第27話 突然の再会
「ど、ドボーンというのは……?」
『ジーン、高いおへやに閉じこめられてたの。でも、にげたの。海にドボーン!』
「「…………」」
閉じ込められた部屋から逃げる為に、海に飛び込んだって事?
え、それ本当に大丈夫?
イルノの話を聞いて、顔がまたサーっと青くなる。
『ユージーン様のそばに精霊がついていて、この子が大丈夫と言うならきっと大丈夫ですわ、アナ様。この子はまだ契約が成立していない分、他の精霊達と繋がっているのです』
顔色を悪くした私にリアちゃんがそう声を掛けてくれる。
他の精霊と、繋がってる……?
『私たち精霊は本来、《個》という物がありません。人間からすると理解し難いと思いますが、みな等しくして同じ存在なのです』
そういえば、まだ私と精霊トリオが契約を結ぶ前。普通精霊は『個』で認識される事はないと言っていた。でも、一緒に過ごすうちに、私には他の精霊と精霊トリオの区別が付く様になって……。
そう、それで知らないうちに『仮契約』の状態になってたんだ!
もしかして、イルノも旦那様と仮契約みたいな状態なのかな?
『この子はどうも《個》を持っている様ですが、契約は成立していない、ちょっと特殊な状態です。私たちはそれを《はぐれ》と呼ぶのですが……。とにかく、その特殊な状態ゆえに、他の精霊たちと感覚や情報を共有している部分があるのですわ』
なるほど。精霊の生態マジで奥が深いな。
「つまり、その『はぐれ』というのは、契約していないのに『個』になっている精霊の事を言うの?」
私の質問に、今度はリアちゃんではなくカイヤが答える。
『僕たちとアナが最初そうだったみたいに、契約してなくてもその精霊を《個》として認識して魔力を与えてくれる存在が近くにいれば、《はぐれ》にはならないんだよ。契約をしていない精霊達は、定期的に精霊界に帰る事で十分な魔力を体にたくわえてるんだ。人間界の魔素だけじゃ、とても足りないからね。『はぐれ』は、他に魔力を与えてくれる存在がいないのに、精霊界にも帰らない存在なんだ。だから『はぐれ』てるってわけ』
そうなんだ。小さい頃から精霊達と過ごしていたけど、そんなシステムになっていたとは知らなかった。
じゃあ、領地に沢山いるあの精霊達は、定期的に精霊界へ帰ってるのか……。
『なので、精霊が《はぐれ》になるのはとても珍しい事なのですわ。例えば契約していた人間が亡くなったりした場合でも、契約が切れた時点でみずから精霊界へ戻れば、その精霊はもとの普通の精霊に戻れますもの』
じゃあ、何でイルノは旦那様に忘れられてしまっても精霊界に帰らず、ずっと人間界にいたんだろう?
本人に聞いてみようと思って振り返ると、イルノは眠そうに目を擦りながらフラフラ飛んでいた。
『アナ、ねむい』
『急に大量の魔力を体にいれたからだよ! 魔力を体に馴染ます為にも、少し寝た方がいいかもね』
イルノの側を飛ぶフォスがそう言う。
『アナー、難しい話はリアとカイヤに任せて、僕とフォスでこの子を寝かせて来てあげていい?』
「そうだよね、イルノも疲れたよね。王女殿下、それで構わないですか?」
正直イルノには聞きたい事が山盛りで、『今夜は寝かせないぜ』状態なのだが、さすがにそんな事を言っている場合ではないだろう。
我慢我慢。
「ええ、そうね。まずは休ませてあげましょう。その間にこちらで話し合っておきたい事もあるし……」
そうだった!
精霊サイドの事で頭がいっぱいだったけど、うちの旦那様を
こちらにも目に物見せてやらなくてはならない。
それに何より、旦那様が逃げ出したというのなら早く助けに行かないと!
「王女殿下! 私、旦那様を助けに行きます!!」
「言うと思ったわ。一旦落ち着きましょうか」
「それとも犯人に地獄を見せる方が先ですか!?」
「目が怖いわ、アナ。とりあえず落ち着きましょうか」
王女殿下は、テーブルの上の水差しからコップに一杯分の水を注ぐと私に差し出す。
素直に受け取ってそれを飲むと、よく冷えた水が私の頭を少し冷やしてくれた。
「……すみません、取り乱しました」
「いいのよ、無理もないわ。とりあえずハミルトン伯爵の捜索はこちらで手を尽くすから、アナには他にして欲しい事があるの。……犯人に、地獄を見せるのはその後よ」
その時は私も手伝うわね、とニッコリ微笑む王女殿下。うん、心強い。
辺境伯家はもちろんの事、こうなってくるとイングス伯爵家も怪しいし、何なら街道整備の話そのものが旦那様を誘い出す為の罠だった可能性すらある。
もしそうだったらと考えると、見抜けなかった自分が悔しくて歯をギリッと食いしばった。でも今は、自分に出来る事をするしかない。
「王女殿下、私にして欲しい事とはなんですか?」
「ええ。こうなった以上、ハミルトン伯爵を待っている場合じゃないわ。アナにはすぐにでもサミュエル様とナジェンダ様に会いに行って欲しいの」
! そうだ、今回の事件にも辺境伯家が関わっている可能性が高い以上、一刻も早くナジェンダ様から話を聞いた方がいい。
「すぐに先触れを出すわ。アナは出かける準備を……」
『カーミラ、先触れは必要なさそうよ?』
リアちゃんがそう言うのとほぼ同時に、扉がトントンとノックされる。
王女殿下の入室許可を受けて入って来たその人は、わたしにとってあまりにも意外な人物だった。
「……おじ様!?」
「カーミラ王女殿下、御前失礼致します。……アナ、元気そうで何よりだ」
私を見て目を細めて微笑むその人は、両親がいなくなってから後見人としてずっと私を支えてくれていた、今は音信不通の『あの』おじ様だった———。
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