第74話 未来でもおバカ
父さんに自分の気持ちを伝えられたことで、僕は夏の青空のように晴れやかな気持ちになっていた。
未来のことはわからない。それでいいのだ。
大切なのは今を後悔しないように全力で生きることだ。
確かに英さんがモモのようになってしまう未来は防ぐべきだが、それは僕が彼女の傍に居続ければいいだけの話だった。
とどのつまり、とっとと告白する。選択肢はそれしかないのである。
「あのさ、英さん。今日、放課後に時間ある?」
朝の教室で僕は英さんにそう切り出した。
「時間ならあるけど、大丈夫? もう期末試験前だよ」
「期末、試験……?」
しかし、目の前の現実に僕の覚悟は吹き飛ばされてしまった。
タイミング的に絶対今じゃない。どこの世界に試験前に告白するバカがいるんだよ!
「あっ、リラがムンクになった」
越後さんに関してはもう何も言うまい。
本家ムンクよろしく耳に手を当てて絶望的な表情を見ればわかることである。
「ムンクって絵の人が叫んでるんじゃなくて耳を塞いで周りの自然の叫びから逃れようとしてるんだって」
「ある意味、耳を塞いで現実から逃げてる越後さんには当てはまってるわけか」
「息ピッタリで追い打ちをかけないで!」
越後さんも学習しないなぁ。
その場限りの知識の詰め込みじゃ勉強する意味がない。
たとえ未来の日本代表だとしても、学力が不必要なわけじゃないだろうに。
『リラってモデルデビューした後は配信でのおバカキャラも人気だったわねぇ……』
未来じゃ学力がないことが武器になっている、だと……?
未来での出来事を思い出したのか、英さんの背後でスタンバっていたモモは遠い目をしていた。
「こうなったらとことん勉強して赤点回避してやる!」
「とことん頑張っても赤点ギリギリなんだ……」
越後さんんの未来を考えれば、学力が必要じゃないはわかるけど、本当に大丈夫なのだろうか。
「そもそもリラは目標が低すぎるのが問題なんじゃない?」
英さんは聞き分けのない子に言い聞かせるように告げる。
「赤点回避を最高到達点にすると、そこからミスをしたときに容赦なく赤点になるじゃない? だから目標自体はもっと高く設定した方がいいと思うわ」
「や、やめろぉ……正論は聞きたくない」
「ムンクユリの叫びだね」
「誰がムンクユリよ……」
英さんはこめかみに手を当ててため息をつく。
「モチベーションの向上ってなると、やっぱりご褒美が必要なんじゃないかな」
未勉強、ダイエット問わず、何かしらの目標を設定するときは達成時の自分へのご褒美を用意した方がいいと聞く。
越後さんみたいにバスケにあれだけストイックになれる人ならば、勉強だってモチベーション次第では何とかなるはずだ。
「ご褒美……やっぱりアレかな」
名案を思い付いたとばかりに、英さんが笑顔を浮かべる。
「白君、筑間先輩と仲良かったよね?」
筑間先輩、という言葉にビクリと越後さんの肩が揺れる。
「今度、みんなで一緒に遊びに行く予定を取り付けてほしいんだけど、いいかな?」
「ああ、そういうことね」
英さんの言いたいことはよくわかった。
「な、なな、あんた達いつから……!」
「あたしの目を誤魔化せると思う?」
「さすがに英さんじゃなくても、友達の変化くらいは気づくよ」
越後さんが見せた筑間先輩への過剰反応。それに加えて一緒にバスケをしているときの楽しそうな表情を見ていればある程度察しもつくというものだ。
「好きな人のためなら人はどこまでも頑張れるものだからね」
「そうそう。リラの学力がどこまで伸びるか見物ね」
越後さんは僕達の指摘に顔を赤くして口をパクパクさせていた。
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