偽皇帝の周りの男達
「へぇ、相手さんはよっぽどの手練れやな。少なくとも、暗殺術だけやなくて武術の技術も身につけとるわ」
渡した矢をしげしげと眺める
暗殺者の矢は飛ばすのが難しい。矢羽根がついていないうえに、長さがないので軌道を安定させるのに苦労するのだ。弓の大きさも携行できるほどに小さく、そのかわり張った弦は通常の五倍の強さを要する。
吹き矢は肺の強靱さがいるが、この矢を射るには弦を引けるだけの
「それで、どうして
蚊の鳴く声で
普通ならば、背を向けている者には聞こえはしない声量なのだが、狗哭の者達は耳が良い。これくらいでも難なく言葉を拾える。
「王都から出るからな。万が一のことも考えて、付近を見回ってたんや。それにしても、さすがは禁軍の武官やな。輪の内側に入るん結構苦労したわ」
「じゃあ、もしかして犯人の姿も……!」
しかし、
「実はな、お前に矢が飛んでいくのは気付いたんや。それで射元へすぐに向かったんやが……」
「見つけられなかったのね」
今度は
気配を感じてすぐに追ったらしいのだが、姿を捉える前に武官の警戒網に到達してしまい、それ以上は追えなくなってしまったという話だった。それで戻ってきたら、飛訓がいて声を掛けるに掛けられなくなったと。
「まったく何してんねん。自分が女やて忘れたんか……そない姿で抱き合って……」
「抱き合ってって、今回は不可抗力よ。それにバレてないし……多分」
「親子共々、語尾で俺を不安にさせんといてくれや」
チラッと背中越しに目だけを向けられる。が、さらしを締めているところだとわかると、すぐに
「やから、そういうところやて!」
「何よ、今更じゃない。
はぁと
「お前……俺かて男やからな」
「でも、兄弟みたいなものじゃない」
(そうなのよね。
衝立の向こうを見遣った。
同じ男だというのに、何が違うというのか。
「…………ほらよ完成、だっ」
ギュッと想像の倍の力で締められ、思わず「うっ」と喉から声がせり上がった。入れ替わりがバレそうな危険な状況に陥ったことに、相当ご立腹のようだ。
「
「陛下、そろそろ準備は整いましたか」
◆
一方、
王宮内朝、皇嗣宮の中のとある后妃の部屋。
左目を押さえていた
「……ぁ……あいつ……!」
前触れもなく立った
「あ……いや、なんでもない」
袖を引かれるまま、再び
しかし、隣に己の妃がいるというのに、
「殿下、先日は申し訳ありませんでしたわ」
突然、雲蘭が深々と頭を下げた。
「わたくし、殿下のお心が遠くへ行ってしまったらと不安で仕方ないのです」
先日とは、日華殿から戻ってきた時のことを行っているのであろう。
「不安って……俺が訪ねていたのは兄上だぞ」
「それでもです。女は愛する者の心の端まで、すべてをほしがる生き物なのですよ。しかも、陛下の後宮へもよく訪ねられてるという噂まで耳にしてしまったら……」
「兄上の新たな寵妃という者に興味があったんだ。俺が兄上の后妃に心を寄せるわけないだろう」
自分が、兄から何かを奪うことなどありえない。
「それを聞いて安心しましたわ」
雲蘭は
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