大口を開けて笑い、からからと歩く女

ポロポロ五月雨

のんだくれど、血はあるか


 あるところに、女の人が居たよ。女の人は冗談みたいな8bitサングラスをかけて、手には6インチのコルトパイソンを持っていたよ。それで陽気に大口を開けて笑い、からからと体を揺らして歩いていたんだ。



 とある飲食店において、人類史上で有り得ないほど緑の肌…いや人類じゃない、こりゃリザードマンだな。悪い悪い。が、ともかくとしてな、その緑肌に負けじと真っ赤な顔面を浮かべて、酩酊極楽の女が食った後のヤキトリ串をまるで某アメコミヒーローのように指の間に挟んで叫ぶ。


「おれぁ、おれぁ、クジャク!!」


 その一言を皮切りに、女がリザードマンに跳びかかった。「どるぁ!」


「ひぇ」


 リザードマンは串を避け、持っていたお盆を抱き枕に抱き着くように胸の前まで上げる。同時に尻尾も上がる。


「ちょっと!誰か!」


 爬虫類特有の縦長い瞳孔をギョロ、ギョロ。しかし誰も目を合わせようとはしない。何故かってーと、そりぁあね。今アンタが相手してるその女は、この街で有数のイカれ女なんだよ。


「はっはー、観念しなよボクぅ?」


 ついぞ壁にまで追い込まれたリザードマン。女は足を『ドン!』壁に付け、怯え切った憐れな緑の逃げ道を塞いだ。


「おれぁ、何も。何もだね。煮て食ってやろうってんじゃないんふぁ。ただちょっと金かしてくれりゃいいんられろ」


 女が掛けているサングラス越しに、リザードマンを睨みつけた。イヤリングがギラッっと光って、飲食店の暖光を飲み込む。遠巻きに騒動を観察していた俺も、喧騒のフィナーレを察知して野次馬観客席に乗り込んだ。


「金なんてないですよ!」

「を、嘘つくんけ?お前」


 女が手をリザードマンの腰に回した。その手は…リザードマンのリュックサックへ。


「デケェの入ってんじゃねぇのぉ?」

「そりぁ!僕の支払い分は入ってますけど、おねぇさんの分は無いですって」

「そうかい。じゃ、金はあるんだね?」


 瞬間!女がリザードマンの尻尾を思い切り踏んづけた!


「ぎゃッ!」


 リザードマンは仰天したように目を見開く。補足説明だが、リザードマンのってのは種族的に、尻尾を踏まれると激怒する。

 緑色のうろこが、まるで『メリメリメリ!!』裂けるように膨張し、赤い地脈が野を駆けるように浮き出た!


「うらぁ、負けた方が全額持ちなぁ!!」

「コ、後悔するぞぉ」

「うぉ!キタキタキタぁ!!」


 今まで無関係を装っていた奴らが、ここぞとばかりに集まって来た。タイマンが始まった以上、俺らがダル絡みされる心配もねぇ。


 もうすでに煽り合う歓声が打ち上がり、喧嘩を止めようとするシラケた連中が近づけないように、肩を組んで即席のバリケードを作っていた。もうすっかり慣れっこなのか知らないが、店主は会計カウンターで「どっちが勝つか?」賭けの胴元をやっている。


 さて、どうやら女を知らなかった以上、リザードマンはこの街の新参者らしい。そして何でこの街に来たかも説明が付く。背中のデカいリュックサックから見るに、おおよそこの街で人生変える気で来たんだろう。この、力がモノを言う街で、そして誰もがバチバチの、金網の中みたいなこの街で。


 実力試し?敗者復活?誰でも、何でも歓迎。必要なのは目的だけ、手段はこの街ならゴロゴロ転がってるさ、死体と一緒にね。ウェルカム!『ネオンバルシティ』 歓迎するよ、ボーイ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る