第17話 国と精霊の関係
「ふぅー、ごめんなさい。すっかり話が脱線してしまったけれど、確か契約の話よね?」
いえ、むしろうちの精霊と私のネーミングセンスがすみませんでした。
笑いから立ち直った王女殿下が仕切り直す。
「先程王女殿下は、ユーフォリアと直接契約は結んでいないとおっしゃっていましたよね? では王女殿下はどの様にしてユーフォリアを契約精霊にしたのですか?」
自分も精霊使いになりたいという思いがあるからだろうか?
旦那様が珍しく身を乗り出す様にして聞いている。
「リアはね、国と契約している精霊なの」
「「国と!?」」
「ええ、もう百年以上も前からアウストブルクの守護精霊として存在してくれているわ」
カーミラ王女殿下の話によると、アウストブルクにはリアちゃんの様な守護精霊が何人かいて(細かい数字はまだ教えて貰えないらしい。国家機密ですね、分かります)、精霊使いとして国に認定されると、その精霊達と契約をするチャンスが貰えるのだという。
そこで精霊に認められれば無事契約を結び、晴れて一人前の精霊使いという訳だ。
逆に精霊に選んで貰えなければ、いくら国に認定されても意味は無い。
「人間側の仕組みは理解できました。でも精霊側は、なぜ人間の国と契約を?」
「それは、個々の精霊によって理由が違うみたいね。人間が好きだからっていう子もいれば、お菓子が食べたいなんて子もいたし。……精霊王と喧嘩して、精霊界に帰りたくないから
精霊側の理由、割と緩い!!
「もちろん、契約している精霊には魔力の供給もしているし、良好な関係を保てているわ」
「……凄いですね。一体いつからそんな仕組みが?」
「もう何百年も昔の事で正確には分からないのだけど、フェイヤームが滅んで以降の事だと言われているわ。当時精霊王は人間に対してすごく怒っていたのだけど、人間界に残りたいという精霊達の為に、人間の国と精霊界とで盟約が交わされたのよ。力関係的には圧倒的に精霊界の方が上だから、精霊を守るために人間側が課せられた制約がほとんどよ」
なるほど。制約と聞いて何かと思ったけど、逆に安心したな。精霊達の安全が守られるのは、私にとっても嬉しい事だ。
『そして精霊達には、何でも人間に話してしまわないように精霊界についての守秘義務の様な物がありますわ。人間界に降りてくる精霊達は、精霊王からいくつかのルールを与えられているのです』
あ、そういえば昔、まだ精霊トリオと契約してなかった頃。
旦那様に初めて精霊の話をしたあの日に、この子達が言ってた気がする。
『精霊王がルールを決める』『ルールを破ると身体が段々小さくなる』って。
『人間の国や人間個人と契約を結ぶと、その精霊はより深く人間の社会に関わる事になりますわ。だから契約精霊は、ただ人間界に降りて来る精霊より厳しいルールを課せられ、同時に制約によって守られるのです』
なるほど……。で、私と精霊トリオはちょっと特殊なケースで、個人で勝手に契約しちゃったからその制約の外にいる、と。
人間社会でいう所の、組合に所属してないみたいな状態なのかな? 多分。
「精霊界と盟約を結んでいる国は、アウストブルクだけではなくいくつもあるの。ただ、もちろん……と言ってはなんだけど、フェアランブルは結んでないのよね」
ですよねー。
これで臆面もなく盟約結んでくれとか言ったら、精霊王激怒案件ですわ。
「本来、契約精霊や精霊使いは国の宝とも言うべき存在よ。他国の貴族であるアナを、アウストブルクの認定精霊使いに、というのは異例の事態だから、国際精霊使い認定協会には一応話は通してあるの。フェアランブルに認定制度がないのは周知の事実だから、フェアランブル国王の許可があれば認められる事になったわ」
おお、相変わらず仕事が早い。
いつも私の知らない所で色々と手を回して貰っていて、本当に王女殿下には足を向けて寝られない。
というか、国際精霊使い認定協会なんて組織まであるのか……。
『精霊が見える』とか言ったら医者を呼ばれかねないフェアランブルとは凄い違いだな。
私の空気を感じ取ったのか、お義兄様が苦笑いしながら言う。
「私もアウストブルクに留学して色々と驚いたよ。フェアランブルはね、自分達で思っている以上に本当に後進国になってしまっているんだ」
大国の王女が筆頭公爵家に嫁いで来る。
女性にも王位継承権が与えられるかもしれない。
……フェアランブルは、今が変わるチャンスなのかもしれない。
「ところで、国王陛下の許可は取れたのですか?」
旦那様がそう尋ねると、王女殿下が頷く。
「ええ。簡単だったわよ! もしハミルトン伯爵も精霊使いになりたいなら、その許可も取らないとね」
そんなにあっさりいくんだ!
「そんなに簡単に許可が出るのですね。それはやはり、フェアランブルでは精霊使いの価値が理解されていないからですか?」
旦那様も私と同じ様に思ったらしい。
「それもあると思うけれど、夜会での
いい笑顔でそういう王女殿下。
ま、まさか、そこまで織り込み済みでのあの行動ではない……ですよね?
うふふ、と笑う王女殿下を見て、背中を冷や汗がツーっと流れる。
うん、分かった。
この人は、絶対敵に回してはいけない人だ———。
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