第119話 夏祭り その3

 それからもヨーヨー釣りや金魚すくいで勝負し、負けた方が勝った方の分のかき氷を奢るというルールで出店見て回った。

 まあ、負けるよね。


「うへぇ、キーンってする……」

「急いで食べるからだよ」


 ブルーハワイ味のかき氷をもしゃもしゃと食べていた紅百合は涙目で頭を抑えていた。

 冷たいものを急に食べるとアイスクリーム頭痛になるからね。僕はゆっくりと食べよう。


「ねぇ、純のやつ味見させてよ」

「かき氷って色と香りの影響が大きいから味自体は全部一緒だよ」

「雰囲気が壊れるようなこと言わないでよ。ほら、かき氷はよ」

「その状態でよく人のかき氷食べたくなれるね」


 僕は呆れながらも自分のメロン味のかき氷を差し出す。


「さんきゅ」


 紅百合は上機嫌にスプーンですくって口に運ぶ。すると、口の横からこぼれたシロップが首筋を伝う。

 浴衣姿と相まって色っぽく見えたその姿にどぎまぎしていると、紅百合は僕の様子に気づいたのかニヤニヤし始めた。


「あれあれぇ? どうしたの純」

「絶対わざとでしょ」

「うん」


 頷くと、紅百合はシロップで青くなった舌を見せた。しかも上目遣いで。そんな可愛らしくも、どこか色っぽい仕草は破壊力抜群である。

 舌の色がちょっとアレだけど。


 いやいや、こういう挑発は何度もされてきたが今回はちょっとアダルティ過ぎませんかね、紅百合さん。

 夏で開放的になってるのか。それともモモのよくない部分が影響してしまっているのか。

 僕は慌ててメロン味のかき氷を食べる。舌がヒリヒリとする冷たさが冷静さを取り戻させてくれた。


「あっ、痛ぅ」


 そして、やってくるアイスクリーム頭痛。頭がキーンとする……。


「急いで食べるからよ」


 さっきの意趣返しとばかりに、ふふんと鼻を鳴らす紅百合だったけど、その目はまだ涙目のままだった。いや、また頭痛になってるじゃん。

 そのままかき氷を食べ終えると、次にどの出店に行くかを考える。


「あと、どこ周るかな……」

「宝釣りは?」

「あれって当たり出るのかな」

『宝釣りの闇を暴くって動画、初期の白君の動画の中でもかなり伸びてたわね』


 いや何やってんだよ、未来の僕。どうやら有名になるために結構過激な動画も出していたようだ。

 当たりに紐が結びついてない可能性があるのならやらない方がいいか……。


「それ以外のを一通りやろっか」

「せっかくの祭りだし、楽しまなきゃもったないものね」


 金魚すくいやヨーヨー釣り、スーパーボールすくい、輪投げ、綿あめ、りんご飴。

 夏祭りの出店にある遊びを一通り楽しんだところで、そろそろ花火の時間が迫っていた。


「ふふっ、お祭りデート最高ね!」


 お面や綿あめなどで祭りフルカスタムとなった紅百合はご機嫌だった。おかげで財布はすっからかんである。

 その甲斐あってか、いつもよりテンションの高い紅百合を見ることができたし、良しとしよう。

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