収容所孤島~★×10000もらえないと解放されないんです!!!

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収容所孤島~★×10000をもらえないと解放されないんです!!!

 青い砂がこぼれていく。眼前にはクラインの壺みたいな砂時計がデンとかまえていた。


『あと百二十一日でしゅね』


 その横にたたずむテディベアが語りかけてくる。何が起きているというのか?

 いぶかしげにクマを一瞥いちべつして、けれどそんな暇などないことを思い出す。


(ポイントが……)


 液晶画面とにらめっこしながら、ボサボサの髪をかきむしる少女がうめく。明らかに丈の合っていないTシャツ一枚といっただらしない格好で。

 そこはかとなく散らかった部屋に、彼女はたたずむ。脱ぎっぱなしの服や下着が、椅子やベッドの上で化石となっている。あたかもモズの早贄はやにえを思わせるように。


『ほらほら! 変な声出しゅていないで手を動かしゃないと!! 陽菜ひなしゃんの人生が終わってしまいましゅよぉっ!!!』


 ひたすらにウザい声があおってくる。いらだちとともにあせりが責めさいなむ。だけどどれだけあがいたところで、それは結果には結びつかなかった。


「うるさい、うるさあああああぁい!!」


 ローテーブルをドンと叩き、叫んでみるも相手はただのテディベア。まさしく某掲示板のAAアスキーアートを思わせる見てくれ。事情を知らない人が見れば、気のふれた行動と映るにちがいない。

 何がどうしてこうなった!?

 頭を抱えてみるも、いいアイディアが浮かんでこない。

 と、そのせつな。目覚まし時計のアラームが鳴りひびく。アメリカ民謡と紹介されていた、有名なあの曲が耳に流れこんでくる。


『あ~あ、陽菜しゃん! 今日もダメでしゅたぁ~(笑)! これで連続244日0ポイント記録更新でしゅねぇ~!!!』


 ウザい……あまりにもウザい!!

 ちバサミで分解してやろうかとすら思ってしまうほどに。もしくは灯油をぶっかけて、一斗缶いっとかんで燃やしてやろうとも。けれどそれがムダなことは、すでに身にしみて理解している。なぜって、全部やったことなのだから。


「あああああああっ!!!」


 にっちもさっちもいかないとは、きっとこういうことを言うのだろう。


『これまで投稿しましゅたのが、連載短編合わせて25作品!』


 と、突然テディベアが述べはじめた。


『うち、連載が五作品でしゅが――』


 ボタンでできた目を光らせ、い合わされた口が言い放つ。


『ハイファン、ローファン、恋愛、歴史、SF……どれもポイントどころか、ほぼほぼ読まれてすらいないでしゅよぉ!』

「ああああああああっ!!!」


 心をえぐる物言いだ。タロットカードで表すなら、ソードの3ズタズタな心あたりだろうか?


『ほぉら、見てくだしゃい! 本日のPVは~……たったの1でしゅよぉ~!!!』


 止めを刺しにきている!?

 いや、どう考えてもオーバーキルだ。彼女はすでに立ち上がる気力さえなくなっていた。


「あああああ……」


 フローリングの床に体を投げ出し、現実から目を背けるようにしてうめく。

 なのに脳裏のうりに浮かんでくるのは、ここに至るまでの経緯いきさつ……。




Добрыйこんば вечерんは!』


 去年の大晦日、除夜の鐘とともにこのクマは唐突に彼女の自宅へと転がり込んできた。某オリンピックのマスコットキャラを思わせるフォルムがよみがえってくる。いや、福娃フーワー〇晶〇〇ジンでもハ〇ディ・ハ〇ディでもなく。


Меняわたしゅの забутなまえは Мишаミーシャ!』


 かわいらしい外見とは裏腹に、当初から他人を小ばかにしたような口調のやつだった。聞きなれない言葉を喋っていたかと思いきや、今度は流暢りゅうちょう(?)な日本語で話し出す。


『突然でしゅが、千代田ちよだ陽菜ひなしゃん! あなたは『創作者への筆』というサイトで一年のうちに上流作家になれるか、って企画に選ばれましゅた!』


 何を言っているのだろう?

 すぐには理解できずに、彼女はフリーズしたままクマを覗きこむ。何とかってyoutuberがPV狙いの悪ふざけをしているのだろうか、と。

 適当な一般人を街中でつかまえて調理させるみたいな下卑げびたやつ。トンデモ料理モドキをつくらせて、視聴者を笑わせるのは古典的な手法といえる。

 けれども……ニッコリと固定された笑顔が陽菜の思考をかき乱す。ある意味ポーカーフェイスといえなくもない。


『一年後、『創作者への筆』で上流作家になれば――なんと豪華な異世界生活の権利を得られましゅ! 条件は10000コ以上の★をもらうことなのでしゅよ!』

「……」


 しばしの沈黙が流れた。わずかに間をおいて、気を取り直しながらクマは続ける。


『もしなれなければ、直ちに異世界に転生してもらいましゅ!』

「――!?」


 言ってることは分かりかねるが、伝えたいことは理解に難くない。つまり一年後に何とかってサイトで上流作家になれなければ殺すのだ、と。

 いやな汗がほおを伝う。だからちらりとリビングの向こうを一瞥いちべつした。三十六計逃げるにしかず。古代の中国人がのこした名言だ。勝てなければその場を去ればいい。そうすれば負けることはない……はずだった。

 でも、なぜ過去形かって?

 それは……


『あ、もちろんでしゅが、エスケープはできましぇんよ? だって――』


 楽しそうに声をはずませ、ミーシャが告げる。


(ドッキリ? 誰かのイタズラだったら、今すぐにネタばらししてよ!! 今だったら、ゲンコツ一発でゆるしてあげるから!!!)


 そう願うも、クマはいう。


『今をもって陽菜しゃんの部屋は、クローズド・サークルとなりましゅた(笑)』


 ミステリーかよ!!!

 そんなツッコミが彼女の脳内をかけていく。


『そうでしゅねぇ……強いて呼ぶなら、収容所孤島になりましゅかね?』

「ソルジェニーツィンかっ!?」


 徹頭徹尾てっとうてつびふざけたクマだ。口調もあざとく、それに腹立たしい。何よりこちらの都合も考えず、一方的に話を進めていく身勝手さ。


『では、陽菜しゃんの新しい門出を祝って~』


 しかも他人の話を全く聞かないというおまけつき。

 そして彼女の新年は始まったわけなのだが……





 現在九月の上旬じょうじゅん。いつもならうっとうしいほどのセミの声が、しかし聞こえてこない。あのジットリとした暑さも、焼けるような日差しも。ここが閉ざされた空間だからなのか?

 だが、なぜか供給が途絶とだえない冷蔵庫の飲食料。キャビネットには洗剤やティッシュ、灯油まで完備されている。はては毎朝投函とうかんされる新聞や、使いたい放題の電気・ガス・水道。

 少なくとも、執筆には至れり尽くせりの環境といっていいだろう。

 けれども。


「ああああああっ!!!」


 発狂寸前の叫びが室内にこだまする。それは追いつめられた者が発する悲鳴といっていい。

 半年以上も外界から閉ざされ、テディベア以外話す相手のいない状況は常軌じょうきいっしていた。


『それにしても陽菜しゃんさぁ!』


 頭を抱える彼女へと、ミーシャが語りかける。


『やる気あるんでしゅか?』

「そ、それは……」


 冷たく光るボタンにひるむ。


『いーでしゅか? 上流作家になるためには、計10000コ以上の★を取らなければいけないのでしゅ。基本ポイントはPVに比例しゅる!」

「……はい」

『しかるに! 全くといっていいほど、陽菜しゃんの作品は読まれていないのでしゅよ? この意味が分かりましゅか!?』


 うっと、声をつまらせ彼女はたじろぐ。


(そ、それはそうだけど……)


 評価されるためにはどうしたって、まず誰かに読まれる必要があるのだから。PVがのびないと、評価されるチャンスが与えられないも同じ。


『よーするにでしゅね! 陽菜しゃんに足りないのは、何かってことでしゅよ!!』


 ドンとローテーブルにふんぞり返るミーシャが叫ぶ。いつの間にかコップに注がれたジュースを片手に。


「……」

『って、何をしてるんでしゅか?』


 が、いぶかしげに首をかしげ、ボタンが覗きこむ。胸に手を当て、深々とため息をつく少女を。


「え、いや……わたしにもっと胸と上背があったらなぁって」

『そんなもん、物を書くのにちっとも関係ないと思いましゅけど?』


 的確なツッコミ。


『というか、余計なことを考える暇なんてないでしゅよ? それより先に、どうやってのし上がるかを思案すべきだと思いましゅが!?』

「ぐぬぬ……」


 彼女は反論できず、ギリッと歯を食いしばる。忌々いまいましそうにミーシャをにらみつけて。


『そもそもとして、陽菜しゃんの作品は、読む気が起きないんでしゅよね』


 ぽろっともらした何気ない一言に、彼女の表情が険しくなった。ついで柳眉りゅうびを逆立てテディベアへとつめよっていく。


「どうしてよっ!? わたしはこんなに必死になって書いてるのにっ!!?」


 努力は報われなくてはならない。がんばった者こそが成功の果実を味わってしかるべきなのに。陽菜はそう自分へと言い聞かせるように叫ぶ。

 が、ミーシャはそれをせせら笑うように否定する。


『陽菜しゃんさぁ……いつまでそんな甘ったるい妄想にしがみついてるんでしゅか? 公正世界仮説? 自己責任? そんなのは恵まれた立場からてめーを肯定するための詭弁きべんだっていうのに! よぉく世の中を見てくだしゃいよ! 人間のクズが更生したら世間は拍手喝采はくしゅかっさいするのに、辛酸しんさんをなめ必死で生きてる本物の社会的弱者を踏みつけて恥じないのが人間というものでしょ。残酷だけど、それが現実なの! そんな世界で努力しましたって、何の救いにもならないのがまだ分からないんでしゅか?』


 やたらに饒舌じょうぜつなテディベアだ。


『いたずらに正義を信じ、自分の正しさに固執しすぎてるから、陽菜しゃんの描く物語は読まれないんでしゅよ!』


 ビシッと綿のつまった手を彼女へと向け、ミーシャは言い切った。


『面白いって何? 明らかなのは陽菜しゃんがそう思うものを、読者が同じように感じていないことでしゅよ。作者が描きたいモノと、読者が読みたいモノが一致しゅた時! それを面白いって呼ぶんじゃないんでしゅかね?』

「……」

『読者が求めてるのは陽菜しゃんの主張じゃなく、登場人物そのものなの! 人が事件イベントに立会い、葛藤かっとうをへて、何かが変わる! つまり感動を! 分かりましゅかっ!?』


 カナヅチで殴られたような衝撃しょうげきだった。ふきあがる感情で、うまく言葉がでてこない。

 このクマへのいらだち。評価されないことへの不安。もしかしたら自分は無価値なのではないかというあせり。そこへ来て言葉の暴力。今まで抑えこんできたネガティブな情動が彼女をさいなんでいく。


『分かったならさっさと――ひゅぐぅっ!?』


 と言いかけ、ミーシャが息をつまらせた。


『え……あ?』


 ボタンの目が自身の胴体へと向かう。陽菜の拳がめりこんでいる。


『な、何するん、でしゅ……』


 暴力では解決なんてしない――と続けようとして、クマは口をつぐむ。体をえぐる拳の先で、彼女が肩を小さくふるわせていたことに気づき。

 見れば、うっすらとまつ毛がぬれ、瞳も星を浮かべていたのだ。


「そんなこと……」


 かすれるような声がもれる。くやしそうに顔をゆがませて、陽菜はつぶやく。

 まつ毛をぬらし、涙がポロポロとほおを伝う。

 ギュッと手をにぎりしめ、彼女は言った。


「わたしだってそんなこと、分かってるよ!」


 読者が望むものを。たしかに、それは一つの考え方ではあるが。

 でも、彼らにびてた作品の、どこに芸術性があるというのか?

 そんなジレンマに身をこがす。

 たしかに、独りよがりな物語を発表しても評価はされないだろう。

 それに作品を世に出すのは、誰かに読んでほしいからだ。


 だが! それでも!!


 陽菜は想い描く。自分がどうありたいか、どうあるべきかを!


 その昔、あるバイオリニストがいた。天才的な弾き手で、難しい曲をなんなく演奏してしまうほどの。同期生たちが歯を食いしばり、悲鳴を上げながら努力するそばで!

 世の人たちが神童しんどうだ、ともてはやしたのは言うまでもない。

 けれども貧しい家庭の子だったため、かけもちで働いていたのだ。

 で、ある時、天才は同期生から誘われる。

 ――酒場で一曲ひき、金持ちたちに雇われればお金になるぜ、と。

 いつも財布はカラカラで、お腹の虫だってひっきりなしに泣きわめく。

 だけど……その天才は、いい話を断ってしまった。

 こともあろうに、繊細さを失うかもしれない、大工仕事を続けてまで!!

 なぜ!!?

 のちに、こう回顧かいこしている。

 曰く、

 ――芸術家にとって、自分にウソをつかないことこそが魂! 誰かにびる癖をつけることは、それを腐らせてしまうからだよ。

 と。


 とどのつまり。

 創作をどうとらえるか、という命題。

 娯楽か、それとも芸術か?

 たとえるなら、中国絵画でいう北宗画ほくしゅうが南宗画なんしゅうがの対比だ。

 前者はプロが描くビジネス的なもの。

 対し、後者は精神性に重きをおき、アマチュアであることにこだわった。

 有体にいえば、知識階級の道楽。だからこそ名作も生まれたわけで。

 シゴトと趣味で、質や意味が全くちがう。

 もちろん、カネに糸目をつけず道を究めようとすれば、かなりのモノができるはず。

 だけど――


『げほっ!!』


 せきむせて、ミーシャは床にくずれ、へたりこむ。

 それを見て、うつむく陽菜がしぼりだすようにつぶやく。


「これは……わたしの作品こどもたちなんだよ!?」


 心をすり減らし、泣きそうになりながらもつづっていった分身たち。だからこそ愛着を覚えるのは当然の人情だ。

 それが見向きもされない。くやしさや悲しみがこみ上げてくる。

 なんで!?

 どうして!?

 読まれさえすれば、感動してもらえるはずなのに!!


 だけど……


『……』


 ぷるぷるぷる……

 手足をふらつかせ、壁にもたれかかりながら、ミーシャが問う。


『陽菜しゃん……それで、いいんでしゅか?』


 ボタンの瞳が訴えかけるようにこちらを覗きこむ。


『人はみんな、自分だけでは生きられないのでしゅ。誰かとつながり、世の中で何かをすことで、意味を創っていくんでしゅよ? 物語も同じなの! 読んでくれる人がいなければ、この世に存在しないのとどう違うんでしゅか?』

「――っ!?」


 精神性などと格好をつけたところで、それはきちんと評価される場があるから言えるのだ。文人――士大夫したいふとしての確固たる身分がある上での価値観にすぎない。

 ミーシャは陽菜を見つめ、語りかけていく。

 目的が何であれ、物語は受け手があってはじめて意味を持つのだ、と。そこに貴賎はない。自分のために描くのなら、そもそも世に発表する必要はないだろう。

 つむいだ話をおおやけにすることは、その評価を読者へとゆだねる。広義のマスコミュニケーションだ。

 想い描いた空想を言葉にしてつむいでいく。ウソだと分かった上での芝居しばい。本質は水商売に限りなく近いけれども。

 ある意味、軽佻浮薄けいちょうふはく。だから精神性といった一種の神聖さをかたるのだろうか?

 ようするに、格好つけているのだ、と。

 だからこそ本心から出た言葉を!

 直視できない自分の気持ちに向き合った、飾りウソのないを叫びは心を打つ!!


『陽菜しゃんにだって、大切な人がいましゅよね?』


 だからミーシャは語りかける。


『その人の顔を思い浮かべながら、書いてみたらどうでしゅか?』

「え……?」

『たとえば、すごく嫌なことがあって泣いてる小さい弟とか妹がいたとしましゅよね?』


 何だかベタな展開だ。


『でもずっと悲しんでたりするのは、見たくないでしゅよね? 笑っていてほしいって、そう思いましゅよね!? そして陽菜しゃんには物語を書くことができる!!』


(わたしは末っ子だけど……ね)


 でも脳裏のうりによぎるのは幼いころの思い出だった。


(わたし、体育がすっごく苦手で……運動会でダンスをするって決まった時、一人だけ居残りさせられたんだっけ。恥ずかしくて情けなくて、家に帰ってからずっと泣いてたんだよね。どうしてわたしだけ、って思うと悔しかった! でも……お兄ちゃんが自作の絵本を読んでくれて……)


 それは自分に元気になってほしくてしてくれたことなのだろう。陽菜はそう思いめぐらしていく。


(あの時はとってもうれしかった! お兄ちゃんの膝の上で、クマの――っ!?)


 ふと怪訝けげんな面持ちで、彼女は首をかしげる。


(たしか……クマの男の子が旅をする、そんな話だったはず。何をやってもダメな子で、だけど――)


 ついでミーシャを覗きこむ。さまざまな感情が、胸の中を渦巻いていて、頭がうまく回らない。

 何かを伝えたい――それは誰にだってある想いだ。

 もし自分が描いた物語で、誰かの悩みが軽くなり、少しでも楽しくなったら?

 死にたくなるほど追いつめられてた子が、生きる希望を見出せたとしたら!?

 さらに一生を左右するような作品との出逢いになれたら!!!

 素敵ではないだろうか?

 言葉には力がある!

 映像や音楽とはまた違った形で、想いが大河のように触れた者の心を動かすのだ。夢、といっていいかもしれない。パンだけの人生に、本当の意味で人間らしさを取り戻すための時間を!!!


「そうだ……わた、し…………」


 陽菜は思い出す。小説を書き始めた時の気持ちはよみがえってくる。


(忘れてたんだ……)


 無理やりながらも、それでもここまで描いて来れた自身の思い、そして願いを。


(だから、もうわたしは迷わない。だって本当に大切なものが何か分かったんだから!)


 キッと目を輝かせ、彼女はローテーブルにたたずむPCの画面を覗きこむ。直後、キーボードを叩く音が、室内へとエコーした。

 カタカタカタカタカタカタカタカタ――

 一心不乱に細い指が連打して、画面が文字で埋まっていく。物語をつむいでいく楽しさに身をゆだねて。




 そして年末になった。

 モミの木が飾られた部屋に、ローテーブルに料理の山がドンとひしめいている。串焼きシャシリクとかつぼ焼きガルショークといった風変わりなレシピに陽菜のほおが今にも落ちそうだ。


『がんばりましゅたねぇ……』


 感嘆の息を吐きながらミーシャが言う。


『おめでとうでしゅ! みごと12240コの★を獲得かくとくしましゅた!! まちがいなく陽菜しゃんは上流作家になったのでしゅ!!!』


 いいかえれば、書籍化も夢ではない。ネットではそんなうわさもささやかれているほどだ。

 でも彼女が一番うれしかったのは、そこではない。

 手元のスマホをつかみ、マイページ、ついで作品の感想欄を開く。そこに届けられていた一言をながめ、ほおをゆるませる。

 そしてほほえみながら、陽菜は思う。


(いろいろあったけど……やっぱり、物語をつむぐのって、楽しいな!)


 と。

 

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