赤ずきんマルチバース

タヌキング

むかしむかしあるところに

赤ずきんよ。狼さんのお腹から出てきたと思ったら大ピンチ。

何故か無数の狼さんに囲まれちゃったの。生い茂る森の中で私達を取り囲むように狼たちは陣取ってるの。


「シット‼狼はロンリーウルフじゃなかったのかよ‼これじゃあ弾がいくらあっても足りないぜ。」


猟師は銃を構えるけど、その手は震えている。残弾はそんなに無い筈だし、逃げるにしても狼は動きも早いし、こっちには腰の悪いお祖母ちゃんも居るんだ。とても逃げられない。


「赤ずきんや、ワシのことは良いから早くお逃げ。」


「お祖母ちゃん、そんなこと出来ないわ。だって私お祖母ちゃんのことが大好きなんですもの。」


「おぉ、赤ずきんや。」


目に涙を貯めるお祖母ちゃん。私を慈しむ心が伝わって来て、こっちまで涙が出そうだ。


「お涙頂戴してるところ悪いが、早々に死んで貰えるか?」


狼の中の一匹が鋭い目つきでコチラを睨みながらそう言ったのだけど。殺されるにしてもワケが知りたいわ。


「ど、どうして私達を襲うの?」


勇気を出して私がそう言うと、狼は吐き捨てる様にこう言い返して来た。


「お前が基準点の赤ずきんだから、お前さえ殺せば他の次元の赤ずきんは消え、俺達の天下が訪れる。ゆえにお前は死ななければならない?」


「えっ、なんて?」


基準点?他の次元の赤ずきん?何言ってるコイツ?分かる言葉で話して欲しい。


「問答はココまでだ。お前達を食い殺してやる‼」


歯を剥き出しにして全ての狼たちが私達に襲い掛かって来ようとした時、大きな重なった声が天空から響いて来た。


『待てぇい‼』


私が上を向くと、そこには空に大きな穴が空いており、そこから赤い頭巾を被った集団が落ちてきたの。何この展開?

あまりのことに口があんぐり開いて閉まらなくなったけど、赤い頭巾集団は両足で着地したり、スーパーヒーロー着地したり、コケてお尻を打ったりしながらこの地に集まって来た。一体この人は誰なの?赤ずきんは私のアイデンティティなのに。

お祖母ちゃんはあまりのことに泡を吹いて倒れちゃったし、猟師なんて立ったまま気絶しちゃった。


「やぁ、アナタが基準点の赤ずきんね。私は傭兵赤ずきん。」


背中に機関銃を背負った。体格の良い赤ずきんが私に話し掛けて来た。


「き、基準点って何なの?そしてアナタ達は誰?」


「基準点とは全ての分岐点の原点になるモノ、そして私達は基準点のアナタから派生した赤ずきん達。個性豊かな赤ずきん達よ。」


「なるほど、全然分からん。」


「あまり深く考えないで、難しいことは省くけど、アナタを殺されてしまうと私達も消えてしまうの。だから次元を超えて皆でアナタを助けに来たのよ。ちなみに狼たちも次元を超えてアナタを殺しに来たの。」


「うん、分からん。もう良い。」


私が死ぬと他の赤ずきんも死ぬというのは全くもって意味が分からないけど、要は助けに来てくれたってことね。


「色んな赤ずきんが居るから見てみると良いわ。」


傭兵赤ずきんがそう言うので、一人一人赤ずきんを見て行くことにした。狼たちに囲まれてピンチなのにそんなことしてる暇あるのか?って言われるかもしれないけど、赤ずきん達の登場に狼たちも面食らっている様で、一向に動く気配が無いから大丈夫でしょう。

まずは赤いぴっちりスーツを着た赤ずきんから見て行こう。


「私の名前はレッドズキン。頭巾戦隊ズキンレンジャーのリーダーよ。」


「頭巾戦隊?」


「要は私の他にブルーズキンやらグリーンズキンやら色とりどりの仲間が居て、皆で毎週狼をボコってるの。」


「へぇ、毎週なんだ。」


「ちなみに放送は日曜朝の時間帯よ。」


「それはちょっと何言ってるか分からない。」


さて次の赤ずきんはと。

その赤ずきんは赤黒いずきんで、手には包帯、右目には眼帯をしていた。


「私の名前は赤ずきんダークネス。闇の力が覚醒した赤ずきんだ。うぅ、右目が疼く、やめろ闇の力を開放させるのはまだ早い。」


「あはは、面白人ね。」


何だか深く突っ込むとコッチが地獄の業火で火傷しそうだったので、次の人。


「ワオォオオォォオオオオン‼私の名前は赤ずきんウルフ‼特殊な狼に噛まれたことにより狼の力を使えるようになった赤ずきんよ‼」


「本当に狼男が赤頭巾被ってるだけの姿の赤ずきんね。アナタって敵サイドの人では?」


「失礼な。見た目はこんなでも心は赤ずきんよ。人肉は食べたくなったりするけどね。」


「駄目じゃない。人肉食べたくなったりしたら駄目じゃない。」


赤ずきんウルフが涎を垂らし始めたので、私はやむなく次の赤ずきんに・・・。


「ぎゃあああああああああああああ‼」


私は悲鳴を上げてしまった。何故なら次の赤ずきんは赤い頭巾、赤い手袋、赤い靴、以外は何も纏っていない裸のナイスバディの赤ずきんだったから。


「うふ♪ネイキッド赤ずきんよ♪」


「うふじゃないよ‼何で裸なの‼」


「うふ♪痴女だから♪」


痴女だった‼こんなのが同じ赤ずきんなのが恥ずかしい‼


「赤ずきんらしく、『どうしてそんなにナイスバディなの?』って聞いてくれないの?」


「聞かねえよ。服着ろよ、けっ〇う仮面かよ。」


「それはね。エッチなことを考えながら日々悶々と過ごしていたからよ♪」


「ビッチ‼」


「ちなみに初めての男は、そこで気絶している猟師さ・・・。」


「言うなーーーーーーーー‼それ以上喋るなーーーーーー‼この歩く公然わいせつ罪がーーーーーーーーー‼」


ロクな赤ずきん居なくて私は地に膝を突いて愕然とした。

きっと、カプコンの銃持った赤ずきんや、子供三人で合体してビューティーセイントアロー撃つ赤ずきん、田村ゆかりさん声の赤ずきん、橋本環奈さん似の赤ずきんとかも居る筈である。


“ポンッ”


誰かが私の肩に手を置いた。振り向くとヨレヨレのグレーのシャツを着た赤ずきんが立っていた。


「驚く気持ちは分かるが、今は眼前の敵を倒すことだけを考えよう。皆お前の掛け声を待っているぞ。」


「アナタは誰?」


「私の名前はニート赤ずきん。29歳で働きもしてないくせに自己啓発本だけは読んでるから偉そうなことを言う赤ずきんよ。」


「ニートかい。」


ニートに励まされてやる気を出すのは釈然としないが、私は立ち上がってこう叫んだん。


「赤ずきん‼アッセンブル‼」


私の叫びと共に赤ずきん達は狼の群れに突貫して行く。これが後に歴史に名を刻むことになる【赤ずきんマルチバースの乱】になるのだが、まだ誰も知る由は無い。

とりあえず私は、卑猥な顔で猟師さんのズボンをずらそうとするネイキッド赤ずきんの顔を引っ叩いて来ることにするよ。







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赤ずきんマルチバース タヌキング @kibamusi

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