道端に香車
@anomaron
探し物
言うまでもなく、平和はよいものである。それは分かっている、わかっているのだが,,,交番勤めの25歳、藤田はじめは、はっきり言って退屈していた。何を隠そう、ここは片田舎である。事件というものが何もない。それに地元民が多いこの地域では、道案内をすることさえほとんどない。もちろん、仕事が全くないというわけでもない。時折、猫を探したり小学生がどこかに落としてしまったストラップを探すこともある。ただ、人口が少ないこの町ではそれさえ少ない。いったい、自分はなぜおまわりさんになろうと思ったのだろう。そんなことを考えていると、突然、一人の男が交番に入ってきた。
「すみません、とあるものを探しているのですが」
「何をお探しですか」
「自分です」
「は?」
「どこかに自分をなくしてきてしまったみたいなんです。ほら、そういうことってありませんか?子供の時は夢と希望にあふれていたけど、成長するにしたがって、そういうのを、無垢な感情を、どこかに置き忘れてきたんじゃないかって思うんですよ」
「すみません、そういうことなら別の所に相談を,,,」
「じゃあ、おまわりさんは、ちゃんと自分、なくしてないんですか?」
「え?」
「最初からおまわりさんになりたかったんですか?あなた幼稚園の頃は高いビルになりたいって言ってたでしょ?でも人間はビルになれないからあきらめて宇宙飛行士になりたいと思っていた。でも、宇宙飛行士は難しいからあきらめて」
「あんた、一体誰なんだ」
「自分のことだけじゃなくて、俺のことさえ忘れちゃったの、はじめ君?」
はじめは、目の前の男を今一度まじまじと見た。
「、、、洋治?」
「覚えてるじゃん!」そう言って、ニタニタ笑う男を確かにはじめは知っている。幼稚園から大学まで苦楽を共にした三原洋治である。
「はじめ元気~?」
「いや、お前なんでこんなとこいんだよ。東京行ったんじゃなかったの?」
「里帰り?」
「こんな時期に?今11月だよ?微妙すぎない?」
「うちの会社結構柔軟だからなー。世間の感覚とはずれてんだよなー。ところで今仕事中だよな?邪魔して悪い」
「いや、ほぼやることなんもないから別にいいんだけど」
「でもとりあえず勤務時間中だろ?定時何時?」
「先輩がもうすぐ戻ってくるはずだからあと15分くらいであがれると思うけど、、、」
「おう、じゃあそれまでそこらへんぶらついてるから仕事終わったら話そうぜ」
「いや、それはいいけど15分もぶらつくような場所ないだろ。どうせ誰も来ないんだからここ居ろよ。先輩にも紹介したいし」
「いや、久しぶりに戻ってきたし懐かしいから15分くらいあっという間だよ。じゃあ、15分後な」そう言って洋治は交番を出ていった。
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