第2話

「わー! やっぱりお客様、スタイルがいいからどんな服も似合っちゃいますねー⁉」

「そ、そおう? 別にそんなこともない……こともなくもなくもないと、思うけどねー!」

「じゃあ、次はこっちのとかどうですかー? 流行のアースカラーをベースにしつつ、差し色にはビビッドなドラゴンレッドのワンポイントを入れた、上級者向けワンピですよー。実はこれ、この近くのアーティストとコラボして作った、一点もので……」

「いいじゃない、いいじゃない! 限定、特注、一点ものは、ワタシの大好きな言葉よ! そういうの、どんどん持ってきちゃってくださるかしらー⁉」

「はいはーい!」


 レディアベルには多くの大学や研究機関があり、シュエルドラード大陸の各地から、学生や研究者志望の若者たちが集まってくる。

 そのため街全体の年齢層も若く、それをターゲットにしたと思われる、女性ウケしそうな、見た目重視のスイーツショップ。デートコースに最適な、「恋人が難病系」の演劇をよく上演する劇場なども多い。

 ここも、そのような店の一つ。大通り沿いにある、最近出来たばかりらしい若者向け最新ファッションを取り揃えた防具屋だった。


 街に到着してホテルにチェックインしたあと、アンジュはまず、マウシィの装備をなんとかしようと思った。アンジュとは同い年くらいのマウシィだが、ファッションに関しては微塵も興味がないらしい。最初に出会ったときからこれまで、彼女はずっと同じ、ボロ雑巾よりボロボロの布の服を着ていた。アンジュはそんな彼女に、女子冒険者として相応しい服を買ってあげようと思っていたのだ。

 だが……。

 気づけば、店員のセールストークにまんまとノセられて、ファッションショーのごとく一人で試着を繰り返しているアンジュだった。


「うげぇ……」

「鬱殺……暗呪、殺殺屠忌滅髏死……死死死死……」

 店内には、そんな彼女の様子を死んだ目で見ている、マウシィと呪いの人形――人形が死んでいるのは当然だが。

 ただでさえ、勝手につきまとわれて迷惑しているのに。むりやり連れてこられた服屋で、自分は一体何を見せられているのか……なんてことを考えているのかもしれない。

 そんな彼女を、さらにウンザリさせるように、

「マウシィ! アナタも気に入った服があったら、好きに買っていいからね⁉ パートナーとして、ワタシがプレゼントしてあげるわ!」

 アンジュは、そんなことを言ってくる。彼女は聖女の母親から充分な旅費を与えられていたため、代金を気にする必要はないようだった。


「そ、そぉデスかぁ……? じゃ、じゃあ……私に似合う服を、探してみますねぇ……」

 と、服を選ぶふりをしながら。さっさとこの状況から――というより、アンジュ自体から――逃げ出そうとするマウシィ。

 しかしその途中で、突然目を見開いて立ち止まった。

「はっ⁉」

 彼女は店頭にディスプレイされていた「リボンやフリルが過剰についた黒いドレス」に、飛びつくように駆け寄る。

「こ、これ! これがいいデスぅ! 私、これ欲しいデスぅ!」

「え? それ?」

 アンジュも、試着室からそこにやってくる。そして、その「ゴスロリ風」とでもいうべきドレスを手にとって、

「アナタ……意外と可愛い趣味してるのね?」

 と、マウシィの体に重ねて見た。

「うーん……ちょっと、冒険者としては派手過ぎる気もするけど。でも、元のボロ服に比べればはるかにマシだわ。それに、細身で小柄なマウシィには、こういう可愛いのが結構似合ってるのかもね。サイズも大丈夫そうだし……いいんじゃない?」

「そ、そうデスよねぇ……い、いいデスよねぇ……ぐふふふぅ」

「じゃあ、もうこれに決めちゃいましょう。……店員さん、すみませーん」

 ……よし。

 アンジュはそこで、満足そうにうなづく。

 自分の提案が功を奏して、マウシィにまともな服をプレゼントすることが出来た。明らかに異常だった彼女を、少しは「普通」に近づけることが出来た。自分が、誰かの役に立てた。

 その事実に、自分の行動ながら感動しているのだ。だが。

「はいはーい! あ、あー……」

 やってきた店員によって、アンジュのその気持ちはアッサリと崩されることになるのだった。


「すみませんお客様……その服は、売り物じゃないんですー」

「え? 何で?」

「じ、実はそれ……作ったデザイナーが、不運な事故で亡くなってしまって……。それ以来、そのデザイナーの『想い』が服に取り憑いちゃったのか、着た人間も次々と変死していって……」

「……は?」

「ぐ、ぐひゅひゅ……」

「怖くなって、私たちも何度も捨てようとしたんですけどー……なぜか、気づくと手元に戻ってきてしまってー……」

「そ、それって……」

「ええとー……まあ、いわゆる、『呪われた装備』ですよねー?」

「うひひひ……い、いいデスねぇーっ! 私に、ピッタリデスよねぇぇーっ!」

「は、はぁぁーっ⁉」

 舞い上がっていた感動の気持ちに、思いっきり冷水をかけられたようなアンジュ。怒りに任せて叫ぶ。

「な、なによそれーっ⁉ そんな危ないもん、なんで店先に置いとのよーっ!」

「す、すみませーん! でも、捨てても戻ってくるし……ハサミを入れようとしてもハサミのほうが壊れちゃうくらいで、私たちも、どうしたらいいか分からなくて……。 そ、それに、無造作に店頭に置いといたら、事情を知らない泥棒がうっかり持ってってくれないかなー、なーんてー……」

「無責任過ぎるわよっ⁉」

「き、着たら死んじゃう服……。人を殺せるほどの強い想い……。ぐ、ぐひゅ……す、素敵過ぎますぅぅぅ! じゃ、じゃあ私これ、さっそく着て帰りますねぇ?」

 店員と口論しているアンジュから、マイペースにマウシィが服を受け取ろうとする。


 そんな彼女に、服屋店員もさらにマイペースに、

「あ、着るときは、充分に気をつけてくださいねー? 服を着た瞬間から、呪いの効果で体中の穴という穴から血があふれ出してくるみたいなんでー」

「い、いいデスねぇー、いいデスねぇー」

「実はそれ、もともとは純白のドレスだったんですよー? だけど、今まで着た人たちの血が染み込んじゃって、いつの間にか今みたいなダークな発色になってるんですー。つまりー、新しい人が着るたびに血がついて色が濃くなっていくっていう、『服を育てる』的な要素があってー……」

「な、なんデスかそれぇっ⁉ もぉ、最高じゃないデスかぁーっ! こういうの、他にも無いのデスかぁーっ⁉」

「わー! お客様、話が分かりますねー⁉ じゃあ、この他にも処分に困ってる『喋る骸骨のアクセ』とか、『寿命を削る指輪』とかが倉庫に封印してあるんでー。この機会に、全部引き取ってもらっちゃおーかなー!」

「ぎゅふふー! 呪われた装備、あるだけ持ってきてくださぁーいっ!」

 今度は、マウシィのほうがショッピングに夢中になる番のようだった。


 そんな彼女に、

「ちょっとマウシィ!」

 完全に頭に血が上ったアンジュ。いつもは整った顔が、今はダークゴブリンのように暗く恐ろしい形相に変わっていた。

「アナタ、この服が呪われてるって分かってて、『欲しい』って言ったのね⁉」

「も、も、もちろんデスぅー! わ、私さっき、このドレスから、『買ってー、買ってー』っていう呪縛霊的な声が聞こえてぇー……。だから、この服が呪われてるって、すぐに分かりましたぁー!

ぐ、ぐひゅひゅ……。こういうお店の店員さんになったら、他にも呪いもらい放題なんデスかねぇー? いっそ、この店の子として雇ってもらいましょうかぁー⁉」

「『ケーキ屋の子どもはケーキ食べ放題』みたいな夢見てるんじゃないわよ! こんな店、さっさと出るわよ!」

「え、えぇぇー⁉」

 呪いのドレスをその場に叩きつけ、残念がるマウシィを引きずって、その店を出ていく。


「邪霊邪霊……墓墓死……」

 呆れ顔で――もちろん、ただの人形なので実際には感情は分からないが――彼女たちのあとをついていく呪いの人形が、一番冷静に見えるのだった。

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