第61話 あの日の真実
早朝に王城を出たというのに、私たちが森を出る頃にはもう空は暗くなりかかっていた。
この分だと、飛空挺で王城へ戻る頃にはすっかり深夜になっているだろう。
「みんな疲れているわよね。今朝乗って来た飛空挺はスピードは速いけど寛げないから、アナ達がアウストブルクに来た時に乗ってもらった魔導飛空挺の方で王都まで帰りましょう?」
森から出ると、私達の様子に配慮して王女殿下がそう言った。
ああ、あの空飛ぶ高級客亭みたいな飛空挺か。確かにあの飛空挺なら個室も沢山あったし湯浴みも出来たし、ベッドの寝心地も最高だった。旦那様をゆっくり寝かせてあげられそうだ。
「ありがとうございます、王女殿下。そうして頂けるとありがたいです」
私がそう答えると、王女殿下はすぐに魔導飛空挺を手配してくれた。
かくして私達は、ようやく魔の森を脱出する事が出来たのである。
魔導飛空挺の中。
旦那様が湯浴みをしたり、念の為に医師の診察を受けたりしている間に、私はお父さんとお母さん用に割り当てられた部屋へ来ていた。
ようやく三人でゆっくり話せる時が来たのだ。
「えっと、お父さんもお母さんも久しぶり。二人とも元気そうで良かったよ。お父さんは少しやつれちゃったし、お母さんは少し光る様になっちゃったけど……」
何だか改めて話を切り出すとなると妙に照れ臭くて、あはは……と乾いた笑い混じりに話を振る。
「うふふ、やだわアナったら。そうなのよ、お母さん、少し光る様になったの!」
「…………えーっと、ちなみにそれは何で光ってるの?」
「精霊界に戻ったら、失くしてた力とか随分昔の記憶とか戻って来てね。そうしたらこうなっちゃったのよ」
なるほど? 戻って来た力っていうのは、塔でピシャンピシャンやってたアレの事だよね、多分。
「それなんだけど、そもそも何でお父さんとお母さんは精霊界に? 私、二人が急にいなくなるから凄く心配して探したんだよ? 周りの人には二人は死んだって聞かされてたし」
お母さんは『まぁっ』と驚いた顔をして、お父さんは苦虫を噛み潰したみたいな顔になった。
「……アナはこの五日、いや、五年の間に色々な事を自分で知ったんだね。お母さんが精霊界と深い繋がりがあるというのも、もう知っているんだろう?」
お父さんの問いかけに、私は黙って頷く。
「アナも同じ人間に狙われていたみたいだからこれも知っているかもしれないが、お母さんはずっと旧精霊教の関係者に追われていたんだ。アナの高等学舎の入学試験が近付いていた頃、また周囲に不穏な空気を感じる様になってね」
確かに、私の入学試験の前辺り、二人の様子が何か変だなと思う事はあった。あの頃か……。
「それでね、それまではずっと秘密にしていたけど、アナが高等学舎に入学が決まったら全部打ち明けようって、エドと相談していたの。それで、アナがもっと大人になって納得してくれて、エドが付いて来てくれるなら……お母さん、精霊界へ戻ろうと思っていたわ。それなのに、まさかあの日にあんな事になるなんて」
あの日、私が入学試験を受けに行った後、お父さんとお母さんはお祝いの準備をする為に(気が早いな!)街の市場へ買い物へ行こうとした所を例の男達に捕まってしまったらしい。
「あいつらは随分と周到に用意していたみたいで、精霊対策までしていたんだ。無理矢理馬車に押し込まれてしまってね……」
何とか逃げ出す機会を狙っていた二人は、馬車が峠道に差し掛かって速度を落としたタイミングで飛び出そうとして相手と揉み合いになり、馬車から投げ出されたそうだ。
そのまま崖から落下すれば、恐らく命は助からない。
そうなる位なら……と、お母さんはお父さんを連れて精霊界へ転移したと言うのだ。
「そ、そんなに簡単に行けるものなの? 精霊界って」
「行けるわよ? 『帰りたくなったらいつでも呼べ』ってお父様に言われていたもの。アナも行きたかったら行く?」
今すぐ行けるわよー、というお母さんが怖くてブンブン首と手を振り必死に否定する。
そんな、一度行ったら中々帰れない上に時間の流れが違う場所なんて、恐ろしくて行けない。
でもそうか、お母さん達は自分の意思で精霊界へ帰った訳じゃなかったんだ。
良かった。私だけ置いていかれたんじゃなくて。
「ねぇ、そんなに簡単に精霊界へは戻れたのに、人間界へは戻ってこられなかったの?」
私は素朴な疑問を口にする。
「精霊だからって、人間界に好き放題干渉していい訳ではないの。それに、実は転移するのは体にすごく負担がかかるのよ。私は平気だけど、エドをそんな危険な目に合わせる訳にはいかないわ」
そうか、普通の人間にとっては負担が重いんだ。
言われてみれば当然だし、むしろ普通の人間でも精霊界へ行けるという事の方が驚きかもしれない。
「あら、話が随分長くなってしまったわ。アナの夫君が待ってるんじゃないかしら? えーっと、確か名前はユージーン君だったわよね? ……ん? ユージーン・ハミルトン?」
お母さんが首を傾げながらそう言ったのを聞いて、お父さんがパァッと顔を輝かせる。
「ああ! アナの旦那さんはサミュエル殿のお孫さんなんだね! そうか、良かった。やっぱりサミュエル殿がアナを助けてくれたのか」
「まぁ、それでユージーン君とロマンスが生まれたのね! 素敵だわ!」
あー……。
多分。いや、絶対。
二人が想像しているものと、実際の私と旦那様の始まりが、かなりかけ離れた物になってしまった様なのですが……。
これ、本当の事言うべきですかね?
どうしましょう旦那様。
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