もう一度キミに

平 遊

第1話

「あれ?雨やんだかな?」


 小学校からの帰り道。

 突然の雨に、店先で雨宿りをしていた太郎は、軒下からヒョイと顔を出して空を見上げた。

 とたん。


「いてっ」


 何かがおでこにぶつかった気がして、反射的に右手でおでこを押さえ、下を見る。けれどもそこに、おでこにぶつかったようなものは落ちていない。


「おっかしいなぁ?」


 代わりに、再びパラパラと雨粒が落ちてきて、太郎は小さく溜息をつくと、着ていたジャンパーのフードを頭から被り、家に向かって走り出した。


 "だから傘持っていきなさいって言ったでしょ!"


 リビングから聞こえる母親の言葉を受け流し、太郎は自分の部屋に戻ると、背負っていたランドセルを床の上に放り投げ、着ていたジャンパーを脱ごうとした。

 ところが、ホックを外そうとして手に違和感を覚えた。


「あれ?なんだこれ?」


 見れば、ホックのひとつに、ホックより一回りほど小さい、虹色に輝く丸い石のようなものがくっついている。


「なんか、カッコいいな」


 まるで、ジャンパーのホックのひとつが虹色に輝いているように見える。

 太郎はそれが気に入り、そのままジャンパーをハンガーにかけた。


 その夜。


 晩ごはんを食べ終えた太郎が部屋で宿題をしていると、勉強机に面した窓の外が一瞬だけ小さくピカッと光り、窓が勝手に開いた。


「えっ……なにっ!?」


 怖くなった太郎は、両親に助けを求めようと部屋を出ようとしたが、後ろから小鳥の鳴き声のような音が聞こえ、恐る恐る振り返った。

 すると、さっきまで太郎が宿題をしていた机の上にいたのは、小鳥ではなく、大人の手のひらほどの大きさの、小さな子供だった。

 その子供は、銀色の長い髪。淡く光る銀色のワンピースを着ていて、手足は白くほっそりとしている。

 姿形は小さいけれど、年は太郎と同じくらいに見えた。


「えっ……ええっ!?」


 太郎は目をパチクリしたり、手でこすってみたりしたが、やはり机の上にはさっきと同じ小さな子供がいる。その小さな子供は太郎に向かって一生懸命何かを話しかけているようだったが、太郎には小鳥の鳴き声にしか聞こえなかった。


 怖さがなくなった太郎はゆっくりと小さな子供の前まで近づき、首を傾げた。すると、その小さな子供は困った顔をして黙ったが、すぐにパッと顔を輝かせると、ワンピースのポケットからヘッドセットのようなものを取り出し、頭に付けた。


「これならわかる?」


 きれいなよく通る高い声が、小さな子供から聞こえた。太郎はなんだか嬉しくなって大きくうなずいた。


「良かった!あたし、リリアっていうの。今日、靴を落としちゃって。キミのちょうど真上にいた時だったんだけど。ねぇ、あたしの靴、知らない?」


 太郎は再び首を傾げた。

 見ればリリアと名乗った小さな子供は、裸足だった。

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