第84話 茶葉多め、砂糖多めで
期末試験も終わり、返却されたテスト用紙を見て僕達は満足気に頷く。
「今回も英さんが一位か」
「あはは、なんか調子が良かったみたい」
「またまたー、謙遜しちゃってー」
今回も英さんは学年一位だった。モモとのごたごたもあったというのに、よくその順位維持できるな……。
「吉祥院さんが二位、僕は三位、越後さんは――」
「五十、位……?」
越後さんは自身の成した結果だというのに、驚きのあまり呆けた表情を浮かべていた。
それもそうだろう。どの教科も平均点を大幅に上回っており、今までの越後さんから考えられない結果だ。
でも、心当たりならある。
「やっぱり、家じゃなくて生徒会室で勉強していたのが大きかったのかもね」
「そういえば、今回はお母さんに邪魔されなかったから……」
どうやら前回の結果は越後さんの母親が原因だったらしい。
勉強してるのに、あんたが勉強するわけないと決めつけられ無意味な説教をされれば、やる気も削がれていくだろう。
「とにもかくにも、頑張ったリラちにはご褒美あげなきゃねー」
「ご褒美って、ことは?」
「夏休みの旅行をプレゼントー。気になるあの先輩も追加でね」
吉祥院さんは楽し気に笑うと越後さんへウィンクをする。
「筑間先輩を誘うのは僕の役目だね」
「日程はバスケ部の合宿と被らないように調整すれば良さそうね」
「ま、待って、その、心の準備が……!」
わたわたと焦る越後さんへ呆れたように英さんが告げる。
「準備期間ならたっぷりあるんだから、その間に覚悟決めちゃいなさい」
英さんの言葉は僕にも刺さった。
放課後、HRも終わり夏休みが始まる。
窮屈な学校生活と試験勉強から解放されたことで、クラスメイト達はこれからの長い自由時間に浮足立っていた。
浮足立っていたのは僕も同じだ。
モモの真実を知り、改めて決意した。
きちんと英さんに自分の気持ちを伝えるべきだ。
「はぁ……」
とはいえ、こういう恋愛事情について相談できる人いないんだよなぁ。
英さんは本人だから論外。
モモは押し倒せと言ってくるのが見えている。
越後さんは恋愛ごとには疎い。
吉祥院さんとは友達の友達って距離感だから相談し辛い。
「やっぱり、筑間先輩かな」
同性だし、あの頼りになる兄貴感は相談もしやすい。ちょうど、夏休みの予定についても話したかったし。
「シロ君、どこいくの?」
「ああ、吉祥院さん。ちょっと先輩のとこに相談に」
筑間先輩のいる教室へと向かおうとした途端、吉祥院さんに話しかけられた。
「わざわざ先輩のとこ行くってことは、くゆちゃんには相談し辛い感じ?」
「へあ!? そんな、ことないよ?」
「あっはは、シロ君。わかりやすー」
吉祥院さんはケラケラと笑いながら僕の肩を叩いてきた。
「私でよければ話くらい聞くのにー」
「えっ、いや、でも」
「ほら、私と白君って友達の友達って感じで仲良くはないじゃん?」
全くもってその通りだが、素直に頷くのは失礼というものだろう。
「だから、そういう距離感の私の方がいろいろ吐き出しやすいかもよ」
「そういうものなのかな……」
確かに吉祥院さんは相談するよりされている姿の方が似合う。ギャルだし。
「じゃ、喫茶店でもいこっか」
「えっ」
こうして対して仲良くない女子と二人で喫茶店に行くことになってしまった。
他の生徒に見られて変な噂が立つのも避けたい。少し離れた喫茶店にでも行こう。
「いらっしゃいませー」
吉祥院さんを連れ立って喫茶店に入ると、気の抜ける挨拶と共に黒髪でいい声の店員さんが出迎えてくれた。歳は同じくらいだろうか。
「二名です」
「はーい、お席にご案内します」
店員の誘導に従って席に着く。すると、すぐにコースターと共にお冷が置かれる。
「アッサムのロイヤルミルクティーとキャンディーのストレートティーください。ロイヤルミルクティーは茶葉多め、砂糖多めで」
「スタバの注文かよ」
「ふっ、くく……承知いたしました。お砂糖は後程持って参りますので、ご自分で調節をお願いいたします……」
吉祥院さんの独特な注文に店員さんは笑いを堪えると、そのまま厨房へと引っ込んでいった。結局笑いを堪えきれなかったのか、厨房からは「ひぃひー……」という独特な引き笑いが聞こえてきた。
「よく僕が濃い目の甘いミルクティー好きって知ってたね」
「練乳パフェを強請る人だから、濃厚な甘いものが好きな人って当たりを付けたってわけ」
「ピンポイント過ぎるでしょ」
下手をしたら吉祥院さんの観察力は英さんを上回っている可能性も出てきた。
ある意味、相談をするにはもってこいの人物かもしれない。
何だろう、吉祥院さんのことは良く知らないけど、彼女になら話しても大丈夫。そんな感覚がした。
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