転生のすゝめ。──王太子の弟に転生した俺、原作を無視して強くなったら命を狙われた──

にいな

第1話 王弟・クファシル

「あれ?ここは……?」


 何処だここ。


 俺、何してるんだ?


 ベッドや机、鏡、本棚くらいしか無い小さな部屋。少なくとも、俺の部屋では無い事は明らかだ。


「……?クファシル様、もう目を覚まされていたのですね」


 開きっぱなしになっている扉から、1人の女性が顔を覗かせていた。


 え?クファシルだって??


 彼女から呼ばれたその名前に、聞き覚えしかなかった。そして、その名を呼ぶ彼女にもまた、見覚えしか無い。


「君、もしかしてリアナ……?」


「何をそんなに驚かれるのですか。貴方様にお仕えする、リアナ・フランシスですよ」


 やっぱりだ。俺が読みまくっていた漫画「剣神ヴィルトス」の登場人物、リアナ・フランシスらしい。

 原作では文武共に秀でており、才色兼備の女騎士として登場。風貌も殆ど違う所が無く、本物のリアナで間違い無さそうだ。


 と、言うことは……


「もしかして、俺の名前ってクファシル・ストローレだったりする……?」

「はぁ、間違い無くクファシル・ストローレ様に仰せられますが……」


 眉をひそめ不思議がるように答えるリアナ。


 彼女の言葉を受け、漫画の内容を思い出すように思考を巡らし、1つの答えに辿り着いた。


(転生か。しかもよりによってクファシルに……)


 つい先程まで一応、高校生として生活していた俺。どうやら漫画の世界に来てしてしまったようだ。


 俺の転生先はというと、ヴェルス国の王太子・ヴィルトスの弟、クファシルだ。

 原作では特に目立った能力も戦績も無く、数年後の戦争で命を落とす……


 つまり、このまま過ごせば数年後には死ぬのだ。一筋の冷や汗が頬を駆け下りた。


「では、私はこれで。朝鍛錬の準備がありますので」

「あ、俺も行くよ。ちょっと待って」


 ずっと座ってても仕様がないし、元いた世界に戻れる方法があるかもしれない。


とりあえず、クファシルとして上手く立ち回ってみよう。そう決心したのだ。


「……?」

「どうかした?」

「い、いえ。今日は嫌がられないのですね……」


 リアナの驚いた表情が、クファシルの事について1つ思い出すきっかけとなった。

 

(そういえばクファシル、鍛錬って聞いたら逃げ出してたっけな)


 こうして、表はクファシル、中身はただの高校生の転生生活が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る