5-1 三人のAランク隊員 対 Aランク喰魔(前編)
(一体なんだこれは………)
場所は変わり、Aランク隊員達と喰魔が居る洞窟の深奥部。
喰魔は目の前の光景を信じられないと言った様子で心の中で愚痴を吐き捨てた。
(何なんだコイツらは!)
自身が支配下に置いていた喰魔達。
D・C・Bランク全てを合わせて百五十体ほど居た喰魔達の大群。
しかしそのほとんどが、たった
「Aランク、といっても出来るのは雑魚を操るだけ。これなら早く
Aランクの喰魔に対し、余裕そうな笑みを浮かべる美樹。
その周囲には太く強靭な樹木が生い茂り、喰魔達の体を締め付けていた。
「グ………ギャ」
喰魔達は苦しそうに呻き声を上げ、樹木から逃れようともがくが一向に逃げられる気配は無かった。
そして、樹木の締め付けは徐々に強くなっていき、ギチギチと喰魔達を締め上げていった。
「グ………ギッ………!」
体を締め上げていく樹木に喰魔達はより一層苦しそうにもがく。
しかし逃れることは叶わず、樹木に押し潰されその肉体を霧散させた。
そこへ流れてくる白い冷気。
その元を辿っていくとまるで氷の大陸のように地面が氷に覆われ、氷像のように凍結された喰魔達の姿があった。
やがて氷像へと変えられた喰魔達に亀裂が走る。
そして、パリンッというガラスが割れるような音と共に砕け散った。
喰魔だった氷の破片が光を反射し、粉雪のように宙を舞う。
そして、その状況を作り出した張本人である恵介が口から白い吐息を吐き、目を鋭くさせて美樹のことを見つめていた。
「油断するな、と言っているだろう郡上」
「油断じゃない。これは余裕よ、よ・ゆ・う!」
「まったく、ああ言えばこう言うなお前は………」
子供のような屁理屈を言う美樹に対し、恵介は頭痛がする頭を右手で抑える。
その二人の後方に控えていた幸夫は落ち着いた声音で話しかけた。
「今ので操作された喰魔は粗方片付いたようだな」
「ええ。残りはAランク喰魔とCランクが六体ですね」
天井に逆さで佇むAランク喰魔とその周辺を飛ぶ鳥型喰魔と蝶型喰魔。
そして、その真下に控える二体の蟷螂型喰魔と獅子型喰魔とゴリラ型喰魔を視界に入れながら恵介は幸夫に話しかけた。
虫の喰魔の大きさは通常の虫のサイズとは異なり、体長が一メートル近くあった。
殺気の籠った三人の鋭い目に喰魔は息を呑み、閉じた翼に顔を隠す。
体も小刻みに震えだし、怯えているかのように見えた。
しかし、実際は全くの逆であった。
『………ククッ。アーハハハハハハハッ!』
「何がそんなに可笑しい?」
喰魔の体が震えていたのは怯えていたからではなく、笑いを堪えているからであった。
高らかに笑う喰魔により一層表情を険しくさせる恵介。
そんな恵介の問いに、喰魔は愉快そうに口元を吊り上げて語りだした。
『実に滑稽だ! まだ終わっていないというのに、もう勝ったつもりか!』
「「「!」」」
喰魔の言葉に三人は警戒心を引き上げる。
それと同時にAランク喰魔の元に残っている喰魔達が光に包まれ、苦しみだした。
それが進化のためのAランク喰魔の光だと瞬時に察した三人。
幸夫の周囲から突如として鎖が出現し、Aランク喰魔に向かって放たれる。
恵介と美樹はそれぞれ喰魔の側面へと瞬時に移動。
恵介は周囲に鋭利な氷塊を生み出し、美樹は地面から樹を生やしてAランク喰魔へと放った。
三方向からの同時に迫る魔法に喰魔は一切動きを見せない。
すると、Aランク喰魔と魔法の間に複数の陰が割って入ってる。
その陰達によって三人の放った魔法は防がれてしまった。
「「「っ!」」」
幸夫の放った鎖は体格が先ほどよりも大きくなった二体の蟷螂型喰魔によって断ち切られ、恵介の氷塊は同じように大きくなった蝶型喰魔とゴリラ型喰魔によって砕かれていた。
美樹の放った樹は大きくなった鳥型喰魔と獅子型喰魔によって切り刻まれ、炎によって焼き尽くされてしまった。
魔法を防がれたことに三人は目を鋭くさせ、自身の魔法を防いだ喰魔達を見つめる。
その表情を見たAランク喰魔は頬を吊り上げ、上機嫌な笑顔を見せた。
『貴様らの魔法は見させてもらった! おかげで相性の良い駒を選ぶことが出来たよ! アーッハハハハハッ!!』
喰魔は先程よりも大きな声で高らかに笑う。
先程まで余裕そうな態度を見せ、勝利を確信していた者達の魔法を防いだ。
そして、その表情を曇らせることが出来た。
驕った強者の自信をへし折る。
Aランク喰魔にとって、これは極上の愉悦であった。
あまりの快感に気分が高揚するAランク喰魔。
その高揚感のままに、大きな声で高らかに支配下にある喰魔達へと命令を下した。
『Aランクといっても、相性が悪ければどうすることも出来まい! さあ駒共! そいつらを殺せ!』
「「シャー!」」
「「「グルアアア!」」」
蝶型喰魔以外の喰魔がAランク喰魔の命令に答えるように叫ぶ。
そして、喰魔達は目の前に居るAランク隊員へと襲い掛かるのだった。
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