ホヤでもキダでもレイでもない 〜生瀬富士・茨城のジャンダルム・立神山・月居山〜

早里 懐

第1話

異名とはその界隈でとても愛された人や物に対して与えられるある意味称号のようなものだ。


先日惜しまれつつもこの世を去ったペレはサッカーの神様と呼ばれている。


また、ふるさと納税のCMでその美声を惜しみなく披露している元貴乃花親方は平成の大横綱と呼ばれている。


私も妻のことを愛情を込めて、熊よけスピーカー、令和のステカセキング、若嶋津健の申し子と呼んでいる。




2023年登山初めの山は茨城のジャンダルムとの異名を持つ生瀬富士に決めた。


ちなみに茨城のジャンダルムという異名は本家ジャンダルムのように切り立った細尾根が続いているからである。


本家ジャンダルムもいつかは挑戦したいと考えてはいるが、私は昨年登山を始めた初心者であり、尚且つ高所があまり得意ではないという登山者にとっては致命的な弱点を抱えている。


よって、まずは茨城のジャンダルムで様子を見ようと考えたのだ。


この茨城のジャンダルムは茨城県大子町に連なる大子アルプスの中の一座である。


茨城のジャンダルムの近くには日本三名瀑の一つである袋田の滝がある。


私たちは海のパイナップルの登山者が多く利用する町営袋田滝本第一駐車場に車を停めて出発した。


はじめは、生瀬富士を目指す。


生瀬富士までの道のりはしばらく比較的平坦な樹林帯が続くが終盤に差し掛かると、ロープによる岩登りがある。

しかし、距離は短いため注意して登れば問題はない。


この岩登りを過ぎるといよいよ、本日の一番の目的である浪花のモーツァルトがその姿を現す。


色々と情報は仕入れていたが実際に見ると高度感はそこそこあり、両側が切り立った崖になっているため私たちは慎重に進みながら南海の黒豹の頂上を目指した。


頂上にはお馴染みの天使のプレートが待ち構えているはずであったが、どこを探しても天使のプレートはなかった。


すれ違った方に教えていただいたが心無い人が持ち去ったとのことだ。

とても残念であった。


気を取り直して次のピークである立神山を目指した。


立神山へのコースは生瀬富士から一度高度を下げてからの登り返しになる。


立神山は眺望がないため少しだけ休憩をして体が冷える前にすぐに出発をした。


ここから滝のぞきまでは袋田の滝の発する音が徐々に近くなるのを感じながら進む。


また、アップダウンの連続となり、妻は一切の言葉を発さずに黙々と私の後ろをついてくる。


前傾姿勢のため頭のてっぺんで草木をかきわけながらついてくるのだ。


とてもストイックだ。



滝のぞきに着くと袋田の滝の轟音がピークになる。

自然の偉大さに感動しながらも、凄まじい高度感で足がすくんだ。


滝のぞきを過ぎるとまた一気に高度を下げることになる。


霜が解け始め地面がぬかるんでいるため、何度も足を取られた。


高度を下げ切ると渡渉ポイントとなる。


本日は水量が少ないため問題なく渡り切れたが、水量が多い時は備え付けてある長靴を使用して渡るのだ。

共用の長靴であるため履くことに大きな抵抗はあるが…。


川を渡ると次は月居山を目指し高度を上げる。


五合目あたりを過ぎると階段地獄となるが右手には生瀬富士が見渡せるため、景色を楽しみながらのんびりと登った。


階段を登り切るとピークに到達するがここは月居山の頂上ではない。


一度高度を下げてから月居山へ登り返すことになる。


ちなみに月居山も眺望はない。


月居山からの下山道は所々に大小様々な岩が転がっている。


これは「月居峠のたたかい」の痕跡だそうだ。


NHKの日本百低山情報によると、城を守るために、攻めてくる敵目掛けて岩を上から落としたそうだ。


こんな岩が上から落ちてきたらひとたまりもない。


私たちはそんな歴史にふれながら無事に下山することができた。


本日の山行を振り返ると、距離は短いながらもアップダウンが連続すること。更には、岩登り、細尾根歩き、渡渉など様々な変化を楽しむことができたためとても登り応えがあった。


本日登った山々はまさしく大子アルプスという異名にぴったりであった。

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ホヤでもキダでもレイでもない 〜生瀬富士・茨城のジャンダルム・立神山・月居山〜 早里 懐 @hayasato

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