傍観者
カイシュウ
第1話
俺は、彼が映る写真を一つ、見たことがある。確か、まだ高等学校にいた頃だ。同じクラスだからか、写真を見た。今見返してもこう思う。気味が悪かった、彼の顔が。
笑っていたのだ、彼は。まったくよくわからない。取って貼ったような笑みを浮かべ、楽しそうに写真に写っている。気持ち悪い。
彼の顔は…夢が叶ったかのように、晴々としていた。
もう、あの日から十年が経ったが、まだわからない。関わっていなかった。なのに、最近になってひどく苛まれる。
後悔してるのか?
そうかもしれない、俺は後悔している。
なんで関わらなかった?
こわかったんだ、ただどうしようもなく。一丁前の正義を持つ、彼といるのが…。彼といると俺までその火にもやされそうで、ただ怖かった。
逃げていたんだ…
そうだ。俺は逃げていたんだ。つらいことから、痛いことから、気持ち悪いことから。
俺は臆病で卑劣な常人だ、みんな俺のように生きている。偽善を振る舞うことができても、彼のように曇りない正義をもつことはできなかった。
だから、自分の世界に波紋を起こさないために、だから、俺は…
見捨てたんだ
そうだ、だから俺はみているだけだった。
俺の生活を守るための彼に
◆ ◆ ◆
あの日、俺は彼を見ていた。
ただ眺めていた、彼が死にゆく様を…。何をいってるのかわからないと思うがすべて事実だ。
こんな意味のない懺悔を記す理由はもうすぐ俺が死ぬからだろう。もうすぐに迎えがくる。
彼とは知り合いだった。偶然、席が近く喋るようになったのだ。
彼は善人だった。それも勇者といっていいほどの。
彼はよく人を助けてたと思う、人伝に聞いただけだから、詳しくは知らない。
そして、確か修学旅行の日だった。席が変わり、関わりがなくなった彼と、偶然、班が同じになったのだ。
彼からは以前のような覇気を感じられない、それが俺の思ったことだった。理由を知っているはずなのに、そう思う俺はやはり利己的だ…
俺は彼と関わらないために無視し、友達と観光したはずだ、もう記憶が曖昧だ。
その間、彼が何をしてたのかは知らない。でも、俺は見てしまった、彼がいなくなろうとしてるところを。
彼と目が合った。期待していた、彼は、俺に。でも、見捨てた、彼を、見捨てた、俺は、無視してしまった。
その後の顔は、よく悪夢で出てくる。失望でもなく、怒りでもなく、絶望でもなかった。
無関心だ
恐怖した。見なかったことにして走り出した。まったく理解できなかった、まるで人間じゃないみたいな。
この時、俺は彼に呪われてしまったのだろう。
彼は宿に帰ってこなかった。
先生が気づいたのは夕暮れ時だ。
当然、騒ぎになる。でも、見つからなかった。脳裏にあの光景がよみがえりながらも、僕は、傍観者でいた。
結局、見つかったのは三日後だ。彼は笑っていた。何故だろうか?
この世界が地獄だからに違いない。
彼にとって、悪魔だっただろう、俺は。
ごめんなさい
こんな言葉しか紡げない。
でも、その時の僕は、恐怖はありながらも忘れることにした。だから、気にしなかった。
◆ ◆ ◆
真っ暗な景色が広がっている。
お化けでも出てきそうな雰囲気が漂う、この気味の悪い空間で俺はつぶやく。
ごめんなさい、と
震える口で精一杯の声だった、これ以上はもうないほどの。
数刻待つと、ノイズ掛かった声が聞こえる。
「●テる」
「ホンシ◆もワッカた」
「タスケ▲ほカッた」
「◾️」
その言葉を聴き、君は変わった、醜い鬼になった。下劣で汚い、価値のない。
許してください
俺は悪くないんです
何もしなかったから
クズが動くことで紙が落ちる、その内容は…
『前代未聞の突然死!共通点は同じ学校か?』
断末魔がまた一つ、夜の街に吠えた。
傍観者 カイシュウ @key0717
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