原始時代TV

ちびまるフォイ

その時代に大ウケのコンテンツ

「やれやれ、今日もテレビ局で徹夜か……」


画面を見ていると、ふと見慣れないウィンドウが開かれている。

何度押しても閉じることができない。


『この声が聞こえるか、この時代の民よ』


「わ!? 頭の中から声がする!?」


『そう、お前に語りかけている。私は未来人。

 お前に頼みたいことがある』


「頼みたいことって……。俺はただの一般人だぞ?」


『そこの画面をよく見てみろ』


「見ろって……」


開きっぱなしのウィンドウはまるで監視カメラの映像のように、

固定された位置でだだっ広い荒野を映し出している。


その中央には大きなテレビが置かれている。

自然の中にテレビだけあると妙に不釣り合いだ。


「このテレビが置かれている映像がなんなんだ?」


『このテレビの視聴率をあげてほしい。

 流す番組はお前にまかせよう』


「はあ!? なんで!?」


『我々、未来人は現在成長の限界を感じている。

 そこで過去から人間の成長を早めることで

 ひいては我々の成長へとつながるという考えだ』


「でも視聴率をかせげったって……原始人のニーズなんてわからないよ」


『では、お前の頭をふっとばして、別の人に頼むだけだ』


「頼むっていうか脅しじゃないか!!」


しかしそうはいっても自分はいっかいのテレビマン。

かつては面白い番組を作りたくてこの業界へ足を踏み入れた。


「ようし、やってやるよ。俺が原始人に大ウケの番組を流して視聴率を爆上げしてやる!」


『目標視聴率は30%だ。1年以内に達成できなければダメだ』


「ひとつ聞いていいか」


『なにかな』


「放送コードや、倫理規定はあるのか?」


『なにを言っている? 放送されるのは原始時代だ。そんなものはない』


「それを聞いて安心したぜ。どうやらイージーすぎる課題になったな」


『期待している』


それきり頭の声は聞こえなくなった。


なにを放送してもいい。

そんなノールールの状態ならなんだってできる。


そして俺には秘策がある。


原始人はおろかすべての人間にぶっ刺さる超視聴率が取れるコンテンツ。

現代ではとうてい放送できない禁断のものが。


「いくら原始人だっつっても、同じ人間なんだ。これを見ないはずがない!」


原始時代のテレビに流す番組はひとつ。

エッチな内容の放送しかない。


現代では1分流せば苦情の電話が鳴り止まないだろうが、

原始時代の無法地帯ではいくらでも流せる。


「はっはっは!! これなら高視聴率まちがいなしだ!!」



しばらくして、原始テレビの視聴率の結果がかえってきた。



「え、えええ!? 視聴率たったの2%!?」


アダルトな映像を垂れ流したはずなのに視聴率は期待外れだった。


答えを確かめようと原始時代の映像を確かめる。

たしかにエッチな動画に興味をひかれた原始人はテレビに寄っている。


が、その映像に映るのは現代人。


原始人の体つきや好みの顔とは大きくかけ離れている姿。

すぐにがっかりしたような顔でテレビの前を去っていった。


「く、くそう……現代で放送内容を作るから、

 現代人と原始人とで好みのギャップが生まれるのか……!」


現代人と原始人でギャップが生まれにくい番組はないものか。

過去の番組をさかのぼったとき、人気ジャンルに気がつく。


「そうだ。グルメ。グルメがあるじゃないか。

 うまそうな飯は原始人にだって引かれるはずだ!」


原始人向けのグルメ番組を作って、原始テレビで放送をはじめた。

これなら高視聴率もまちがいなし。




またしばらくして視聴率の結果が発表された。



「し、視聴率……たったの1%……?」


結果は散々なものだった。


「なんでだ! ちゃんと放送直後に原始人が集まっていたのを確認したのに!」


前回の失敗を活かして初回放送時の原始人の反応もモニターしていた。

美味しそうな原始の食事を映され、原始人は食い入るようにテレビに集まった。


なのにこの低視聴率。


もう一度、現地の様子を見てみると、そこにはぶっ壊れたテレビの残骸が転がっていた。

テレビにはいくつもの歯型が見て取れる。


「あ……」


それで察した。


現代人はテレビを見て、手を伸ばしても届かないから番組を楽しめる。

原始人はテレビのシステムそのものを理解していないから、食べられると思ったのだろう。


高視聴率だとしても、テレビが壊れたらもう番組は見られない。

テレビがなければ視聴率なんて取れっこないのだ。


「ああ、もう! なんて扱いづらいんだ! 原始人ってやつは!」


修理されたテレビが最設置されてからはあ、

迷走に迷走を極めた番組が放送された。



原始人は血に飢えているだろうと格闘技を流してもダメ。

ルール無用の原始時代に、スポーツはウケなかった。


現代で社会現象になった恋愛ドラマを流したこともある。

結果はやっぱりダメだった。


原始時代には恋愛というプロセスそのものがない。

感情移入もなにもあったもんじゃない。



ならば、と原始人にも理解できるDIYなどのためになる番組も流した。


結果は大スベリ。

原始時代には「見て学ぶ」という文化はない。


自分が体験したことや恐怖したことを体で覚えていく。

映像を見ても、それを実生活に活かすような体験がない。


だから見向きもされなかった。



気がつけば視聴率を稼げないままもうすぐ期限の1年を迎えようとしていた。


「あああ! ちくしょう! いったい何がウケるんだ!!」


放送局にある映像のほとんどは原始時代に流してしまった。

もはや何がヒットするかわからない。


でも何もヒットしなかった。

すっかり手持ちの弾は使い切っていた。


今は昔の大人気アニメを放送し、低すぎる視聴率に泣きそうになっている。


「原始時代のニーズなんて、現代人にわかるわけないんだ……」


もう流せるものなどなかった。

けれどあがくのを辞めたくはなかった。


「もう……これでいいか……」


残された映像は、有事の際に放送される「差し替え用の映像」。

適当にひっぱりだした映像を原始時代のテレビに流した。


「はぁ……頭ふっとんでも安らかに死ねたらいいな……」


遺書と辞世の句をしたためながら、視聴率の結果を待った。




視聴率の結果が出るよりも早く、頭の中に声が響いた。



『聞こえるか、この時代の民よ』


「ひ、ひい! 未来人さま!! ああどうかお慈悲を!

 私めは精一杯やったんです! それでも原始人には……」


『なにを言っている?』


「なにって……1年以内に視聴率30%を超えないと、頭をふっとばすと……」


『吹っ飛ばすどころか感謝を伝えに来た。

 よもや視聴率80%を達成するとは驚いた』


「は、は、80%!?」


原始時代をモニターすると、テレビを囲うようにして原始人が集まっていた。


『原始時代の習性を活かした映像、いや見事だ』


「いや自分でも驚きです。いったい何を流したんだか……」


『なんだその反応は? まさか自分の流した映像を見てないのか?』


「え、ええ……まあ……」


『原始時代モニターのズームを上げよう。これなら見えるはずだ』


原始時代に設置されているテレビにカメラが寄る。

テレビに映し出されていたのは。


焚き火だった。


急な映像差し替え用の焚き火のループ映像だった。


火は獣を寄せ付けない効果がある。

危険な夜間には火を焚いて、原始人は集まって危機を回避した。


火を見ると原始人は夜光虫のように集まってしまい

それが高視聴率の獲得へと繋がった。


『おめでとう、君は解放された』


「ありがとうございます!!」


それきり頭の中から声はしなくなった。

やっと肩の荷が降りた解放感が体を包み心地よい。


「ふう……大きな仕事も終わったし、ちょっと外の空気でも吸うか!」


大きくのびをし、放送局の外へ出た。

晴天の空を見上げたときだった。



空に大きなモニターが浮かんで、なにやら映像を流している。



「あ、あれは……?」



モニターではグレイ宇宙人のような姿の人間が交尾をしている映像が流れていた。

もちろん、そんな気色悪いもの誰も見やしない。


しかし、自分だけは食い入るように目が離せなかった。

映像よりもなぜか親近感を感じてしまった。




「この映像……未来のどこから放送されてるんだ……?」



きっと今、放送主は現代人に何がウケるか頭を悩ませていることだろう。

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