第17話 ちょっとボディーガードを頼みたくて
ある日のこと。
昼休みはいつものように僕の席が英さんの友人達に占領されてしまうので、避難しているのだが、今日はいつもと違う出来事が起きていた。
普段ならグループの中心にいるはずの英さんが、教室の扉の所で先輩らしき人と話していたのだ。
その相手は、いかにも真面目そうな眼鏡をかけた男子生徒だった。
会話の内容までは聞こえないが、二人の表情から察するに部活か何かの勧誘だろうか。
「あれ、生徒会の副会長じゃない?」
「うわぁ、いかにもって感じ」
「くゆちゃん生徒会に入るのかな」
「ないない。あの子、バイトで忙しそうなのにやるわけないじゃん」
本当はバイトよりも僕の家に来る頻度が高いのが忙しそうにしている原因なのだが、そのことを知っているのは僕と英さんだけである。
したがって、クラスメイト達は英さんがバイトと勉強を優先しているという認識をしていた。
「先にお昼食べちゃおうか」
「さんせー」
結局、英さんはその後もずっと副会長に捕まっていたらしく、昼休みが終わる直前まで戻ってこなかった。
副会長も気が利かない人だな……話があるのはいいけど、昼食の時間削るまで話し込むなんて配慮が足りないんじゃないだろうか。
「はぁ……」
珍しく英さんが溜息をつきながら席に座った。こういう態度を表に出さない彼女らしからぬ行動である。
英さんは徐に携帯を開くと、僕にメールを送ってきた。
[英紅百合:放課後時間あるよね]
短い文章だったが、何が言いたいかは容易に想像がつく。
[白純:オーケー。どこへでも付き合うよ]
僕は英さんのメールに対して、肯定の返事を返した。もうこの扱いも慣れたものである。
その日の授業が終わった僕は、言われた通り英さんの待つ生徒会室の前へと向かうことにした。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、私も今来たところだから気にしないで(あたしを待たせるなんていい度胸じゃない)」
人目があるから笑顔ではあったものの、内心ではご立腹のようだ。
おそらく、僕を待っている間に何人かの生徒に話しかけられたのだろう。
その間ずっと気を張っていたのだから、そりゃストレスも溜まるだろう。
「実は今、生徒会から勧誘されてるの」
「そういえば、昼休みに副会長が来てたね」
僕達の通っている高校の生徒会役員は現生徒会の指名によって選ばれる。
英さんの人望やコミュニケーション能力は既に学年中に知れ渡っている。それがとうとう先輩達の耳にも入ってしまったということだろう。
「副会長さんが熱心な人だったから大変だったよ」
苦笑して頬を掻く英さんだったが、熱心というよりはしつこくてうんざりしているというのが本心だろう。
それでも猫を被るのをやめられないのだから難儀なものである。
「それで、生徒会室に行くのにどうして僕をわざわざ連れてきたの?」
「ちょっとボディーガードを頼みたくて」
それはつまり、僕を巻き込んで生徒会勧誘の話をうやむやにしようという魂胆だろうか。
「……僕はパッと見、不良生徒に見えるもんね」
一人でいると体裁を気にする英さんは生徒会からの勧誘を断りづらい。そこで僕という見た目に圧のある男子を使い、強引に勧誘を断るつもりなんだろう。
「そ、そんなことないと思うよ?」
一瞬でバレる嘘をつくな。目が泳いでるじゃないか。いつもの猫被りはどこいった。
「これはさすがに〝約束〟の範囲外だと思うんだけど」
別に僕もそこまで乗り気ってわけではないし、そもそも英さんと違って面倒事に巻き込まれたくないから避けていただけで、進んで巻き込まれたいとは思っていない。
「お願い! 頼れるのは白君だけなの……」
両手を合わせて上目遣いでこちらを見つめてくる英さん。その仕草は反則だと声を大にして叫びたかった。
「はぁ……わかったよ」
結局、僕の方が折れることになった。頼みごとを断れないのは僕も同じみたいだ。
英さんは僕の言葉にぱっと表情を明るくする。
「やっぱり持つべき物は白君ね!」
「今さらっと物扱いしなかった?」
やっぱり帰ってやろうか、この女。
心の中でそう毒づきながらも、僕は軽い足取りになった英さんの後を追って生徒会室に入っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます