5-5 Sランク喰魔襲来(前編)
「この魔力は………!」
「Sランク
Aランク
突如として現れたSランク喰魔の魔力を感じ取り、先ほどまでの余裕が無くなっていた。
「なんでこのタイミングで来るわけ!?」
「知らん! だが、このままでは………!」
突然のSランク喰魔の出現で隣に居る恵介に対し、怒鳴るように疑問を投げる美樹。
恵介も突然の事態に平静を保てず、大きな声でそれに返答する。
その表情は焦りに染まり、額に冷や汗をかいていた。
そして、それは幸夫も同様であった。
(
Sランク喰魔の出現場所はB班の居る通路だと察知する幸夫。
そこに居る自身の愛する孫である愛笑と、友人の孫である春が真っ先に脳裏に浮かんだ。
魔法防衛隊の支部長とはいえ、幸夫も一人の人間。
家族やそれに等しい人物の危機に冷静さを欠いてしまった。
三人がSランク喰魔の出現に動揺する中、Aランク喰魔は突如として空中に飛び上がった。
「「「!?」」」
Sランク喰魔の出現に困惑していた三人は、少し遅れて飛び上がったAランク喰魔へと振り返る。
しかし、そのときには既に遅く、Aランク喰魔は三人が見ていたB班とSランク喰魔の通路へと繋がる入り口に向かって翼を羽ばたかせた。
『ハッ!』
喰魔は強く翼を羽ばたかせるときに自身の魔力を発生させた風に乗せ、疑似的な
無数の岩が崩落するように崩れていき、通路の入り口を完璧に塞いでしまった。
『フハハハハッ! 油断したな! いくらAランクの貴様らと言えど、もう一度崩落が起きないように瓦礫を退かすには時間が掛かるだろう!』
「「くっ………!」」
「コイツ………!」
翼をはためかせ、空を飛びながら高らかに笑うAランク喰魔。
喰魔の言ってることは間違っておらず、たとえ他の通路から外に出てB班の通路に向かおうとしても時間が掛かり過ぎる。
この二つの事実に幸夫と恵介は悔しそうに顔を顰め、美樹は苛立ちをぶつけるように喰魔を睨み付けた。
しかし、Aランク喰魔の嫌がらせはまだ終わっていない。
『このまま貴様らに倒されるくらいなら、最後まで足掻いてやる! 仲間が次々と殺されていくのに、助けに行けない苦痛ともどかしさを噛み締めると良いっ!!! フハハハハハハッ!!!』
先程までおとなしく自身の死を受け入れていたAランク喰魔であったが、Sランク喰魔の出現によってそれが一変する。
どうせこのまま死ぬのなら、足掻いて三人の邪魔をしてやろうと。
Sランク喰魔によって仲間が死んでいくのに助けに行けない。
その苦しさに歪む三人の表情を、喰魔は冥土の土産に拝んでいこうと。
「「「………っ!」」」
喰魔の性悪な発言に三人の表情がより険しくなる。
幸夫は強く歯を食いしばり、奥歯をギリッと鳴らした。
そんな三人とは対照的にAランク喰魔は愉快そうに笑う。
『この
確実な死が待っている逆境。
そんな状況でAランク喰魔『傀頼』は、不気味に笑いながら声高らかに雄たけびを上げた。
※
Sランク喰魔と対峙する魔法防衛隊員達。
その全員が喰魔の放つ魔力に恐怖していた。
ある者は恐怖で体を震わせ、ある者は力が抜けたように地面へと腰を落とし、ある者は歯をカチカチと鳴らしながら涙を流していた。
(なんて強大で邪悪な魔力だ!)
(こんな魔力見たことも感じたこともない………!)
(これがSランク喰魔の魔力………!)
(こんなの、勝てるわけないじゃない!)
春、耀、十六夜、篝の四人もSランク喰魔の放つ魔力に恐怖する。
Sランク喰魔が放つ魔力は強大であると同時に、とてつもない邪悪さを秘めていた。
とても暗く、肌に纏わりついて重くのしかかるようなプレッシャーと鋭く刺すような魔力。
その魔力を目で見て、肌で感じ取る隊員達は死のイメージと恐怖を植え付けられる。
そして、その魔力を前にして愛笑は思考を巡らせていた。
(………無理だ。こんな化け物相手に、勝ち目どころか時間稼ぎすら怪しい………!!)
Sランク喰魔の魔力にそう悟る。
どこかで勝機はないか、付け入る隙は無いかと必死に考えようとするも、あまりにも圧倒的なその魔力に何も思い浮かばなかった。
「一体どうすれば………!?」
打開策が全く見つからない最悪な現状に小さな声で愛笑は嘆く。
それと同時に、Sランク喰魔は右脚を一歩前へと踏み出した。
「「「「ひっ………!」」」」
ただ喰魔が歩こうと一歩踏み出しただけ。
それだけで隊員の何人かが小さく悲鳴を上げ、それ以外の隊員が身を守るかのように体を強張らせる。
完全に怯えている隊員達の様子にSランク喰魔は溜め息をこぼした。
「はぁー、つまらないな。根性の無いザコしか居ないのか」
隊員達に対して心底がっかりした様子を見せるSランク喰魔。
そして、すぐに顔を俯かせて苛立たし気に頭を掻きながら歩き始めた。
「ザコでも少しは骨がある奴が居るかもと期待したんだがな-。はぁー!」
苛立ちと失望が入り混じった声音で独り言を呟き、それを表すようにザッザッと大きな足音を立てながら早歩きで隊員達へと近づいて行く。
そして、最後に大きな溜め息と共にその足を止める。
俯かせていた顔をゆっくり上げ、下から睨み付けるように青い短髪の隙間から金色の双眸を覗かせた。
「つまらないから、さっさと殺すか」
『――――――っっっ!!!』
酷く冷たい声と、それ以上に冷え切った殺意。
その二つによって隊員達の背筋は恐怖で震え上がった。
―――殺される。
今のSランク喰魔の言葉と殺意に全員が明確な死の恐怖を抱く。
そして、最前列に居る二人の隊員が雄叫びを上げながらSランク喰魔へと向かっていった。
「「う、うわあああああ!!!」」
もはや悲鳴とも取れる声を上げながら、崩れた姿勢で不格好に喰魔へと駆けていく二人の隊員。
魔法防衛隊員の意地なのか、ただ頭がおかしくなったのか。
いずれにせよ二人は逃げるのではなく、Sランク喰魔へと立ち向かうことを選んだ。
そんな二人の背に愛笑は声を張り上げる。
「駄目! 二人とも戻って!!」
どこか悲痛さを感じさせる愛笑の必死な声。
しかし、その声は二人には届かなかった。
「「うおおおおお!」」
二人は喰魔から十メートルほど離れた所で立ち止まると両腕を突き出し、魔法を放つ準備を始める。
その様子にSランク喰魔は楽しそうに頬を吊り上げた。
「………!」
喰魔が不気味に笑ったかと思うと、立っていた場所からその姿が消える。
そして、いつの間にか喰魔の姿は魔法を放とうとしている二人の隊員の目の前にあった。
「「な―――」」
二人の隊員が驚きの声を上げようとした瞬間、喰魔は右手に作った拳で二人を薙ぎ払うように右腕を振るった。
次の瞬間、喰魔の目の前から二人の隊員の姿が消える。
それと同時にドンッという衝撃音と、喰魔が拳を振るった先にある壁からぐちゃりという水気を帯びた音が響いた。
二人が消えたのを見た隊員達はぐちゃりという音がした壁の方へ視線を向ける。
そこの壁面はペンキがぶちまけられたように赤い粘着質の液体がべっとりと付着していた。
その真下で首や背中、手足などの体中がおかしな方に曲がり、自身の血で真赤に染まった二人の死体が転がっていた。
「「「う、うわああああああああああっっっ!!!」」」
「「「ひいいいいいいいいいいっっっ!!!?」」」
あまりにも惨い二人の死体。
そして、いとも簡単に二人を殺害したSランク喰魔の力に多くの隊員達が悲鳴を上げる。
中には腰を抜かし、恐怖のあまりに大粒の涙を流す者まで居た。
その場に居るほとんどの隊員が怯える中、Sランク喰魔は天井に向かって大声で笑い声を上げた。
「アーッハッハッハ! イイ! イイぞ! そう来なくちゃなっ!!!」
実に愉快そうに笑うSランク喰魔。
その喰魔の目の前に野球ボールほどの大きさの光る球体が現れる。
それが先程死んだ二人の隊員の魔力だと察するには十分であった。
喰魔はその魔力の球体を右手で掴むと自身の口元まで運ぶ。
そして、行儀悪く舌を出して口の中へと頬張った。
「んあー、ん!」
頬張った魔力を喰魔は咀嚼することなく飲み込む。
喉が大きく膨らみ、ゴクリという音と共に膨らみが喉奥へ落ちていくように消えた。
「ふぃー。まあ、そこそこの魔力だな」
飲み込んだ魔力に対し喰魔は淡白な感想を述べる。
「で? 次はどいつが掛かって来てくれるんだ?」
Sランク喰魔は次の獲物を探すように金色の瞳を輝かせ、ペロリと舌なめずりをする。
そして、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべる様はご馳走を前にした肉食獣を彷彿とさせる。
そんな圧倒的強者としての余裕と態度に、春達は体と表情を強張らせるのだった。
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