第39話 島での生活


各地の隠れ里から移住してきた亜人族は、シャングリラ島を取り巻くようにして新たに作られた島々に、種族ごとに分かれて住むことになる。

東側に鬼族がすむ新鬼ヶ島、南側にエルフ族が住むリーフ島、西側にドワーフ族が住むケルン島、北側に獣人族が住む生獣島が作られ、それぞれの隠れ里とゲートをつなげて移住者を募ることにした。

各島のリーダーには、叛乱に参加した下士官が当てられ、領主として統治することになる。

そして中央のシャングリラ島は、王である太郎が直接統治する直轄地とされ、あらゆる種族が自由に移住できる混生地となった。

太郎は人間が住む地として新たに島を作って士官たちに領地として渡すつもりだったが、「今の所人間の移住者が見込めない」として辞退されている。

その代わり人間の士官たちは、太郎直属の法衣貴族として給料をもらいながらシャングリラ島に住むことになった。

「お、俺、今まで釣りなんてしたことなかったんだけど、大丈夫かな?」

「大丈夫だっちゃ。うちもそうだったけど、今じゃ一人で巨大マグロ釣り上げることもできるようになったっちゃよ」

ビーチでは、千儀と鬼族のラムネが仲良く釣りをしている。

「あの二人、いつの間に仲良くなったんだ?」

「ふふ。なんでもラムネさんのほうから積極的にアプローチしたみたいですよ。女の子に慣れていない感じが可愛いって」

美香が微笑みながらそう説明してきた。

「なんか意外な組み合わせだな、元飲み屋のねーちゃんのギャルとチー牛ってのは」

「ラムネさん、昔はそういう業界でホストとか見てきたらしいですから、浮気をしそうにない誠実そうな人が新鮮なんじゃないかしら」

「ふーん。そういうものか」

それを聞いて、太郎は納得する。千儀の他にも、亜人族の娘たちと仲良くなった若い士官は何人もいて、皆楽しそうに釣りや水遊びをしていた。

「お堅い元自衛隊員も、南国リゾートと水着の女には弱いってか。さて、あのおっさんは何しているかな」

太郎は土屋の様子を見るために、農場に視察にいく。すると、そこで若い亜人族たちに収穫した野菜を使った料理を振舞っている土屋がいた。

「あ、タローにぃ。見てみて。これらの料理、みんな土屋のおじさんが作ってくれたんだよ」

文乃がテーブルの上に並んだ料理に、目を輝かせている。ピザやリゾットなどの他にも、見たこともない緑色の謎肉料理が皿に乗せられていた。

「……これは、なんだ?」

「スライムのステーキだ。本来スライムはゼリー状で調理しづらいが、片栗粉をまぜることで食感が肉に近くなる。食べてみろ」

そう言われて、太郎はおそるおそる口にいれてみる。じゅわっという肉汁が口内に広がった。

「……美味いな」

「そうだろう。私は召喚された異世界では商人として、パーティの資金面を担当していた。冒険の旅の資金を稼ぐために、異世界の魔物を使った料理で商売をしていたもんだ」

土屋は懐かしそうにそう語った。

「日本に戻ってから、もうそういうことはできないと思っていたが、この島には魔物がたくさんいるな」

「ああ。異世界の魔物の卵を孵化させて放流したんだ。色々役にたつ素材が取れるからな」

太郎がそう言った時、クェーという鳴き声が響いて、畑の上空に真っ赤な鳥が現れた。その鳥はスライムツリーに降り立つと、堂々とマナの実をつついて食べる。

「うわっ、フェニックスがまた来た。タローにぃ。あいつをなんとかしてよ。マナの実を狙って毎日来るんだよ。追い払おうとしても全然こっちを怖がらないし」

それを見て文乃はプンスカと怒るが、太郎は困惑してしまった。

「いや、有難い不死鳥をカラスみたいに言われてもな。そもそもあいつは結構強いし、不死身だし」

「ふむ。なら、私に任せろ。重力魔法」

土屋が魔法を振るうと、好き放題にマナの実を食べていたフェニックスに重力がかかり、地面に落ちた。

「クェッ?」

「さて、丸焼きにしようか。それとも唐揚げにしようか」

土屋がオリハルコンナイフを構えて迫ってくるので、フェニックスはおびえる。

「ク、クエッ」

フェニックスはペコリと頭をさげると、その場で10個ほど卵を産んで飛び去った。

「よし。食えというなら、有難く使わせてもらおう」

土屋はフェニックスの卵を使って、大量のオムレツを作る。

「……世界で一番ぜいたくなオムレツだな。フェニックスの卵を料理に使うとは。シャングリラ世界では卵一つで城が買えたんだが」

太朗は食べるのをためらっていたが、他の皆は大喜びで食べている。

「美味しい。素敵!料理ができる中年って、渋いべ」

「髭もいかしているぜな」

「将来いいパパになりそうやね」

オムレツを食べた鬼族の若い娘たちに賞賛されて、土屋は笑みを浮かべた。

「そ、そうか。喜んでもらえて何よりだ。ふふ、この島で魔物専門料理の店を出すというのもいいかもな」

すっかりこの島での生活になじんでいる土屋だった。

「そういえば、あの白衣のねーちゃんはどうしているんだ?」

「水走のことか?あいつは中央塔で診療所とフィットネスジムを開いたぞ」

土屋は中央にあるタワーマンションを指さす。

「いつのまにそんなことを……大丈夫なのかな」

心配になった太郎は、タワーマンション内に作られた診療所を訪れてみる。

そこでは、ルイーゼが水走の診察を受けていた。

「はい。お口をあーんと開けて」

白衣を着た水走が、ルイーゼの口を覗き込んでいる。

「うん。体に問題なしね。普通の10歳児の体だわ」

「……それでは困るのです。タロウ様の妻として夜伽が果たせませんわ。なんとかすぐに成長することはできないでしょうか?」

涙目で相談してくるルイーゼに、水走はいたずらっぽい顔で告げた。

「大丈夫よ。この世界には「ロリ属性」という言葉があってね。男が好む性癖の一つなんだけど……」

何やら耳元でごにょごにょと囁くと、ルイーゼの顔が真っ赤になった。

「そ、そんな。タロウ様がそんな性癖を。あ、でも、それならこの身体は都合がいいかもしれないですわ。タロウさまを喜ばせるためには、少々のことは我慢して」

「……おい。いったいルイーゼに何を吹き込んでいるんだ」

呆れた太郎が止めに入ると、水走はにんまりと笑った。

「いいじゃない。この子は王妃なんでしょ。10歳児を妻に迎えるなんて、さすがハーレムの王様だよね」

「だ、だから王妃というのはルイーゼの自称で……」

太郎が弁解すると、ルイーゼは悲しそうな顔になった。

「タロウ様……そんなに私が嫌いなのでしょうか」

「い、いや、そうじゃなくて……。そ、そうだ。フィットネスジムを開いたって聞いたけど、どこでやっているんだ?」

慌てて話をそらす太郎に、水走は苦笑を浮かべた。

「隣の部屋よ。各種族から若い男を集めて、徹底的に鍛えているの」

水走に連れられて隣の部屋に行ってみると、大勢の筋骨逞しい鬼や亜人族たちが汗を流していた。

「ほら。あんたたちは人間より強い体をもつ種族でしょ。もっと頑張りなさい。健全な精神は健康な身体に宿る。スクワット1000回追加!」

「ひ、ひえっ」

水走の発破により、スクワットを続ける男たち。飛び散る汗とスメルに、水走は陶酔の表情を浮かべた。

「ああ……私の命令でたくましい男たちがあんなに汗を流して……美しいわ……」

水走は喜んでいるが、男たちは憔悴している。

「マ、マム……どうか今日はここまでで……俺たちはもう限界」

「大丈夫よ。限界の先に新たな境地があるわ。心配しなくても、やばくなったら癒してあげるから。『ウォーターヒール』」

脱水症状で倒れそうになる男たちに、水の治療魔法をかける。限界を迎えようとしていた肉体は、生気を取り戻した。

「さあ、これで大丈夫よ」

「気持ちいい~イエス!マム!頑張ります!」

無理やり回復させられ、さらに筋トレに励む男たち。その光景にドン引きしていると、水走が太郎に告げた。

「太郎さんも私の超回復継続トレーニングを受けてみれば?筋肉ムキムキになってもてるわよ~」

「い、いや、俺は遠慮しておく」

身の危険を感じて、慌てて逃げだす太郎だった。

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