こんな夢を見た・外伝1 ちょび髭さん、こんばんは。
富安
第1話 1939.09
暗くてよく見えない。
目が慣れてくると、広い部屋にいるのが分った。。
中央には大きなテーブルがあり、テーブルライトが一つ点いている。
部屋の明かりはそれだけだ。
その灯に照らされて、一人の男の後ろ姿が見えた。
私はその男に近づく。
妙だ。
足音がしない。
視線も揺れない。
ああ。
また夢か。
男に数歩の所まで近づく。
見覚えのある軍服を着て後ろに手を組んでいる。
顔を覗き込むと、
見覚えのある顔。
見覚えのあるちょび髭。
間違いない。
あの男だ。
表情はとても険しい。
男の見ているのはテーブルに広げられたヨーロッパの地図だ。
ドイツが中央に描かれている。
私が知っている国境線とは微妙に違っている。
ポーランドの中心近くに赤く南北に線が引かれている。
なるほど。
カレンダーを探したが、それらしいものはない。
日付は特定できない。
だが、あの頃だろう。
夢ならば恐れることは無い。
「大変だな。」
話しかけられて、男が硬直した。
恐怖が目に見えるようだ。
しかし直ぐに弛緩して、こちらを見ずに行った。
「誰かね。」
大したものだ。
すさまじい精神力だ。
それでも、これは私の夢だ。
それならば、
「神だ。」
「フン」
男は振り向いた。
「神ならばどうにかして見せたらどうかね。」
疲労のせいかストレスのせいか血の気のない顔をしている。
「予想外だったようだな。」
「なぜ今なのか分からん。」
再び地図に顔を向ける。
今までチェコやオーストリアを併合してもどうにかなっていた。
今回も大丈夫のはずだった。
しかも今回はソ連と共同しての侵攻だ。
あれだけ恐れられている共産勢力を差し置いて、なぜドイツに戦争を仕掛けるのだ。
もし何かあってもそれはソ連に向けられるはずだったのだ。
「理解できん。」
「あいつらはドイツを盾にしようと思っていた。
ソ連と組んだと思われたのだろう。」
「馬鹿者め!」
男は後ろ手のまま部屋の中を歩き始めた。
「準備が出来ていない。」
「準備が出来ていることの方が稀だ。」
男は反応しない。同じところを行ったり来たりしている。
これが私の夢ならば・・・
「近道をさせてやろう。」
歩みが止まった。
男はゆっくりと、恐る恐る振り向いた。
さっきまでテーブルがあった所に戦車があった。
T-34だ。
しかもT-34/85だ。
男は口を開いたが、言葉が出てこなかった。
暫くすると男の目からは恐怖が薄れ、好奇心が溢れてきた。
熱心に見ている。
「美しい。」
「傾斜装甲は実際の厚さ以上の効果がある。」
「長いな。」
「85mmある。」
「砲塔は・・・鋳造か。」
「生産性が高い。」
「随分履帯が広いが速度は出るのか?」
「ドイツの戦車よりは早い。
ディーゼル機関で、被弾しても燃えにくい。
広い履帯は泥濘に強い。」
男は無言のまま、うんうんと頷く。
「底は船形になっていて、泥の上を船の様に進める。」
一瞬動きが止まる。
「ソビエト製か?」
「そうだ。(数年先の。)」
男は衝撃を受けたようだ。
「これでは・・・戦いにならない。」
ドイツ軍の主力は短砲身の3号戦車だ。
しかも定数を満たすにはほど遠い。
「まずは西側だろう。」
男はハッとした。
「英仏は第一次世界大戦を引きずっている。
マジノ線にこもって侵攻してこないぞ。」
「それならば、時間はある。」
男はもう一度戦車を見た。
今度は前に腕を組み、考えている。
私は言った。
「このままでは足りない。」
男は次の言葉を待っている。
「機関部を前方に持って行き、乗員は後部に載せる。
これで乗員の死傷率は大きく下がる
砲塔が後ろにあれば長砲身でも保護しやすい。」
メルカバも出したいがオーバーテクノロジーだ。
「生産性を上げ、故障率を下げるために極力簡素化すべきだ。」
パンターにしてはならない。
「後部を拡大して余分な人員を乗せられればもっと良い。」
「兵員輸送車と同じレイアウトか。
・・・3号戦車は取り敢えず生産を続け、4号戦車のラインを使えば・・・」
計算しているのだろう。
理解が速く、しかも柔軟だ。
設計も出来ていないのに気の早いことだ。
「海軍も、」
男は顔を上げた。
「水上艦ではなく潜水艦に絞るべきだ。」
怪訝そうな顔をした。
「フランスを平らげた後はイギリスだ。
1年で大型艦は揃わない。」
驚いたようだ。
「1年でフランスを取れるのか?」
「実際には数週間で取れるだろう。」
「余が?
フランスを?
数週間で?」
興奮するのも無理はない。
第一次世界大戦は4年かけて占領するどころか、負けたのだ。
「先のことを考えておくべきだ。」
流石のこの男も、そこまで考える余裕はなかったのだろう。
興奮して顔に赤味がさしてくる。
私もだんだん興奮して来た。
「航空機は、」
と言いかけたところで目が覚めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます