希望的観測者の現実、或いは楽観的厭世主義者の夢幻

秋錆 融華

第一言 絶望とは希望のことである

「観測者はある日思い付いた。この世のすべてを観測する天才的な方法を」

「厭世主義者は否定する。この世の総てなど、君一人の頭脳如きに収まる筈も無い。縦令たとえ君が、天才だとしても」

「それが出来るんだ。この世を知るためには『この世の半分と、もうひとつ』を知れば良い」

「そのひとつ、具体的には?」

「『否定』だよ、反対と言い換えてもいい。例えば『希望』の『否定』は『絶望』になる。これで理論上、世界の半分を観測すれば世界のすべてを知った事になる」

「反証は可能?」

「試してみると良いよ」


「死に対する?」

「生」


「地獄に対する?」

「天国」


「過去に対する?」

「未来」


「彼岸に対する?」

「此岸」


「造作もないよ、この程度なら。と言うか、さっきからずっと鬱然としてないかな?」

「そう?これが平時の私だよ……ふふっ」

「なぜ笑う……」

「そんな事より、続き」


「異常」

「通常」


「鬱」

「躁」


「本能」

「理性」


「左」

「右」


「マイナス」

「プラス」


「素数」

「合成数」


「無理数」

「有理数」


「虚数」

「実数……そろそろ諦める?」


「凶」

「吉」


「東」

「西」


「北」

「南」


「北東」

「南西」


「鬼門」

「裏鬼門……あ」


「ふふっ、気付いた?」

「僕を嵌めたのかい?底意地の悪い……」


「鬼門は北東、凶事の入り込む方角。裏鬼門は南西。けれど裏鬼門もまた凶事の入り込む方角。門を構えることは避けられる。つまり、凶の否定は凶。無限回帰、自家撞着……ふふふ」

「判った判った、僕の負けだ」

「排中律で総ては規定出来ない。黒と白の間にある灰色の階調グレースケールこそが世界の真の姿」

「やはり世界はこの凡百の脳髄からは溢れ零れて余りある神秘を湛えてる。認めるよ、認める。だからそろそろ許してくれないかな?」

「いいよ、赦してあげる。人は愚かな、過つ者だから……ふふっ」

「キミも人類の一員だろうに」


「そう、だから私も間違える。その時は情け容赦なく糾弾し、誹謗し、駆逐するといいよ。君にはその権利がある。同害復讐法、目には目を」

「キミに赦してもらった僕が、キミを赦さないのは不公平だろう?」

「ぐむむ。それは、そう……だけど」


「それに何より、僕はキミを観測しているだけで幸せだよ。たとえ何をされたってかわいい悪戯だと赦してしまいそうさ」


「……ばか」




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