第九話
次の日。
今日も空はすがすがしいほどに晴れ渡り、高い位置から太陽がエリーデ・ネルアの町全体を照らしている。
町の西側の教会前には、また「鳳凰の眼」の教徒たちが集まっていた。
「ソォリィ! エェフ! ソォリィ! エェフ!」
「ソォリィ! エェフ! ソォリィ! エェフ!」
まだ正午までにはもう少し時間がありそうだが、すでにニワトリ頭の教徒たちのテンションは、昨日のピークを超えているようだ。
教会前の広場で輪を作り、各自が天に両手を掲げ、昨日よりも高くジャンプを繰り返している。
そんな教徒の輪の中心には、やはりマウシィがいた。昨日と同じ鳥の羽で出来た宗教服を着て、地面に仰向けで横になっている。その周囲は、様々な色のヒマワリのような花が囲っている。表情は安らかで、それだけ見れば、ケガレを知らない無垢な少女が花畑の中で眠っているかのようだった。
「ふ、ふ、ふ……」
彼女のかたわらには、教徒たちを統べる立場の血異人ハルマ。
彼らは、昨日のような邪魔者がいないなか、厳かで異様な「呪い」の儀式を進めていた……はずだった。
「行くぞ、お前らーっ!」
「おぉぉーっ!」
そこに、武器を持った男たちが突入してきた。
「これ以上、こいつらの好き勝手にはさせないぜーっ!」
先頭に立っているのは、宿屋の店主の男。他の者たちも、この周辺の居住区に住む者たちだ。
ハルマたちに気付かれないように宿屋の店主が協力者を集め、日が完全に昇って「呪い」がダメージを与える時間が終わってから、一斉に反旗を翻したのだ。
だが。
その数は、たった五人。持っている武器もバラバラ。剣やナイフならまだいい方で、中には、家具を分解しただけの木片らしきものを持っている者さえいる。全員が戦闘を専門にしているわけでもなさそうで、その武器の扱いもお粗末なものだ。
「今さら吾輩に逆らうとは……。ふ、血迷ったか……」
ハルマが、そんなつぶやきをする間に。
「く、くそっ!」
「うわっ! は、離せーっ!」
五人の男たちは、結託した四十人近くのニワトリ頭の教徒たちによって拘束されてしまった。
「少し考えれば、分かることだろうに……愚か者どもが……。今後はこんな無駄なあがきを出来ぬように、見せしめに、『呪い』を追加してやるか……」
そう言って、ハルマの注意がその五人に向かったところで……。
「今だ! 行けーっ!」
リーダーの宿屋の店主がそう叫んだ。
さきほどの血の気が多い無謀な行動は、教徒たちを引きつけるための
バサァッ!
次の瞬間、高い場所から広場の中央に向けて、
彼女は、その布の影が移動するのに合わせて、影から出ないように自分も移動していく。
その布はバサバサと空中を移動して、ついに広場の中央で寝ているマウシィの上に着地する。すなわち、その布の影に隠れていたアンジュも、マウシィのところまで到着した。
「マウシィ!」
アンジュは叫ぶ。
花に囲まれながら、安らかに目を閉じている友人に。自分が、「強い想い」を持って、追いかけてきた相手に。
「目を覚ましなさい! こんなところから、さっさと逃げるわよ⁉ 悪いけど、もうおせっかいだなんて言わせない……か……ら…………⁉」
しかし……。
「ふ……一足、遅かったな」
光を遮る布の外から、ハルマの落ち着いた声が届いた。
「そ、そんな……」
アンジュもその「事実」に気づき、絶句してしまう。
そこにあったのは。
安らかに眠る少女、ではなかったのだ。
抱き上げた体は冷たく、呼吸もしていない。土のように灰色で血色の悪い肌は、完全に生気を失っている。それは、まるで……。
「そやつは、すでに死んでいる……。吾輩の『死の呪い』によってな……。まだ太陽が上りきっていないというのに……吾輩が『これから呪い殺してやる』と言っただけで、その『呪い』の効果を受けてしまったらしい……。ふ……本当に、面白い女だ……どれだけ『呪い』に魅入られているというのだろうな……」
「そ、そんな……そんな……」
その言葉を、アンジュはなかなか信じることが出来ない。信じたくない。
だが、触れている彼女の体が鉄のように固くなっていることで、その「残酷な事実」がもはや疑いようがないということを、思い知らされてしまう。
「い、いや……」
死んでいる。
アンジュの腕の中で……マウシィは、間違いなく死んでいた。
「……いやぁぁぁぁーっ!」
よく晴れた青空の下。教会前の広場に、アンジュの悲痛な叫び声が響いた。
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