第80話 精霊界との通信事情
精霊王様、か……。
この極めて特殊と言える私との関わりについて、精霊王側がどう思っているかと言えば、パッと考えられる可能性としては二パターンあると思う。
一つ目は、お母さんの事を可愛い娘だと思っている訳だから、その娘の私も『可愛い孫娘』だと思ってくれているパターン。
こちらだと非常にありがたい。何なら私のお願いでも聞いて貰えるかもしれないし。
しかし、二つ目。お母さんが精霊界に帰って来るのを楽しみにしていたのに中々帰って来ない上、人間界で結婚して子供まで作ってしまったのを疎ましく思っている、というパターンも当然あり得る。
仮に二つ目だったりすると凄く怖いのだが、こればっかりはここで考えていてもどうしようもない。
……仕方ない、お母さんに直接相談してみよう!
私がお母さんに相談に行くと言うと、旦那様と王女殿下も是非一緒に話が聞きたいからと言って付いて来た。
うちの両親も数日後に一緒にフェアランブルへ帰る訳だが、あの二人には何か纏めないといけない荷物がある訳でもないので、今頃はサロンでのんびりお茶でも飲んでいるはずだ。
「え? 精霊をみんなに見える様に? 出来るわよ!」
案の定サロンにいたお父さんとお母さんをつかまえて先程の件を聞いてみると、ケロリとそう答えられた。
か、軽い……!
「で、でもちゃんと精霊王様の許可を取らないと、精霊達がペナルティを与えられちゃうんでしょう? あの子達を危ない目に遭わせたくないし、お母さんから精霊王様に頼んで貰えないかなと思ったんだけど」
私が慌ててそう説明すると、お母さんがフム、と考え込む。
「お父様に頼むのは簡単だけれど、連絡を取るのが少し難しいかしら。私が精霊界へ戻るのが手っ取り早いけど、そうちょいちょい行き来する訳にはいかないし……」
「え、連絡取るのって、直接移動するより難しいの?」
「そうね。私だけが移動するなら、『私』という物体が『自分の力』で移動するだけだから簡単なのよ。けど通信するとなると、精霊界と人間界を繋がないといけないでしょう? だからそれなりの準備が無いと難しいわ。力技でやっちゃえない事も無いけど、その場合……」
「その場合……?」
私と旦那様とカーミラ王女殿下がゴクリと息を飲む。
「こう、空一面にゴゴゴゴゴ……と黒い雲みたいな物が立ち込めて、そこがパカッと開いて、巨人なんて目じゃ無いサイズ感のお父様が顔を出すわ!」
……最悪過ぎる。
いくらアウストブルクが精霊に対して理解があると言ったって、そんな事になったら国民総パニック待ったなしだ。
「そ、それは……流石に困るかしら?」
ですよね。
苦笑いでそう言うカーミラ王女殿下に、首をしっかりと縦に振る事で私の同意を伝える。
安心して下さい。させませんよ?
「いっそフェアランブルでそれをやってしまえば、嫌でも皆精霊の存在を信じる様になるのではないか?」
旦那様が真剣な顔をしてそう言うが、中々に過激なご意見ですね!?
基本的に、人間は未知の物に対して恐怖を抱いてしまう生き物なのだ。今までに無かった価値観、つまり精霊の存在を受け入れるとして。
そのファーストインプレッションが、手のひらサイズの可愛い精霊達が『よろしくー』とふわふわ飛んで来るのと、ゴゴゴゴゴからのパカッと巨大精霊王が現れるとのでは、その印象に雲泥の差があるだろう。
うーん、相手を怖がらせたいのであれば、圧倒的に後者なんだけど……。
こちらとしてもまずは穏便に事を進めたいので、流石にそれはやり過ぎな気がする。
「旦那様、流石に罪もない国民を怯えさせてしまうのは気が咎めます。それは最終手段に致しましょう」
「む、確かにそうか……」
とは言え、相手がこちらの言い分を聞き入れなかったり、精霊たちの見た目が可愛いからと言って侮る様な素振りを見せればそれくらいやっちゃってもいいかもしれない。
……うん、切り札としてはかなり使えそう。
「後は、そうねぇ。辺境伯領にある神殿になら、もっと簡単に精霊界と通信出来る仕掛けがあるんだけど……」
そんな仕掛けがあるんだ!
けど、よりにもよって辺境伯領の神殿とは、敵の本拠地真っ只中じゃないですか……。
さて、どうしよう?
実はフェアランブルへの帰国にあたって、そのルートもまだ決まっていない。
普通に考えればフェイラー辺境伯領を通って王都へ帰るのが一番近いのだが、何せそこはこれから裁判で一戦交えようという相手の領地。
遠回りして辺境伯領を避けるか、敢えて突っ切って辺境伯領の様子を見るかで悩んでいたのだ。
こうなったら、辺境伯領を通るルートで帰国して、あわよくば神殿で精霊王様とコンタクトを取る、というのが理想的かもしれない。
……そう上手く行けば、だけど。
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