第3話 グズ男でち
俺が事故で死んで、ハムスターに転生してから1週間がたった。
気になっていた職場の部下の鈴木ルカのハムスターに転生した。鈴木ルカのバリバリ働きほどほどに美人で男性うけする鈴木が、会社から帰宅後は、学生時代のジャージを着ながらビールを飲み、そこそこな汚部屋女子と言う事にはなれた......。
慣れたと言うよりは、飼われている身分の俺は3衣食住つきの、この生活が好きになり始め......堕落への道をひた走る。
毎日、人間だったら歯が折れそうなペレットを食べ、鈴木が機嫌の良い時は、ひまわりの種をくれた。
意外にもひまわりの種は、バターのように濃厚でチーズケーキみたいなほどよいうまさだ。......うまさじゃねーぞ元人間、俺。
鈴木はハムスターを飼いだしたばかりで、ガサツな性格だが部屋のそうじをしてくれる。
最初は回し車で走りながら放尿するハムスター特性の屈辱や鈴木が仕事に行く時に暖房をつけ忘れるのは死活問題だが仕方ない。
鈴木の独り言、否、俺に話しかける時には職場の愚痴から、どうやら俺が死んで1週間で社内はもとどおり。課長になる後輩は、八代ミツキと言う俺の同期だ。
人が1人死んでも、世界はむごいほど日常を取り戻し社会は春に桜の花が散るくらい、儚いでち。
でち?よく鈴木が俺に話しかける時に、語尾に◯◯でちね~と言うのでハムスターになりつつある。
馬鹿にされているのか、愛されているのか、正直ハムスターになった俺の脳では理解に苦しむ。
世の中のハムスター達はみんな思っているのか。
昼夜逆転のハムスターの暮らしは昼間に眠り、夜には目がさめ、鈴木が帰宅するとご飯をもらえる。
珍しく、ガタガタとドアを開ける音がしたが、毛づくろいすら身につけた俺はそれどころではなかった。
「どうぞ、どうぞ、散らかってるけど♡」
声が職場モードだ。後から入っていた人間の匂いで、俺は誰だか分かった。
八代ミツキだ。仕事も出来て、女性うけも良いが.....彼女が3人いるクズ男だ。
「突然、ごめんね。食事に誘っておきながら、お茶までなんて」
アイツの手口だ。イケメンで、その一言で女を増やしている。
増やしている?ハムスターの繁殖じゃあるまいし、俺は木で出来た部屋に本能的にもぐりこんだ。
「いいね、私は今フリーだし♡」
完全に、鈴木は浮かれている。自分の出来事ではないが....買い主だ。
部屋から出て、ケージをガリガリかじると、スーツ姿の八代がこちらを見た。
「へえ~鈴木さんハムスター飼ってんだ。可愛いね」
そう言いながら、八代は俺をさげすむ冷たい視線をよこした。営業で競って、営業成績が俺より良かった時の目だ。
鈴木に八代がどんなにクズか教えるにはどうしようと思いながら、情けない事に習慣の毛づくろいが始まってしまった。
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