ネットの兄と異世界転生? 〜本当の兄妹になったからにはお兄様に甘えまくるぞ!〜
色葉みと
プロローグ ななとゼロ
第1話 ネットの兄妹
私には兄がいる。
兄と言っても、血のつながりがあるわけでもなければ、一緒に住んでいるわけでもない。ましてや会ったことすらない。
それはリアルで、の話だが。
兄——ゼロ兄ちゃんとは、世界的に使われているSNS、
これは投稿する時に文字数制限があることで有名なほか、文字でのやり取りや声でのやり取りもできる。
なかなかに優れ物だと私は思うが、世間的には……まあ、改善点がたくさんあると評価されているようだ。
ピコン
通知音を鳴らしたスマホは、ゼロ兄ちゃんからの
『今日の通話15分ぐらい遅れそう……。ごめんね、なな』
それぐらいなら全然大丈夫だ。
けど、私が10回ぐらい楽しみにしてると言ったから気にしてるだろうなぁ。……よし、笑わせよう!
それで考えついたのがこれである。笑ってくれるのか、正直自信はない。
『なな、了解であります!』
『ありがとうwwwww』
私が送った5秒後に返事が来た。とても早い。
かなり
「
「はーい!」
ゼロ兄ちゃんとのやり取りがひと段落し、スマホを置いたちょうどその時、母からのお風呂コールが来た。
我ながらネットにリアルに充実してる気がする。良いね、楽しい。
「ふんふんふーん♪」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら、身体を洗い、湯船に浸かった。
そういえば、ゼロ兄ちゃんはどうして「ゼロ」っていうハンドルネームなんだろう?
本名に「レイ」と読める漢字が入ってるのかな? それともただ単にかっこいいから? どうなんだろうなぁ。
まあ、私の場合はすごく安直だけど。本名の「七海」から「なな」をとっただけなんだよね。
偶然とはいえ
……気になり出したら止まらなくなってきた。後で聞いてみよう。
お風呂から上がり、歯磨きをしたり本を読んだりしていたら、あっという間に約束の時間になった。
机に置いたスマホの前で待機すること2、3分。ゼロ兄ちゃんからのDMを待つ。
『おまたせー、通話できるよー』
DM来た!
『はーい、かけるねー』
爆速で返事を送り、通話ボタンをタップする。
ゼロ兄ちゃんはすぐに入ってきてくれた。
嬉しさのあまり声を大きめに勢いよく言う。
「ゼロ兄ちゃんこんばんは!」
「ななー、テンション高いねー。ふふ、こんばんは」
テンションの高さを笑われてしまった。
だが、仕方がない。これも通話するのが久しぶりなのと、寝落ち通話なるものが初めてのせいだ。逆にテンションが上がらないほうが不思議なくらい。
「笑わないでよー! 仕方ないんだよー!」
「ふはっ、そんなにテンション上がってて寝落ちできる?」
「まだ笑ってるじゃん! できるしー! テンションちゃんと落ち着くしー!」
家族と話すときよりも子どもっぽくなるのはきっと「甘えたい」自分が出てきているから。
兄が欲しくて甘えたい私と、妹が欲しくて甘えられたいゼロ兄ちゃん。上手く需要と供給が一致した結果、私たちはネットの兄妹となった。
高校生にもなって甘えたい欲求があるのは普通なのだろうか? まあ、その欲求は隠すところでは隠しているからいっか。
「落ち着くと良いね。あー、可愛い」
「いや突然どうした?」
「ななが可愛い。妹可愛い。最高に可愛い」
ゼロ兄ちゃんは時々こんな風に可愛いを連呼することがある。
いつも驚くが、可愛いと言われることは嬉しいので素直にありがとうと言う。
「いつも突然だね。ありがとう。可愛いって言ってもらえて嬉しい」
「……可愛い! 喜んでるなな可愛い!」
「そ、そっか」
嬉しいのは嬉しいが、こんなに可愛いを連呼されると遠慮の気持ちが出てくる。
そしてちょっと呆れたような物言いになる。「たぶん呆れてないから気にしないでー!」と念を送るのがいつものパターンだ。
今も送っている。
「うん、そうだよ」
「ありがとう。……あ、そうだ。ゼロ兄ちゃんに聞きたいことがあったんだった」
「なにー? なんでも答えるよ」
「なんでもは言い過ぎでしょ」
「今日の夕ご飯から住んでいる地域まで。……あ、なんでもではないね。条件付きなんでもだね」
よかった。流石になんでもはなかった。安心安心。
珍しくツッコミどころが満載の発言をしたな、と思いながら、椅子からベッドに移動する。
「うん、条件付きなんでもでお願いします。それで、聞きたいことなんだけど、どうしてゼロ兄ちゃんは『ゼロ』っていう名前にしたの?」
「おお、突然だねぇ。そうだね。……『ゼロ』を別の言い方で言うと『レイ』でしょ。どこかの言葉で『レイ』は羽っていう意味を連想できるんだよね。それで、本名に『羽』の字が入っているから『ゼロ』にした、だったと思うよ」
思った以上にちゃんと理由だった……! そしてゼロ兄ちゃんの本名には「羽」という字が入っているのか。
どんな名前なんだろうなぁ。まあ今のところ聞く気はないけど。
「どこの言葉なのかは忘れたけどね。そして何より『ゼロ』ってかっこいいじゃん」
「確かに、やっぱりかっこいいっていう理由はあったんだ。教えてくれてありがとう。気になってたから知れてすっきりした」
「どういたしまして」
それから私たちは1時間ぐらい雑談を繰り広げた。
かなり高かった私のテンションもだんだんと眠気に引っ張られうとうとするぐらいに落ち着いた。
「ななー、起きてる?」
「……なんとか起きてる」
「すごく眠そうだね」
そう言ったゼロ兄ちゃんも眠そうだね。
それは声として出ていなかった。
夢と
「……ふと思ったんだけどさ、異世界行って本当の兄妹になりたいよね」
「……そうだね。そしたら、毎日会える、ね」
ゼロ兄ちゃんと本当の兄妹になる。ありえないけど、なんだか楽しそう。
そんなことを考えながら、夢の世界へ入っていく。
「おやすみ」という声が聞こえた気がした。
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