第80話 家庭の事情
生徒会室での勉強会が終わり、僕達は帰路に就いた。
越後さんは母親への体裁もあるため、生徒会長と一緒に帰宅した。
「リラ、大丈夫かな……」
英さんが心配そうに呟く。
彼女も家庭の事情に振り回された経験がある。恵莉花さんや雄一さんは良い人だったけど、越後さんの場合はまた事情が違う。
昔から抱えていたお姉さんへのコンプレックス。それを刺激していたのは、他でもない彼女の母親だったのだ。
「じゃあ、私の家はこっちだから」
「また明日ね」
「じゃあね、吉祥院さん」
吉祥院さんと別れ、二人きりになった僕達は並んで歩く。
英さんの後ろを沈んだ表情でついていくモモの様子が気がかりだった。
「英さん。越後さんの件、どう思う?」
「どうもこうも、ありゃ十中八九毒親じゃない」
毒親。子供を支配したり、傷つけるまさに子供の〝毒〟そのものと言える親のことだ。
明らかに生徒会長を贔屓し、越後さんには話すら聞かないあの態度。短いやり取りだったが、まともな親子関係でないことはすぐにわかった。
わかりやすいお手本は身近にいる。
英さんが母親である恵莉花さんを〝完璧美少女の原型〟としたように、越後さんは自分の母親を〝横暴な支配者の原型〟としていたのだろう。
「生徒会長がああなったのも頷けるわ」
「ああなったって?」
「状況は違うけど、あたしと同じよ。あたしはお母さんが心配しなくてもいい〝自慢の娘〟であろうとした。生徒会長はあの母親から身を守るために〝自慢の娘〟になった。あれはそういうことよ」
以前、英さんは〝人間ってのは絶対裏があるもの〟と言っていた。
要するに、英さんは生徒会長も天然の完璧美少女ではないと言いたいのだ。
「そういえば、生徒会長って……」
未来じゃセクシー女優になっていたとクロもモモも言っていた。
もしかしたら、家庭環境が原因なのかもしれない。
「どうにかできないのかな」
クロから話を聞いたときは、越後さんは英さんを追いやったストレス源でしかなかった。
でも、今は違う。
越後さんだって、僕の友達なんだ。
「リラは友達だけど、これは家庭の問題よ。あたしたちが踏み込んでいい話じゃない」
「そりゃそうだけど……」
英さんが冷静に告げる。わかってはいるが、どうにも心がモヤッとする。
でも、きっと僕以上に英さんは心中穏やかではないのだろう。
バスケの試合で我を忘れて応援するくらいだ。英さんが越後さんに心を許しているのはバカでもわかる。
お互いに本心を明かしてやっとできた友達を英さんが放っておけるわけもないのだ。
「それにその前に片付けなきゃいけない問題もあるしね……」
意味深にそう呟くと、英さんは僕に向き直って告げる。
「白君、この後うち来ない?」
その真剣な眼差しを見た僕に断るという選択肢は存在していなかった。
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