悪逆王に嫁がされました……が、ただの強面で小声でしたの!?〜本当は優しい陛下の汚名返上したいのです〜
秋色mai
Chapitre I 陛下、笑ってくださいまし!
1. 絶対往復ビンタじゃ足りなくてよ
「悪逆陛下に、悪役令嬢がご挨拶を申し上げますわ。…………お顔が怖すぎではありませんこと?」
*
こんなことになった経緯は、ある出来事が原因でございました。
最南に位置する大国、グローリア王国の公爵令嬢兼第一王子の元婚約者こと、
正直微塵も納得いってません。聖女って伝説上の世界を危機から救うという女神様の使いですわよね? そもそも現在危機に陥っているわけでもないのに、あれだけ聖女様って盲目になって意味わかりませんわ!
思い出すだけでもおなかの底から沸々となにか上がってくるものが……。
「殿下ぁ!」
「カトリーヌ!」
どう見ても、人の婚約者と仲睦まじくなさるだけ。よく私を含めた人前で抱擁なんてできますわね、ええ!
さすがに慈善事業でもするかと思いましたら、聖女として学園に来てから一度もご実家のある村にさえ帰りませんと。下々には興味ないと。
そして聖女が大聖堂で婚約者持ちの男性と……せ、接吻ですって!? せめておやすみ前の額が限度じゃありませんの!?
いやどちらにしろ浮気なんですけれども。
「今日の午後、ティータイムに付き合ってくれ」
まぁ殿下なんて浮気する前から最悪でしたけれど。
人が公務のことも考えて何事も一ヶ月前にお伝えしているというのに、ご自分はすでに正午を回っている中、午後に予定をぶち入れてきやがりますし。
仲睦まじく見せなければならない時でも全く協力しようとしないですし。
しかも、謝罪の手紙でさえ送るのは三日後、もちろんご自身でなんて書いていない始末。
さいっ悪ですわ。
この状況で、害したとかなんだとか……おかしいすぎますの! こちらが悪いとなった途端、急に手のひらを裏返したご令嬢方にも腹が立つますわ!
そんなの私の婚約者を、正式な手続きなしに奪ったのだから当たり前でしょう。おかげで第一王子の元婚約者なんていう嫌なレッテル貼られる羽目になったのだから。
長く美しいハニーブロンドの髪に、午後の木々を移したような緑眼、整った顔で、このように性格に難があったとしても売れ残りはしないと思っていましたのよ!?
聖女であろうがなんであろうが、私はあの元凶に往復ビンタしただけですの。しかもたった、三発ほど。言わせて貰えばこんなの報復には足りないくらいですわよ。
「アレッタ・フォーサイス嬢、そなたには北の悪逆王の元へ嫁いでもらう」
だというのに……学園の卒業パーティーで罪として告発されてしまいましたの。ほんと意味がわかりませんわ!
最北の強国、グレイシャルの国王、ダグラス・グレイシャル陛下、通称悪逆王の元に嫁げ、と。
悪逆王といえば、少しでも気に入らなければ即死刑にするくらい悪逆非道ぶりで有名で、眼光だけで人を失神させるなんて噂までありますのに!
「あれだけ散々手だけは出していけないと言っていたのに。反省しなさい。まあ……、お前なら逃亡だってなんだってして帰ってこれるだろう」
何度も言うように全く納得していませんの。
それでも父母、長兄、次兄、三兄、末の兄にまで私も悪いと言われてしまい、とにもかくにも嫁ぐことになりました。全く、放任主義なのか、信頼してくださっているのか。確かに私は基本一人でなんでもできますけれど。おかげさまで!
とりあえず元凶そのニである元婚約者の浮気殿下の阿保面もむかついたので、出発する前にもう一発殴ってきました。
……今思えば、私は物語なら悪役だったということなのでしょうね。悪役令嬢だわ! なんてヤケもここまでにしまして。
そんなこんなで、侍女のクロエ一人を連れてほぼ単身でこの国へやって来ましたの。
クロエは馬車の中でずっと胃が痛かったらしく、少々気持ち悪そうでしたけど……。
時間が惜しいのでさっさと悪逆王にご挨拶を申し上げました。終わったらとっとと逃亡するつもりなのだから。
そう、終わったら……というかなんですの、その怖いお顔は!?
……こうして冒頭に戻るのです。
*
は? え、今、歓迎って仰いました?
後ろで括られた雪のような銀髪に、オールバックなことでよく見える氷のように冷たい碧眼。かと思えば、人を殺していそうな目つき。頬にある大きな傷跡が醸し出す悪人面。人ひとりくらいなら捻りつぶせそうな筋肉と高身長。
が、出したとは思えない、もーーーーのすごく小さなお声で?
私は陰口などで耳が慣れていますからどれだけ小さくても聞こえますけれど、他の方には聞こえませんわよ?
「なんと、無礼な!」
「貴様、不敬だぞ!」
ほら、他のお方に聞こえてないようですけど。お声が小さすぎて。
「陛下は不敬だとは一言も仰っていないようですけれど?」
はーーーー。言動が顔に似合わないお方ですわね。というかその毛皮のコートとスーツどこで仕入れるのです? 魔王か何かみたいですわ。
「応接間はどこですの?」
「な、何を偉そうに!」
「私は一応嫁いで来た時点で王妃なのですが?」
まあ、王妃になる気なんてありませんけど。嘘も方便ですわ。予想外なことはあるけれど、逃げようと思っているのは変わらないもの。
「っ王妃だt……ヒッ」
「……宰相が失礼いたしました、アレッタ様。応接間にご案内いたします」
先ほどから不敬だとか騒々しかったのが、老執事が現れると皆様スッとお黙りになられました。この執事……一体何者かしら。
そのまま老執事の方に案内されるように謁見室を出ると、扉の横で待っていたクロエが頭を抱えていて……。
「お、お嬢様……やって下さいましたね……」
「何がですの?」
そ、そんな恨み帯びた目で見ないでくださいまし。こんなことになるとは思っていませんでしたの。
「ああ、そういえば、執事さんのお名前を聞いていなかったわ」
「私はジェームスと申します。ダグラス様の専属執事でございます」
「ジェームス、よろしくお願いします。私はアレッタ・フォーサイスですわ。こちらは侍女のクロエ」
そう伝えると、ジェームスは「ほほ、存じ上げております」と目を細めた。
クロエは慌てて「よろしくお願いいたします」と深ーーく頭を下げている。
それにしても、なんというか、簡素なお城ね。調度品が少なすぎるわ。
「ダグラス様、アレッタ嬢をお連れいたしましたぞ」
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