第6話 宣戦布告

「な、なんだ!何者だ!?」

議員たちが動揺する中、一人浮田法務大臣だけが恐怖の目で男を見つめる。

「こ、これはまさか……ありえない。ここは国会議事堂だぞ。国の施設の中で、最も権威のある場所で、全国にテレビ中継もされているだ。こんなところにテロ行為を仕掛ける無法者なんて……いるはずが…」

法務大臣が恐怖に震える中、その男はニヤッと笑って兜を脱ぐ。その下から現れたのは、20代中盤の平凡な男の顔だった。

「ふーん。ここが国会議事堂か。思っていたよりショボいんだな。これなら異世界の王城のほうが豪華なくらいだ」

黒マントの男はそんなことをつぶやきながら、ゆっくりと中に入ってきた。


太郎は驚いている国会議員たちを鼻で嗤うと、まず法務大臣の席にやってきた。

「ひ、ひいっ!」

逃げようとする法務大臣の首根っこを捕まえられた。

「お前の息子である英雄が結婚詐欺をしたせいで、俺はこの上ない屈辱を味わった。親として思うところはないのか」

そう言われた法務大臣は、必死に首を振って否定する。

「そ、それは息子がやったことだ。私は知らない」

法務大臣のカツラが床におち、ハゲ頭がさらされる。その姿は、国会中継のテレビを通じて全国にされされた。

「嘘をつけ。あれから俺は警察にも弁護士にも相談したが、法務大臣の息子がしたことだということで相手にもされなかった。お前にはその責任をとってもらわないとな」

太郎が軽く腕を振ると、法務大臣の太った体が宙に放り投げられる。

「な、なんだ?どうなっているんだ」

見ていた国会議員たちは、百キロはありそうな巨体の法務大臣が、片手で投げ飛ばされる光景を見て驚いていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

法務大臣の体は勢いよく宙を飛び、内閣総理大臣がいる壇上のすぐ前に墜落した。

「ぐはっ!」

全身を強打して、法務大臣は血を吐いて気絶する。

それを見て薄ら笑いを浮かべた太郎は、次に内閣総理大臣の岸本首相の前にやってきた。岸本首相は、いきなり目の前にきた無礼な男に向かって怒鳴りつける。

「き、君はなんだね!今は国会開催中なんだ。すぐに出ていきたまえ……ぐっ」

国会に乱入した太郎は、最後まで言い終えるのを待たずに、岸本首相の喉をつかんでそのまま持ち上げた。

国会を警護していたspたちは銃を抜くが、首相を人質に取られて動けない。

「こんなに簡単に捕まえることができる者が日本のトップとはな。魔王城を攻めた時は、四天王、七魔将軍と一万の精鋭が魔王を護っていたのにな。それだけ、国の支配者といっても大した価値のない小物ということか」

太郎はそううそぶくと、首相を放り投げる。岸本首相はすさまじい勢いで壁に叩きつけられ、意識を失った。

「今だ!奴を撃て!」

首相が太郎から離れたのを見て、SPたちが銃を放つ。しかし、放たれた弾丸は太郎の周囲に張り巡らされた斥力シールドに跳ね返され、かえってその跳弾が議員たちを襲った。

「うわぁぁぁぁ!撃たれた!」

「うぐっ!」

跳弾に当たった議員たちが、血を流してうずくまる。それを見て、SPたちは慌てて撃つのをやめた。

「銃はダメだ。取り押さえろ!」

指揮官の命令に従って、屈強なSPたちが太郎に殺到する。

「愚かな。何万もの魔族と戦ってきた俺と、素手で格闘戦をするつもりか」

太郎は薄く笑うと、SPたちを迎え撃った。

「抵抗するな。おとなしく……ぐっ」

太郎につかみかかろうとしたSPが、腕の一振りで跳ね飛ばされて宙を舞う。

「面白い。勇者とただの人間の違いを、みせつけてやろう」

にやりと笑うと、太郎は人差し指を立てて迫ってくるSPに向かってつきだす。

突き出された指は、まるで豆腐を鋭い針で刺したかのようにSpの肉体に突き刺さった。

「ぎゃぁぁぁぁ!」

激痛が走り、そのSPは刺された場所を手で覆ってうずくまる。

「お前たち人間の肉体など、勇者である俺からみたら豆腐のようなものだ。俺に触れるだけで、もろくも崩れ去るだろう」

その言葉どおり、太郎が触れるたびにspたちの肉体の肉が裂け、血がはじけ飛ぶ。

国会を警備していたsPたちは、全員が大けがをして床に倒れ伏した。


「こ、これは……いったい何事が起こっているのでしょう。いきなり乱入してきたテロリストに法務大臣と首相が襲われ、spたちが倒されました」

国会を中継していたNHKのカメラマンは、恐怖に震えながらその様子を映し出す。その映像は電波によって日本全国に放送されていった。

SPたちを倒した太郎はニヤリと笑うと、テレビカメラに向かって歩みを進める。周囲の議員たちは太郎に恐れをなして、慌てて道を開けた。

テレビカメラの前に来た太郎は、傲慢に胸を逸らして言い放つ。

「これを見ている日本国民たちへ告げる。我が名は山田太郎。異世界で勇者と呼ばれた男だ」

放送を見ていた国民たちは、テレビカメラを通しながらもその迫力に押されてしまう。

「俺は24人の愚か者にはめられ、この上ない屈辱を味あわされた。俺はそんな奴らを生み出した、日本社会そのものを憎んでいる」

太郎の言葉に、辺りは静まり返る。

「よって、俺は日本に宣戦を布告する。俺が満足するような講和条約が結ばれるまで、破壊活動を続けるだろう」

そういうと、両手を高く挙げる。

「俺の力の一端を見せつけてやる。恐怖に震えるがいい」

太郎が腕を一振りすると、国会議事堂の建物が激しく振動を始める。やがて天井が落ち、壁が崩れ、破片が議員たちに降り注いだ。

「助けてくれ!」

議員たちの悲鳴が響く中、太郎は高笑いする。

「ははは……何もかも壊れてしまえ。破壊の祭りの始まりだ」

そういうと、太郎は去っていく

後にはうめき声をあげて倒れている議員たちが残されるのだった。

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