第玖章 北辰星
壱 縁なき道
「本日はお越しいただき、ありがとうございました。
あの人も喜んでいると思いますわ」
喪服に身を包んでもその人は美しかった。
漆黒が、その
最後の訪問から一週間後カヲルさんは、床から起きてこなかったそうだ。
まるで少年のような笑顔を浮かべ、今にも起き上がって遊びに行ってしまいように見えたらしい。
「多分ね。二人でまた悪巧みをしているんじゃないかと思うんですよ。
そんな二人を照さんが、後ろから呆れ顔で見ている。
そんな気がしてなりませんわ」
静かに語るレイさんにかけられる言葉を私は知らない。
カヲルさんとレイさんには子どもがいない。
激動の時代を生きてきた二人の人生は、想いは、継がれることなく時代の中に溶けていく。
必然なのではあるが、人がしっかりと歩んできた道があるのにも関わらず。だ。
「家を引き払ったら、高齢者用の住宅に移り住もうと思っているの。
そういうの、最近多くなっているんでしょ?
お金は、あり余るほどにあるしね。
さぁて、自由になったことだし、いろいろと楽しまなくっちゃね。
白明さんも時間があったら、この老婆の話し相手にきてくださいよ」
そう話すレイさんは、静かに微笑む。
そして、ポツリとこぼす。
「嗚呼。置いて行かれてしまったわ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます