第36話 防衛省破壊
「茨木曹長、ご苦労だったな。そして亜人族たちの説得はどうだった?」
「はっ。今まで奴隷待遇だった下士官たちに話をもちかけたところ、皆喜んであなたに忠誠を誓いたいともうしておりました」
茨木曹長にならって、太郎の前に跪く下士官たち。
「よし。ついでだ。防衛省を破壊しておこう」
太郎は亜空間格納庫を開いて、さまざまな武器をとりだす。それは弓だったり、槌だったり、爪だったりした。
「シャングリラ世界の軍隊の標準装備だが、一応魔力は込められている。これを使え」
「ははっ」
下士官たちは喜んで、各々自分に合った武器を選ぶ。
「では、いくぞ!今まで奴隷としてこき使われた恨み、存分に晴らすがいい」
「おう!」
太郎と下士官たちは、上階の防衛省へと昇っていった。
雄たけびとともに、地下から大勢の男たちが駆け上がっていく。
「な、何事だ?」
「ど、奴隷どもの叛乱です!地下の亜人族たちが、いっせいに蜂起しました」
「なに?」
その報告を受けた警備隊長は驚愕する。
「バカな!異世界管理局の土屋一尉はどうした?」
「連絡が取れません」
「ぐうう……裏切ったのか……戦闘用意!」
歯ぎしりしながらも、警備隊に命じて銃を構える。
「いいか。奴らは人じゃない。ケダモノと思え。姿をみたらすぐに撃て」
「しかし……ここは防衛省ですぞ。銃声が外に漏れたら……」
懸念する隊員に、隊長は首を振る。
「後のことは考えるな。とにかく、奴らを制圧することだけ考えるんだ」
「ははっ」
地下への階段をバリケードでふさぎ、銃を構える。
しかし、先頭に現れたドワーフの槌の一撃で、バリケードは跡形もなく吹っ飛んだ。
「地震撃」
槌からでる衝撃波が、隊員たちを跳ね飛ばす。
「ひるむな!体制を立て直せ!」
隊長が声を枯らして叫ぶが、衝撃波を受けて混乱したところに、エルフたちが持つ弓から放たれた矢が襲い掛かった。
「誘導矢」
その矢は直線に進むのではなく、障害物をさけるように自動で曲がって、正確に隊員たちの体に突き刺さっていく。
「とどめニャ!『雷撃爪』」
激痛にもだえる隊員たちに近づいた猫の獣人族が、爪の一撃でとどめをさしていく。爪にひっかかれた隊員たちは、雷撃を食らってその場に昏倒した。
「ほう。伝説の武器を参考にして作り出された劣化版大量生産品だが、うまく使いこなしているようだな」
下士官たちが銃をもった自衛官たちを蹴散らしていくのを見て、太郎は満足の笑みをもらす。
「彼らは奴隷扱いとはいえ、各種族の中から選ばれたエリート戦士だ。これくらいはたやすいさ」
「いいぞ。これなら俺の軍の幹部として役にたつだろう」
そういうと、太郎と千儀は悠々と彼らの後をついていくのだった。
最上階の指令室にいた防衛省長官は、慌てた部下から報告を受けた。
「大変です。地下の奴隷どもが叛乱を起こしました」
「なにっ?」
慌ててモニターをつけると、省内で暴れまわっている異形の下士官たちの姿が映る。
自衛隊員の鍛え抜かれた肉体も、長年の研究の末に開発された武器も通じず、なすすべもなく倒されていく隊員たちを見て、長官は癇癪をおこした。
「くそっ。だから異世界からの帰還者も、亡命してきた人モドキたちも受け入れるべきではなかったのだ。異端どもはどいつもこいつも始末しておれば……国の最終兵器などといって、奴らを生かしておいたせいでこのざまだ!」
そういって頭を掻きむしるが、それで問題が解決するわけではない。
「長官、いかがいたしましょう」
「やむを得ぬ。指令室を封鎖しろ。コンピューターだけは破壊されるわけにはいかぬ。ここでは各種軍事機密の保存、情報の管理分析のみならず、軍事衛星の管制もしているんだ。ここが落とされたら、日本は丸裸にされてしまう」
「はっ」
隊員は必死に非常用のレバーを引く。グゴゴゴゴという音とともに魔力を帯びたオリハルコン製の厚い壁で最上階は封鎖され、同時にすべての窓にシャッターが降りた。
「これで結界を張った。奴らは入ってこれないだろう。本部が封鎖されたら、自動で自衛隊の各基地にエマージェンシーが入るはず。援軍が来るまで持ちこたえれば」
「哀れだな。こんなもので俺の侵入を防げると思ったのか」
そんな声が部屋に響き渡り、中にいた隊員たちがギョッとする。
「だ、誰だ」
「俺だよ。史上最悪のテロリスト、山田太郎だ」
空間に穴が開き、中から黒マントに鎧兜の怪人が現れる。
「きゃぁぁぁぁ!」
それをみた隊員は、一目散に逃げだそうとして出口に殺到するが、すでに通路は厚い壁でふさがれていた。
「くくく。自ら袋のネズミと化して裁きを待つか。なかなか殊勝な心掛けだ」
指令室の中央で太郎は高笑いする。それを見ていた隊員たちは、まるで魔王をみたかのように恐怖を感じた。
「な、なぜ……結界を張ったのに。物理的にも魔法的にも侵入できるはずが……」
「そんなもの、空間そのものに穴をあけて出入りできる俺にとっては何の意味もない」
冷たく笑うと、太郎は長官に命令する。
「シャングリラ島から軍を引け。艦隊を撤退させろ」
「わ、わかった。戻ってくるように命令しよう。だから、これ以上の破壊活動はやめてくれ。ここを壊されたら、日本の国防が保てなくなる」
必死に軍事衛星制御のマザーコンピューターを守りながら、長官が哀願する
しかし、太郎はニヤリと笑ってその訴えをしりぞけた。
「もし他国からの侵攻があったら、俺たちが日本を守ってやるよ。そうなったらもちろん用心棒代を払ってもらうがな」
そう告げると、コンピューターに手を向ける。
「や、やめ」
「ホワイトホール」
太郎から放たれた凝縮された斥力は、長官の体を通り抜けたコンピューターにあたる。
次の瞬間、コンピューターが大爆発を起こした。
「ぐぇっ」
爆発に巻き込まれ、背中に大けがを負った長官は、床に叩きつけられてうめき声をあげる。
「よし。仕上げだ。防衛省自体を破壊するとしよう」
高笑いをしながら、太郎の姿が消えていく。同時に部屋のモニターに、太郎と亜人族たちによって徹底的に破壊される防衛省の各部署が映った。
「やめろ!やめてくれ!」
指令室に残された隊員たちは、必死に壁を叩いて訴えかける。しかし、その声は厚い壁に阻まれて、誰にも届かないのであった。
そして数時間後。太郎と千儀、そして下士官たちは、宙に浮いて防衛省を見下ろしていた。
以前は壮麗なビルだった防衛省は、今はすべての窓ガラスが割れ、壁にヒビが入った廃墟のような姿になっている。
「どうだ?お前たち、楽しかったか?」
「最高ですニャ」
猫族の下士官が、満足そうに喉を鳴らす。他の下士官たちも、自らを奴隷扱いしていた防衛省に復讐できてすっきりした顔をしていた。
「これからどんどん楽しい目にあわせてやる。俺についてこい」
「ああ、期待している。なんでも命令してくれ」
太郎の隣にいた千儀がつぶやく。
「おっと。そろそろ援軍が来たみたいだな。帰るとしよう」
下をみれば、各基地からおっとり刀で駆けつけてきた戦車や自衛隊員たちが集まっている。彼らは統一した指揮権を持つものがおらず、混乱している様子だった。
それを一瞥すると、太郎たちは空を飛んで去っていった。
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