第19話 そうだ、えっちゴム付き先輩だ!
生徒会室に入ってきたのは英さんに負けず劣らずの美人だった。背中まで伸びた黒髪は艶々と輝き、柔らかそうな唇は瑞々しく潤い、吸い込まれてしまいそうになる大きな瞳は長いまつ毛に縁どられている。
胸の大きさは英さんに軍配が上がるが、すらりと伸びる手足は補足しなやかで、スタイルに関しては英さんよりも優れていると言っていいだろう。
いや、肉付きの良い英さんも全然良いと思います。はい。
この人が現生徒会長であり、越後さんのお姉さんだ。
「あなたが英さんね! はじめまして!」
生徒会長は英さんを見つけると、ぱぁっと顔を輝かせた。
「はじめまして、英紅百合です」
「放課後にわざわざごめんなさいね」
英さんがぺこりとお辞儀すると、会長も笑顔で応える。それから僕の存在に気付いたようで視線を向けてきた。
流石にこの状況では無視するわけにもいかないと思い、軽く会釈をする。
生徒会長の名前は……何だったっけ?
『ほら、えっちゴム付き先輩だろ』
「ああ、そうだ。えっちゴム付き先輩だ!」
その瞬間、生徒会室の空気が凍り付いた。
「ん?」
固まった笑顔のまま英さんがこちらに顔を向ける。
「ん!?」
なんて綺麗な二度見だろうか。よっぽど僕の発言が信じられなかったらしい。
僕も信じたくない。あとクロをぶん殴りたい。
「げほっ、げほっ! すみません。噛みました!」
「あら、そうなの? 良いあだ名付けてもらったと思ったんだけど……」
何故そこで残念がるんだ。どうやら生徒会長は妹の方と違ってかなりの天然らしい。
「はじめまして、白純といいます」
「はじめまして。あっ、そういえば自己紹介がまだだった」
ようやく思い出してくれたのか、生徒会長はぽんと手を打つ。
「生徒会長の越後睦月です。よろしくね」
先ほどまでの緩んだ表情を引き締めて背筋を伸ばすと、凛とした声で名乗った。普段はフワフワしているが、締めるところはしっかり締められるらしい。
『おお、これが生で見るゴム付き様か……生なのにゴム付きとはこれ如何に』
バカなことを宣っているクロは一旦捨て置こう。さっきから僕の周りの女性陣が冷たい目で見ている気がするが、きっと気のせいだろう。そうに違ないない。そうであってくれ。
僕が冷や汗を流していると、生徒会長は僕達に気さくに話しかけてきた。
「二人共確か凛桜ちゃんの友達だったよね」
「えっ、どうして知ってるんですか?」
「だって全校生徒の顔と名前、学年、クラスは頭に入ってるから」
事も無げに言ってのける生徒会長に僕は驚愕した。
全校生徒の顔と名前を全て把握しているというのか。
容姿端麗、成績優秀、才色兼備。美人を絶賛する言葉は彼女のために存在すると言っても過言ではないかもしれない。
これが天然の完璧美少女。恐ろしい限りである。
隣にいる養殖の完璧美少女も驚きのあまり固まってしまっている。
「
そう言う生徒会長の表情は慈愛に満ちていて、まるで女神のようだ。
その柔らかい雰囲気に僕と英さんはこくりと首を縦に振って答えるしかなかった。
その後、英さんの勧誘の件と僕の身嗜みの件は有耶無耶になった。
副会長も生徒会長の手前、強引なことはできなかったようだ。
「何とかなったね……」
「本当に助かった――ぶふっ」
英さんが安堵の溜息をついた瞬間、盛大に吹き出した。
「何がそんなに面白かったんだよ」
「いや、生徒会長の名前、噛み方が最低過ぎて……くくっ……!」
どうやらえっちゴム付き先輩がツボに入ったらしい。こちらとしても不本意である。
「それより、今日も家来るでしょ」
「えっ、うん……行くつもりだったけど」
誤魔化すように話題を変えると、英さんは戸惑いながらも頷く。
「お弁当、うちで温めて食べていきなよ。お昼、副会長のせいで食べ損ねたでしょ」
「白君……」
英さんは驚きのあまり言葉を失っていた。そんなに僕から家に誘うのは意外だっただろうか。
「意外。そういう気遣いできたんだ」
「気遣って損したよ」
案外、養殖モノも悪くはない。そんな僕らしくもない考えを頭から追い出す。
危ない危ない。危うく絆されるところだった。
僕は英さんに気づかれないよう小さく嘆息すると、帰路に就いた。
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