第14話
遠くの方からすすり泣くような声が聞こえてくる。真っ暗な視界の中、広輝の意識は徐々に浮かび上がり始めていた。どれくらい時間が経ったのだろうか。分からない。ただ、まだ少し頭痛が残っているような気がして体が重い。
やがて泣き声はだんだんと大きくなっていき、他にも何か声が聞こえることに気が付いた。
「広輝は悪くない。私は知ってるから。広輝が本当はとっても優しい人なんだってこと。広輝は悪くない。悪くないから…………」
その声は美咲のものだった。そこで広輝の意識がはっと完全に帰って来る。
瞼を開くと、閑散としたスイミングスクール裏の空き地の光景が視界に飛び込んできた。空が憎いほど澄んでいて、真緑の草たちが風に揺れて囁いている。
広輝は何かが体に纏わりついている感覚に気が付いて、首を横に向けた。するとそこには美咲の顔がある。どうやら美咲は広輝に抱き着いて泣いているようだった。状況が理解できない。ただ、美咲の腕を振り払おうとして右手に力を入れた瞬間、右手の拳に激痛が走った。
「いっ」
思わず声を漏らした広輝に、美咲が反応する。
「あっ、目、覚めたんだね」
美咲はそう言うと、慌てて広輝から腕を離した。そして咄嗟に広輝から顔を逸らし涙の痕を拭き取ると、いつも通りの笑顔を向けてくる。
「おはよう」
美咲がおどけた様子で言ってみせた。
そのとき、南国サイズの青い怪鳥と生物とは思えないほど純白の小鳥が広輝と美咲の上空、青空の中を駆け抜けていく。
「また俺は、意識を失っていたのか?」
「どうやら、そうみたいだね」
美咲の声はいつもと変わらない。
「帰ろうか。立てそう?」
そう言われて広輝は足に力を入れる。まだ体が重かったけれど、美咲の助けも借りて何とか立ち上がった。
「鞄持つよ」
「いや、これくらい自分で持つ」
広輝はそう言うと、近くに転がっていた通学用の鞄を左手で持ち上げた。
「コンビニはもういいのか?」
歩き出したところで広輝は思い出して聞く。
「うん。大丈夫。コンビニなんて行くべきじゃなかった」
美咲は一瞬声のトーンを落としてそう言ったが、広輝はどういう意味かと尋ねることが出来なかった。
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