第56話 どうして英さん、すぐに死んでしまうん?
雲一つない青空と地面を焼く日差しが眩しい夏の高校生活。
衣替えの移行期間が終了したこともあり、熱を吸収する黒のブレザーから涼し気な半袖の白Yシャツへと制服も移り替わる。
何かと開放的になるこの季節。身も心も大胆になった完璧美少女は被っていた猫すらも脱ぎ去っていた。
「白君は夏休みはどうするの。ご両親は忙しそうだけど、まとまった休みを取って家族旅行とか行ったり?」
『どうせ暇でしょ。というか、暇であれ! それでまたデートしたいなぁ。今度はプールとか海が良いわね。水着姿で悩殺してやるんだから』
正確には違う。大胆というか、心の声が筒抜けになっていた。
「いや、予定は特に入ってないよ。うちの両親はいつでもワーカホリックだから」
「そっか、じゃあみんなでどっか遊びに行こうよ」
『やだ。絶対二人きりがいい』
校内ということもあり、下手なリアクションを取るわけにはいかない。
何とか顔が引き攣るのを堪えながらも、会話を続ける。
「うっすー。何の話してんの?」
そこにすっかり英さんと仲良くなった越後さんが現れる。バスケ部の朝練後にシャワーを浴びたのか、まだ髪は湿っていた。
「白君、夏休みに予定ないみたいだからどこか行こうかって話してたの」
「おいおい、それならウチも混ぜてよ」
越後さんが英さんに肩を組みながら口角を上げる。英さんは水飛沫が飛んだのか若干迷惑そうな表情を浮かべているも、強引に振り払ったりはしない。
「でも、ほら越後さんってバスケ部の合宿あるんでしょ?」
「夏休み丸々使うわけじゃないっての。それとも何か? ウチはいない方がいいってか」
「そんなわけないじゃない。リラを仲間外れにするなんて寂しいもの」
『あんたはあたしの気持ち知ってんでしょ! 気を遣え、気を! あたしは、白君がすーきーなーのー!』
当然、この何とも反応に困る副音声は僕にしか聞こえていない。何なら英さん本人にだって聞こえていないのだ。
「おはよー、今日も騒がしいね」
そこに同じグループの吉祥院さんも合流する。
クロが成仏してから少し経ち、クラス内のグループには動きがあった。
僕は完全に越後さんのグループに取り込まれ、他の男子達は英さんに振られたこともありいつの間にか別のグループに合流していた。憐れなり。
元々気配りのできるイケメン枠がいなかったこともあり、このグループに残った男子は僕だけとなってしまった。
現状に不満があるわけでもないが、気の置けない男子の友達が欲しくなるのもまた本音である。
現状、その枠には何故か完璧美少女を演じる英さんが当てはまっているのは、もう何かのバグだと思いたい。
それにしても、だ。
『どうどう白君? 当時のあたしの気持ちを代弁してみたんだけど、ぐっと来た?』
「はぁ……」
『ぐっと来ないわけないわよね! さあ、いつでもあたしに告白していいのよ? この時期なら絶対オッケー出すから!』
英さんの後ろから出てきた副音声の正体にはため息が出てしまう。
『大丈夫、三十歳とはいえ当時の気持ちはちゃんと覚えてるから! 思い切って告白していいのよ!』
十四年後の未来から再び未練を残して時を超えた存在。これで二回目とはいえ、慣れたくない現状である。
何故か三十歳にもなってパツパツの制服に身を包んだ未来の英さんは自信たっぷりに告げる。
『何てったってあたしは
どうして英さん、すぐに死んでしまうん?
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