3-2 喰魔の進化
四人へと襲い掛かるトカゲ型の
向かって来る喰魔に背中合わせの春と十六夜は同時に駆けだしま。
春は拳に闇を纏い、十六夜の拳には雷が走る。
そして、二人はその拳で飛び掛かってきた喰魔を殴打した。
「「オラァッ!」」
闇を纏った拳が喰魔の体を破壊する。
十六夜の拳は喰魔を殴り飛ばし、殴り飛ばされた喰魔には雷が走る。
拳と雷撃のダメージに喰魔は耐えられず、体が霧のように霧散して消滅した。
向かって来る他の喰魔にも二人は冷静に対処していく。
喰魔たちの爪や牙や魔法による攻撃を避け、ときには打ち破り、魔法を使った拳や蹴りを叩き込む。
数の不利に負けることなく対処していく二人の姿からは喰魔との実力差が伺えた。
そんな二人を遠くから魔法で狙う喰魔達。
口の中に炎を溜める
二人が他の喰魔を倒し、隙を見せた瞬間に合わせて魔法を放とうとしたその瞬間、光の刃と炎の弾丸に体を貫かれていた。
耀と篝の二人が遠くから魔法を放とうとしていた喰魔たちを魔法で倒す中、二人の元にも喰魔が二体ずつ向かっていた。
向かって来る喰魔に対し耀は手に持った剣で喰魔の体を切り裂き、首を
篝はその場でくるりと華麗にターンを決め、その桃色の髪を靡かせながら華麗に喰魔を避ける。
そして、両手の銃で狙いを定め、放った炎の弾丸で喰魔の頭部を撃ち抜いた。
春と十六夜の二人も自分達へ向かってきた喰魔達を殲滅し、二十五体も居た喰魔も残り二体となっていた。
((((あと二体………!))))
四人全員が残った二体に狙いを定める。
春と十六夜は駆け出し、耀と篝の二人が魔法で仕留めるために狙いを定める。
そのとき、突如として二体の喰魔の足元に魔法陣が現れた。
「「「「っ!」」」」
魔法陣の出現に春と十六夜は足を止め、耀と篝はそのまま魔法による攻撃を仕掛けた。
白い光の刃と炎の弾丸が喰魔を襲う。
しかし、二人の攻撃は喰魔に命中するも大したダメージにはならず、その肌にほんの少し傷を付ける程度であった。
「ウソ!?」
「魔法が、ほとんど効いてない………!」
自分たちの魔法が効かなかったことに困惑する耀と篝。
それは春と十六夜の二人も同じであった。
四人が困惑する中、喰魔たちの足元の魔法陣が一際強く輝き始めた。
「「キシャァァァァァァ!」」
まるで激痛に耐えるような苦悶に満ちた声で絶叫する二体の喰魔。
やがて二体は魔法陣と同じ光に包まれる。
光に包まれた喰魔の体はボコッボコッ、と風船が膨らんでいくように大きくなり、その形を変えていく。
それと同時に、四人は二体の魔力が膨れ上がっていくのを感じていた。
「二体の魔力がどんどん大きくなってる………!」
「まさか………!」
魔力が大きくなっていく理由に気づいた春は表情を険しくさせる。
それは他の三人も同様であり、表情を険しくさせていく。
やがて二体の喰魔は体を起き上がらせ、後ろ脚だけで地面に立つ。
肩幅も広くなり、前脚が人の腕のように形を変えていく。
猫背ではあるが、その立ち姿は人や猿に近いものだった。
やがて変化は止まり、それと同時に二体を包んでいた光と足元の魔法陣が消滅し、光からその姿を現した。
先程までとは違い、後ろ脚が発達して人のように二足で立つ。
前脚も人の腕のようになり、先ほどまでの名残として指先が尖っている。
尾も太く強靭に発達し、頭は変わらずトカゲのような形であった。
その姿はゲームなどによく登場するリザードマンやトカゲ人間という表現が適切な姿になっていた。
四人は二体の喰魔に対し再び驚愕する。
姿の変化もそうだが、一番の理由は二体から感じる魔力に対してだった。
「ハッ。笑えない冗談だな」
「二体同時なんて………!」
目の前で起こったことに皮肉を込めて愚痴をこぼす十六夜。
口元は笑っているものの、いつものような飄々とした態度がそこには無い。
篝も信じられないといった様子を見せる。
そして春もまた、二体の喰魔を見据えて苛立たしげに呟いた。
「こいつら、Cランクに
「「ギャアアアアアア!」」
空に向かって雄叫びを上げる喰魔。
先ほどとは違い、その叫びはとても力強いものだった。
その雄叫びに背筋が強張り、強い緊張感に支配される四人。
しかし、臆することなく二体の喰魔を見据え、警戒を怠ることはしなかった。
そんな中、耀は思いつめたような表情で春に声をかける。
「………春」
「ああ」
耀の呼びかけに食い気味に春は答える。
「こいつら、この間のCランクより強い………!」
体格も雄叫びも小さければ、見た目にも凄みがない。
しかし、確実に先日対峙したCランクよりも強いことを春と耀の二人は確信していた。
張り詰めた空気の中、互いに向かい合う喰魔と四人。
先に動き出したのは喰魔であった。
一体の喰魔が体を後ろへとのけ反らせていく。
それと同時に、開けた口に魔力が溜まっていくのを四人は目で捉え、魔力感知で感じていた。
間違いなく大技。
他の三人には防げないと感じた春はいち早く前に出る。
そして、春が前に出た瞬間、喰魔の口からそれは放たれた。
「シャァァァァァァ!」
喰魔の口から放たれた砲撃。
それは、直径二メートルほどの風の砲弾であった。
(早い! でも―――)
地面を削りながら進んでいく風の砲弾。
その速さに困惑するも、目はしっかりと風の砲弾を捉えていた。
(対応できない速さじゃない!)
迫りくる風の砲弾を前に、春は全身に魔力を迸らせる。
その魔力は右拳へと集中していき、闇へと変わる。
そして、眼前にまで迫った風の砲弾に闇を纏った拳を叩き込んだ。
「っらぁ!」
ドンッという鈍い音が響く。
衝突する闇と風が一瞬せめぎ合うも、闇の力ですぐに風の砲弾が霧散する。
荒々しい暴風のかたまりだった砲弾が、そよ風となって四人の間を吹き抜けた。
しかし、そのとき春は油断してしまった。
攻撃を正面から防いだことによる達成感。
最初の溜めの素振りと間違いなく威力の高い風魔法に、次の攻撃が来るまでには時間が掛かるだろうと思い込んだ。
ゆえに、次の攻撃は防ぐことはできなかった。
「がはっ!」
腹に大きな衝撃を受け、押し出されるように口から息を吐き出す春。
そして、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまう。
その姿を他の三人は目線で追い、春が吹き飛ばされたという事実に驚愕した。
「「「春!」」」
春の名前を呼ぶ三人。
その中でも耀の声は悲痛的であり、後方へと吹き飛ばされた春の元まで急いで駆け寄っていった。
十六夜は耀が向かったのを視認するとすぐに喰魔へと向き直り、駆け出して行く。
仲間に対して非情にも見えるその行動。
しかし、十六夜も心情としては今すぐに春へと駆け寄りたかった。
だが今、自分たちが相手にしているのは二体のCランクの喰魔。
一人が怪我をしたからといって、残りの三人がいちいち構っていれば四人全員がすぐに殺されてしまう。
それを理解し、耀が駆け寄った瞬間に自分は喰魔へと向かうべきだと十六夜は判断したのだ。
十六夜の行動を見た篝も同じ考えに至る。
春へと駆け寄りたい気持ちを押し殺し、喰魔へと向き直った。
真っ先に春へと向かった耀はすでに春の側まで来ており、慌てた様子で声をかける。
「春! 大丈夫!?」
「がはっ、けほっ。ああ、なんとか。けど、魔力でちゃんとガードできなかったから結構キツイ」
耀が駆け寄るころには春は体を起き上がらせ、腹を右腕で抑え込むように抱えながら苦しそうにせき込む。
ダメージはあるものの、深刻なほどではないことに耀は安堵した。
春たち魔法師や喰魔は戦闘になると体に魔力を張り巡らせ、纏うことで身体能力を向上させる。
その魔力は同時に攻撃と防御にも使える。
しかし、不意の攻撃だったために、腹に魔力を集中させてガードすることができなかった。
それに加えて春は拳に魔法を使い、魔力を集中させたことで体に纏っていた魔力が通常時よりも少なくなっていた。
深刻ではなくとも、そのダメージは春にとってキツイものになっていた。
隊服でなければ衣服を破き、もっと大きな傷にもなっていただろう。
そんな春に対し、耀は両手を腹部へと近づけていく。
「今
「いや、いい。めちゃくちゃ痛いけど隊服のおかげで傷はないし、今俺を回復させるのは
「っ………分かった」
耀の言葉を遮り、己の腹部へ両手を翳そうとする行為を制止する春。
耀は食い下がろうと口を開くが、すぐに春の言うことに従った。
春は腹を擦ると、先ほどの自分を吹き飛ばした衝撃について考えていた。
(あの喰魔、大きな風の玉を吐いたすぐ後に小さい風の玉も吐いてたんだ)
春は自身を吹き飛ばした攻撃の正体に気づいていた。
喰魔は大きな風の砲弾を放った後、その陰に隠れるようにすぐに小さな風の玉も放っていたのだ。
最初の砲弾が大技であるため、次に放たれた玉は威力が格段に低かった。
しかし、春が魔法を使い、体に纏っていた魔力が薄れた状態では十分な威力だった。
初弾が決まれば良し。
たとえ無理でも二発目でダメージを与える。
単純に思えるが、これを実戦で行うにはそれなりの経験と技術が要る。
(Cランクに成ったばかりであんな小細工をするなんて考えにくいし、操ってるやつがかなりの手練れだ)
喰魔たちを操っているであろう何者か。
その存在に対し、春はより警戒心を強める。
そして、勢いよく立ち上がると耀へと声を掛ける。
「急いで戻ろう!」
「うん!」
そして、二人は前線にに戻るために駆け出した。
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