凍てつく魔の山の誘い 〜蟹の足音は死への招待状〜

藤澤勇樹

凍てつく魔の山の誘い 〜蟹の足音は死への招待状〜

薄暗い森の奥深く、月光さえも封じ込められるほどの霧が漂っていた。


その中に、いつしか現れると噂される氷の山。


村の人々は、その山を「凍てつく魔の山」と呼び、近づく者はいなかった。


ある夜、若者の慎太郎が果敢にも真実を探ろうと決意した。


彼は、山から聞こえるという蟹の足音の謎に魅了されていた。


厳重に身を固め、懐中電灯を片手に、彼は霧の中へと消えていった。


木々の間をすり抜ける風が、彼の不安をあおるかのように、ひゅるひゅると不吉な音を立てていた。


◇◇◇


山へと続く道は長く曲がりくねっており、慎太郎は幾度も迷いそうになりながらも前進した。


すると、遠くに白く輝く氷の山が見えてきた。


その冷たく静寂な美しさに心奪われつつ、彼は山へと足を踏み入れた。


深夜になると、山の奥から聞こえてくる蟹の足音が彼を包み込んだ。


カチャカチャと乾いた音が木々の間を響き渡る。


慎太郎は、その音の源を探し始めた。


山は不思議な力で覆われているようで、氷の壁は彼の心にも冷たさを刻んでいった。


◇◇◇


その時、突如、慎太郎の前に蟹の化物が現れた。


氷のように透明な甲羅を持つその姿は幻想的でありながらも、その鋭い爪と目は死を予感させるほどに恐ろしかった。


慎太郎は恐怖に震えたが、彼の中の好奇心が恐怖を上回った。


蟹は慎太郎に語りかけるように足音をたて、彼を山の深部へと誘った。


慎太郎はその誘いに従い、山の秘密を知るために蟹の後を追った。


しかし、彼が気づかなかったのは、蟹の足音が次第に数を増していたことだった。


霧の中、無数の蟹の影が彼を取り囲んでいた。


◇◇◇


氷の山の中心部にたどり着いた慎太郎は、氷の壁でできた祭壇を目にした。


そこには、古びた銅鏡が置かれており、蟹たちはその銅鏡に向かって拝んでいた。


祭壇の前で、慎太郎は真実を知る。


鏡の中から、かつて山にいた者たちの魂が語りかける。


彼らは警告していた。


山は、欲望を持って訪れた者たちを氷の中に閉じ込める呪いがかけられていると。


恐怖と共に、慎太郎は自らも魔の山に囚われる運命を悟った。


彼は逃げようとするが、すでに蟹たちに囲まれ、身動きが取れない。


彼の足元から氷が伸び、体を徐々に覆っていく。


最後の瞬間、彼は銅鏡に自分の姿が映り込むのを見た。


その瞳には、次の犠牲者に伝えるべき警告と、静かな受容の光が混ざり合っていた。


氷の山は、再び静寂を取り戻し、朝日とともに霧の中へと消えていった。


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■ この話の朗読を動画(YouTube)で聴きたい方はこちら

https://youtu.be/U_BpTE21mTY

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凍てつく魔の山の誘い 〜蟹の足音は死への招待状〜 藤澤勇樹 @yuki_fujisawa

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