00-5 少年と声 その⑤
「ふーん。万全の状態ではないってわけか。でも現在残っているページの魔物を呼び出すことは可能なんだろう?」
『はい』
「よっしゃ。それじゃあ早速呼び出してみようぜ」
『魔物を生み出すには3つの手順を踏む必要があります』
「わかった! 儀式と詠唱と生贄だろ?」
『ブブー! 違います。全くもって違います』
少年は自分の答えにわりと自信を持っていた。それを声に全否定され、「う……」と
『正解は。“選択”と“確認”と“承認”です』
「せんたく、かくにん、しょうにん」
『難しいことじゃありませんよ。あなたが“ダンジョン目録”の中から魔物を“選択”、次に私が選択に誤りが無いかを“確認”、最後にあなたが“承認”する。それだけです。試しにやってみましょう』
「お、おう。まず目録から選ぶんだよな……」
少年は“ダンジョン目録”の魔物の項を開き、書かれている文字をまじまじと眺めた。部屋には光源がひとつもなく真っ暗であったが、少年は全く意に介していない。暗闇にあっても少年の視力はきちんと文字を捉えていた。
「なになに。“魔物を分類すると大きく8系統に分類できる。鳥獣属、人属、自然属、不死属、精霊属、龍属、悪魔属、神属……”。へええ」
それらの情報は少年の興味を引いた。魔物と聞いてワクワクしない男はいない……わけではないのだが、少なくとも少年はワクワクしていた。魔物を従えるポ○モンマスター……もといダンジョンマスター。
「こいつは面白くなってきやがったぜ……!」
と意気込み、読み進める。
「ふむ。“鳥獣属……世にある動物が突然変異を起こし魔物になった種族。魚類型や虫型もこれに含まれる。主に筋力、体力、敏捷が高く戦闘では頼りに成る存在。人語を話すものは少ない。幼体であれば基本的に餌付け、刷り込みが可能で従属させやすく扱いやすい。リザードマン、グリフィン、ケルベロスなどがいる。”」
なるほど。鳥獣属は扱いやすそうだ。なにより自分の中のマモノのイメージにピッタリ。最初に呼び出すならこの種族がいいかもしれない。と少年は思った。
『鳥獣属、人属、自然属、あと不死属あたりの魔物は初心者にも使いやすくてオススメです』
と声が言う。少年は「なるほど、そのあたりもちゃんと読んでみるか」と呟き、読み進めた。
「なになに。“人属……世にある人間が突然変異を起こし魔物になった種族。獣人や変態もこれに含まれる。人語を話すものが多い。基本的に平均的な能力を持ち、魔法も習得できる。様々なアイテムを装備可能。幼体であれば基本的に餌付け、刷り込みが可能で従属させやすい。変態であっても気が合えば友達になることが可能。トカゲ男、ウェアウルフ、ロリコン男爵などがいる。”」
なんだこの種族。ツッコミどころがいくつかあった。
『人属は話し相手にもなりますしイチオシですよ』
それはわかる。しかし、その前に。
「そんなことより、変態ってなんだよ! なにが悲しくてロリコン男爵とお友達にならなきゃいけないんだよ!」
『ロリコン男爵は幼女に対して無類の強さを発揮する魔物です。オススメです』
「ススメんな! リザードマンとトカゲ男の違いもわかんねーしよ!」
『“2,000ポイントを使用してロリコン男爵を作成できます。承認しますか?”』
「うん?」
『ここで“承認”と唱えればロリコン男爵が作成できます。……さあ、張り切ってどうぞ!』
「……えーと、しないよ? つーかなんで勝手に“確認”してんの!?」
『……ダメですか……?』
「おねだりしてんじゃねえよ!?」
『冗談です。しかし、これでモンスター作成の要領は大体わかったでしょう』
冗談、だって。少年の疑念が確信に変わる。頭の中のコイツ。コイツは“おれ”じゃなくて別の――。
「――ああわかった。お前のいい加減さもな」
それからはしばらく無言だった。少年はうつぶせの姿勢で、時に仰向けになりながら黙々と本を読みつづけ、ときどき「うーん」と唸ったりした。しかしそれに対し、声は口を挟まなかった。
*
声が口を開いたのは、少年が1時間ほどそうしてからだった。
『さてそろそろ決まりましたか? ヒマでヒマで寝ちゃいましたよ』
「――決めたよ。つーか寝てたのかよ。 俺が文字と格闘していたっていうのに」
『ええ寝てました』
「俺の頭の中で?」
『あなたの頭の中で。だってやることないですから』
「そりゃそうだよな」
『そうなんです。さあ、あなたの“選択”した魔物を教えてください。あなたが選んだ最初の魔物を』
「正直迷った。どの種族もそれぞれに特色があってさ。パートナーになってくれそうな鳥獣属に人属。扱いやすい自然属に不死属。精霊属とか龍属とか悪魔属とかはかっこよくてさ。すげー魅力的だった。でも決めたよ。俺の最初の魔物はそいつらじゃない」
『ほう? では残る“神属”から選択を? 神属は呼び出せないと思いますが……』
「“神属”じゃないよ。というかよほどの事でもない限り“呼び出せないし扱えない”んだろう? 本にはそう書いてあったぜ」
魔物は大きく分けて8体系に分類できる。
・鳥獣属……動物が魔物になった種族。
・人属……人間が魔物になった種族。
・自然属……植物や菌類が魔物になった種族。
・不死属……死体が魔物になった種族。
・精霊属……物質が魔物になった種族。
・龍属……完成された生命体の総称。
・悪魔属……具現化した情報体の総称。
・神属……生命誕生以前からこの世にあった存在の総称。
少年の選択した魔物はそのどれにも当てはまらないという。 8体系のどれにも当てはまらない魔物。そんな魔物は“存在しない”。少なくとも“本”にそんな魔物は“書かれていない”。
『神属でもない? では、魔物の作成はしないということですか?』
「――お前だよ」
『は?』
「俺の頭の中に居座ってる、俺の能力そのものと言いながら他人みたいなお前。お前を呼び出すことに決めた」
『はあ??? “私を呼び出すというのですか?”』
「――“承認”。こっちに出てこいよ、ぶん殴ってやるから。頭の中に別の誰かがいたんじゃ、ゆっくり寝られねえし、隠し事を問い詰めることもできねえ」
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