぉ。ご安心下さいませ、我が精鋭部隊を連れてきております。これより王弟殿下の館へ向かいましょう」


 とりあえず、俺は医療の知識も何も無いので、この人達に任せるとしよう。


「よく頑張ったな君達。後でしっかり話しを聞くよ」


 二人の少年少女に対し、怖がられないよう慎重に言葉を選んで話し始めた。


 ◇◆


 館への帰宅後、ヴェルス国を代表する将の2人は、少し離れた場所にて会話をしていた。


「リアナ、元気にやっておるか?」

「お陰様で。ファバード師匠もお元気そうで」


 久しぶりの再会を喜びつつ、ぐに話題はクファシルについての事に切り替わった。


「最近は体も良く動く。ところで……」

「……本当にあのお方は王弟殿下か?」

「同じ事を私も思いました。最近心身が変わったように、熱心に鍛錬や勉学にも励んでおります」


 腹を切り裂く鋭い剣技と素早い動き。事が終わった後も自分自身より、あの少年達の保護を優先するような指示を出したクファシル。

 ファバードにとって、少なくとも以前会った時よりは逞しく見えたのである。


 リアナもそうだった。熱心に鍛錬に励み始めた頃からのクファシルの変化に、驚きを隠せないのだ。


「まぁ、我が国にとってはいい事だからな。いや、そうかそうか」


「話は変わりますが、ファバード師匠は何故此方に?」

「おぉ、そうであった。王弟殿下にも話したい事が御座います」


 声量を上げクファシルを呼び、3人での会話が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る