第94話 待ち合わせまでの間
僕達はお台場に来ていた。
「人が多いなぁ……」
「文句言わなないの。みんなで集まるならここが最適解でしょ?」
理由は単純である。旅行の準備のためだ。
個人的には池袋の方が馴染みがあるのだが、僕、英さん、越後さん、吉祥院さん、筑間先輩、全員の家からはお台場の方が近い。
それに、ここには買い物だけでなくレジャー施設も豊富だ。夏休みに友人グループで来るには持ってこいの場所なのである。
ちなみに、集合場所にはまだ僕と英さんしか来ていない。
モモとの会話を経て考えていたことがある。
どうしてモモが高校生の内から付き合うように仕向けていたか。
それは大人になって失ってしまった青春を味わいたかったからだ。
モモの場合はクロと違ってそれを成したときは盛大に脳破壊されそうだけど、本人はそこまで考えていなかったのだろう。実際、脳破壊されていたし。
なら僕がやるべきことは一つ。
クロに宣言した通り英さんを幸せにする。ちゃんと彼女の傍に寄り添った上でだ。
「何よ、そんなにじっと見て」
僕の視線に気がついたのか、英さんが怪訝な表情を浮かべる。
今日の英さんはオーバーサイズの白シャツに黒のホットパンツという恰好だった。
髪型は珍しくお団子にしている。
うん、これは眼福である。うなじ最高。
「今日の服もよく似合ってて可愛いなぁって思ってさ。水色のネイルも夏っぽくいいね」
「よし、合格」
「リアクションが不合格」
「うっさいわね」
雑に肩パンをお見舞いされた。ただの照れ隠しのため、威力は抑えめである。
「でも、意外だね。英さんなら純白のワンピースに麦わら帽子とかで来るものだと思ってた」
「あたしを何だと思ってるの?」
「完璧美少女」
「わかってるじゃない」
満足げに頷くと、英さんは得意げな表情を浮かべて告げる。
「真の完璧美少女ってのはそこまで露骨な格好をしないのよ」
「偽の完璧美少女が何か言ってる」
「はっ倒すわよ」
今度は肩を軽く抓られた。はっ倒すほどではないらしい。
「あのね。そんな狙ってる感が出る露骨な格好、あたしがするわけないでしょ。着たら絶対に似合うとは思うけどね」
「一言余計だなぁ」
まあ、めちゃくちゃ似合うとは思うけど。
「それとも何? 白君は純白のワンピースに麦わら帽子のあたしが見たかったわけぇ?」
英さんはニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んでくる。
「見たいかと言われれば見たいけど……」
絶対に似合うし、普段完璧美少女を演じている英さんなら想像以上に着こなすことも容易に想像できる。
でも、そんな完璧な姿じゃなく、今の服装の方が親しみやすい。
池袋のときも思ったことだが、素の英さんらしさが出ている服装の方が僕は好きだ。
「正直、今日の英さんの格好の方が好みかな」
スカートもいいけど、ホットパンツはいいものだ。うん。
決して、太ももが素晴らしいなどという下心があるわけではない。
「やっぱり英さんは英さんらしい恰好してるときが一番可愛いからね」
「ふんっ!」
「痛っ、何で!?」
褒めたのに何故か英さんは僕の肩を思い切り殴ってきた。
「あたしはどんなときでも一番可愛いの」
「理不尽!」
まったく、耳まで真っ赤になってなかったらどうしてくれようかと思ったよ。
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