第67話 ロボット対決

太郎が扉に触れた時、いきなり銀色の円盤が震えだす。

「な、なんだ?」

全国民が見守る中、円盤が変形していき、表面から無数の棘が生えてきた。

「ゴォォォォォ!」

まるで生き物のような唸り声をあげながら、太郎を押しつぶそうと回転しながら迫ってくる。

「おっと、危ない」

太郎は空中に浮きあがって逃れたが、棘が生えた円盤はそのまま転がっていき、周囲のビルに体当たりした。

ビキビキと音が鳴り響き、まだ新しいビルの壁面にヒビが入っていく。

「これは……超音波振動を棘の先から出しているのか?やれやれ、俺一人を倒すのに大げさなことだな」

太郎は余裕たっぷりにつぶやくが、周囲にいる者たちにとってはたまったものじゃない。

「うわぁぁぁ。ガ〇ラだ!」

「逃げろ!」

周囲のビルに居たものたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

棘が生えた直径30メートルの巨大鉄球と化した円盤は、まるで闘牛のように太郎めがけて突進してくる。太郎は余裕でかわすが、そのたびに周囲のビルに被害が及んだ。

「しかたないな。これ以上町を破壊されるわけにはいかない。『巨人ゴーレムの鎧』よ。力を解放せよ!」

太郎が来ている真っ黒い鎧が光を放つ。それに伴い、鎧がどんどん変形していき、同時に巨大化していった。

光が収まると、その中から全長20メートルにも及ぶ金属の体でできた巨人が現れる。まるで巨大ロボットのようなそのゴーレムは、巨大な鉄球となった円盤と相対した。

「ふむ。活動限界は20分といったところか」

太郎は金属のゴーレムに魔力を接続させて、感触を確かめる。

「なるべく周囲に被害を及ぼしたくないんでね。すぐにケリをつける」

こうして、巨大ゴーレムとなった太郎の戦いが開始されるのだった。

「ゴォォォォォ」

無数の棘がついた巨大な鉄球が、轟音を立てながら迫ってくる。

「ふんっ!」

それに対して、巨大金属ゴーレムと一体化した太郎は、恐れげもなく受け止めた。

「うぉぉぉぉ!すげえ」

「巨大ロボット対決だ!太郎様!がんばれ!」

テレビの前の視聴者たちは、巨大怪獣VS巨大ロボットという映画そのままの展開に、太郎に対して熱いエールを送るのだった。


(すごい力だな……このままじゃ押し負けてしまいそうだ)

鉄球を受け止めながら、太郎は考え込む。

「ならば、相手の力を利用して……えいっ」

一瞬力を抜き、鉄球をつかんだまま体をのけぞらせる。バックドロップの要領で、鉄球を地面にたたきつけた。

「ゴォォォ!」

鉄球が苦悶の声を上げ、表面の棘が折れる。しかし次の瞬間、何事もなかったように棘が再生した。

「再生だと?どうやら、その体は実体じゃないみたいだな。魔力で外観を作って巨大化したように見せかけているだけか」

先ほど触れた感触から、鉄球の外壁は魔力で作られたものだと判断する。

「だとすれば、魔力のフィールドを破って、核である円盤を破壊するしかないな」

襲い掛かってきた鉄球を再び受け止める。金属の体に突き刺さった針から超音波振動が発せられ、全身を激痛が襲うが、かまわずに指先に力を集中した。

「ぐぅぅぅぅぅ!ぐぁぁぁぁ!」

雄たけびとともに、鉄球の体が引き裂かれる。ほんの一瞬だけ、ふた回りほど小さい円盤の本体が露になった。

「これで終わりだ!」

太郎の拳が円盤を撃ち、内部に衝撃を与える。次の瞬間、円盤の本体は鉄球を突き破って飛び出し、地面にたたきつけられるのだった。


「さて、なかにはどんな奴がいるのかな」

太郎は元の姿に戻り、円盤の扉をこじあけて入ってみる。太郎に続き、テレビカメラを連れたリポーターたちも円盤の中に入っていった。

「あの……私たちも入っていいのでしょうか?」

躊躇するリポーターだったが、太郎は頷く。

「かまわない。だいたい昔からUFOなんて気に入らないんだ。世間に正体も明らかにせずこそこそ空を飛び回っていて。隠れてなにかろくでもないことをしているに決まっている。これを機会に、全部正体を暴いてやろう」

そういって恐れげもなく入っていく。レポーターたちは慌てて後に続いた。


円盤の中は、銀色に輝く壁の不思議な空間になっており、壁には訳のわからない計器類に埋め尽くされていく。その中には動力機関らしいものは何もなかった。

「エンジンらしきものがありません。どうやって動いているんでしょう」

「おそらく、地球の磁力を利用して動いているんだろう。超強力なリニアモーターカーだと思えばいい」

魔力で船体をさぐった太郎がそう判断する。

「面白いな。この技術を研究したら新しい航空機ができそうだ」

そうつぶやきながら別の部屋に入ると、壁に複数のカプセルが張りついていて、その中に人間の姿があった。

「え?お前たち?ここで何しているんだ?」

カプセルに入れられている者たちを見て、太郎は困惑する。それは以前彼と闘った、天使たちのうち三人だった。

潮風かおると光明寺さやかは、先ほどの衝撃を受けて頭でもぶつけたのか、気を失っている。

残りの一人、闇路ゆみこは、太郎の姿を見て笑顔を浮かべた。

「太郎おじさん!」

「おじさんはやめてくれ……それで、こんなところで何をしているんだ?」

「お願い。助けて!私たち、高天原の奴らに捕まっちゃったの!」

カプセルを内側からたたいて泣きじゃくる。

「そうか。事情は後で聞かせてもらおう」

太郎はカプセルを壊し、三人をカプセルから外に出した。

「さて、天使たちを攫ったやつは、どんな姿をしているのかな」

太郎は制御室らしくき部屋のドアを開ける。その中には、グレイとよばれるタイプの宇宙人みたいな姿をした者たちが倒れていた。

「ひっ!宇宙人?」

「慌てるな、さっきも言ってただろう。これが天使たちを攫った「高天原」の連中だ」

太郎は恐れげもなく近寄ると、一人ひとり確認していく。

「太郎さまはご存じだったのですか?」

「ああ。日本と講和を結んだ時、多くの秘密情報も旧政府から接収した。その中に、日本を支配する『高天原の一族」の情報もあった。やつらの正体は、「神々」を名乗る異世界からの亡命者だ」

太郎は、カメラの前で堂々とグレイたちの正体を明言する。

「異世界からの亡命者というと、鬼とか亜人族みたいな」

「ああ。ただ彼らと違うのは、奴らがこの世界より文明が発達した世界から来たということだ」

倒れているグレイたちの生命反応を確認すると、たった一人だけ息があるのがわかった。

「よし。こいつを操って円盤を操作させよう。傀儡魔法『マリオネット』」

太郎の体から黒い魔力が放出され、生きていたグレイの体に馬の蹄のような黒い印が刻まれる。

グレイはふらふらと立ち上がると、円盤の制御盤らしい台に手を置いた。

「行先はシャングリラ王国だ」

「ハイ」

ウウヴと鈍い音が響き渡り、半ば地中に埋もれていた円盤が浮き上がる。

捕獲されたUFOは、南の島を目指して飛んで行った。

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