第62話 遅いお目覚め
とはいえ、良い方向に未来が変わっている人もいるかもしれない。
一縷の望みをかけて尋ねてみる。
「学級委員長の宇津井くんと図書委員の中谷さんがどうなったか知ってる?」
確か、前の時間軸では妊娠して高校を中退していたはずだけど。
「大学卒業後に結婚して子供作ってたわよ。あたし、結婚式参列したし」
「良かったぁ……」
どうやら、きちんと良い方向に未来が変わった人もいるらしい。
「じゃ、じゃあ、越後さんは?」
「女子バスケの日本代表になって引退後はモデルやってるわよ」
「お-、大出世じゃ――えっ!? びっくりしたぁ……」
さらっと告げられたとんでもない未来に、一瞬遅れて衝撃がやってきた。
越後さんが女子バスケの日本代表選手だなんて納得もできるけど、それ以上に驚きが勝ってしまう。
その上、引退後もモデルをやっているなんて人生が好転するにも程があるだろ。まあ、確かに越後さん、胸はないけど良い脚してるもんなぁ……。
「美人な見た目に反してパワフルなプレイスタイルが人気でね。個人的に推してる人もたくさんいたわ」
「推し?」
「アイドル的な存在ってこと」
「うえっ、マジですごいじゃん!?」
僕が闇落ちしている間に、越後さんは大躍進を遂げていた。
努力している彼女を知っているからこそ、その未来を聞くことができて何よりも嬉しかった。
「あたしとは配信プラットフォームが違うけど、たまに配信もやってるわ」
「はえー、何でもござれって感じだね」
配信プラットフォームが何かはよくわからないけど、テレビとラジオ的なことだろうか。
「ちなみにファンからは愛称として〝えちゴリラ〟って呼ばれてるわ」
「どうして、どうして……」
もうここまでくると呪いの域である。生徒会長もそうだけど、どうして親御さんは苗字と名前を合わせたときの弊害について考えなかったのだろうか。
いや、名前単体で見ると〝睦月〟も〝凛桜〟も綺麗な名前なんだけどね?
「越後凛桜、どうあがいても、えちゴリラ」
「ここで一句、じゃないんよ」
「てへぺろ(・ω<)……あっ、これもう古かったか」
「絶賛大ブームだよ!」
ウィンクをして下をペロリと出したモモは三十歳とは思えない可愛さだった。さすが人気配信者。あざとい完璧美少女は健在らしい。
『あれ、あたしがもう一人いる……?』
そうこうしている内に、英さんが壁尻状態から目覚めたようだ。
「あっ、英さん起きたんだ」
「遅いお目覚めね」
『待って待って普通に受け入れないで。何があったか説明してほしいんだけど』
理解の範疇を超えた出来事に直面し、英さんはほとんどパニック状態だった。
まあ、幽体離脱なんて普通に生きてたらまず経験しないだろうし、仕方ないだろう。
僕は掻い摘んで何があったのかを説明した。もちろん、好意云々の話は全て伏せさせてもらった。
『要するに、クロのときと同じってことね』
全ての話を聞き終えると、英さんは納得したような表情を浮かべていた。
『とりあえず、モモでいいのかしら……あたしの体返してくれる?』
「わかったわ」
英さんの言葉に頷くと、モモは体の主導権を英さんへと戻した。
そして、幽体離脱していた英さんは肉体に吸い込まれていき、代わりに今より短くなった髪をピンク色に染め、パツパツの制服に身を包んだモモが飛び出してきた。
いや待って、何で三十歳のモモが高校時代の制服着てるの?
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